11 復讐者と魔王、ふたたびの対峙1

『では、さっそく聞こう。クロム・ウォーカーよ。黒の祭壇を起動させる鍵は手に入ったのか?』

「ああ、色々とあったが最終的には手に入れることができた」


 魔王の問いに答える俺。


 そう、俺は今や自分に宿った【闇】の力のすべてを引き出せる。


 とはいえ、【闇】によってどんなことができるのか、どんなスキルが存在するのか、その効果や限界などは? といった疑問については解明できていないことも多々ある。


 何せ俺のスキルや【闇】については、ラクシャサは一から十まで教えてくれるわけじゃないからな。


「俺からも質問だ。【闇】について──お前が知っていることを色々と話してもらうぞ」

『汝は我との約束を守った。無論、次は我が汝に応える番だ。なんなりと聞くがいい』


 鷹揚に告げる魔王。


『我の知識の範囲内でなら、どのような問いにも答えよう』

「じゃあ、さっそく──」


 いい機会だから、以前からの疑問をまとめてぶつけることにした。




「──なるほど、な。いろいろ参考になった」


 俺は魔王から一通りの知識を得て、うなずいた。


 魔王としての──いや、先史文明レムセリアの人間としての知識。


 そう、魔王とはかつてはレムセリアの人間だったらしい。

 強大な【闇】を宿し、魔王という存在に生まれ変わった……それがヴィルガロドムスだ。


 衝撃的な事実と言えばそうなのだが、今の俺にはあまり興味がない話だった。


 俺は──【闇】をより強く、より高精度に扱うことができれば、あとのことはどうでもいい。


『我が知識が役に立ったのであれば何よりだ』


 と、ヴィルガロドムス。


『では、本題に移ろう。鍵を出すがいい、クロム・ウォーカー。『闇の祭壇』の起動を始めよう』

「分かった」


 俺は『鍵』を呼び出した。


 こいつは俺の意思一つでいつでも召喚できる。


 何もない空間から俺の右手にぽとりと落ちたのは、漆黒の鍵。

 一見してなんの変哲もない鍵である。


 俺は祭壇にその鍵を差しこんだ。


 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……んっ。


 同時に、周囲が鳴動を始める。


 辺りが、黒い霧状の何かに包まれていく。

 濃密な【闇】に──。


『くくく……ふははははは! 満ちてくるぞ、【闇】が!』


 ヴィルガロドムスが吠えた。


 喜悦の咆哮だった。


「嬉しそうだな、魔王」


 一方の俺は冷ややかだ。


『くおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』


 ヴィルガロドムスが──巨大な髑髏が大きく振動したかと思うと、下部から黒いエネルギーが広がっていく。


 あれは、体か。


『くくく、我は残留思念にすぎぬ。いや、過ぎなかった……だが、これだけの量の【闇】を得た今は、ヴィルガロドムスそのものといっていいほどに強大化できた!』


【闇】のエネルギーで作った体に、髑髏の顔──異形の巨人と化したヴィルガロドムスが俺たちを傲然と見下ろす。


「魔王復活……か」


 こうなることは予想がついた。


 相手は魔王である。


 善意で俺に力を貸してくれるはずがない。

 善意で俺に情報を与えてくれるはずがない。


 当然、自分に利があるからこそであり、俺のことを利用するつもりしかなかったのだろう。


『互いに利用し合えばいい』といった雰囲気を出していたが、実際には一方的に俺を使い捨てるつもりだったのだ。


「分かっていたさ、そんなことは」

『もう用はない。消えるか、それとも我がしもべとなるか。選べ』


 と、ヴィルガロドムス。


「死か従属か……お前はユーノと戦ったときにも同じ提案をしたんじゃないか?」


 俺は苦笑した。


『そのとおりだ。奴の力は、ただ消してしまうには惜しかったからな。そして汝はもっと惜しい。人でありながら、それほどまでに深い【闇】を持つ者を我は知らぬ。できれば、我が片腕として永遠に働いてもらいたいものだ』


 いかにも悪の大魔王然とした台詞だった。


「断る」


 俺は即答した。


 当たり前だ。

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