4 レムセリアの遺跡へ
俺は、魔王との対話の内容をフランジュラスに話した。
「なるほど。では、遺跡探索を終えましたら、ここに戻ってくるとよろしいでしょう」
と、フランジュラス。
「クロムさんが自力で魔王様の残留思念を呼べたのは、特殊な瘴気を充満させているこのアジト内だからこそ。他の場所ではそうそう上手くいかないでしょう」
「遺跡を出た後──もう一度ここに来て、魔王の残留思念を呼ぶ必要がある、ということか」
フランジュラスの言葉に、俺は小さくうなった。
だとすれば、まだ彼女たちを始末するのは早い。
無論、彼女の話がどこまで本当なのかは分からない。
が、俺が求める力や戦術を得られるまで、魔王や魔族には手を出さないほうが得策だろう。
極論、スキルで消し飛ばすのはいつでもできる。
「分かった。また後で……な」
「ご武運をお祈りいたしますわ、クロム様。無事にお戻りになられましたら、祝福の口づけをさせてくださいませ」
「それは駄目!」
「それは駄目です!」
悪戯っぽく微笑んだフランジュラスに、シアとユリンがものすごい形相で言い返した。
「ど、どうした、二人とも……?」
今のはフランジュラスの冗談だろうに。
いくらなんでも過剰に反応しすぎだ。
「あら、本気ですけれど」
俺の内心を読んだかのように、艶然と笑う吸血鬼真祖。
「むむむ、油断ならない……!」
「クロム様の唇は私たちが守ります……っ!」
シアとユリンはますます険しい表情になった。
「いっそ、奪われる前にあたしがクロム様の唇を……」
「──シアさん?」
「はっ!? ち、違うの、今のは心の声をつい……じゃなかった、あたし、そんなこと思ってないからっ! 違うからねっ!」
「ふふ、そういう分かりやすいところ、好きですよ。シアさん」
顔を赤らめ、慌てたように手を振るシアと、にこやかにほほ笑むユリン。
さっきからなんの話をしているんだか……。
シリアスな空気はすっかり壊れてしまったな。
その後、俺たちはフランジュラスと別れ、自室に戻った。
ふたたび三人でベッドに雑魚寝だ。
「……くっつきすぎじゃないか、二人とも」
なぜかシアもユリンも、さっきよりも俺に密着してくる。
柔らかな胸の弾力や肌の感触が両側から俺を挟んでいた。
「あたしは【従属者】としてクロム様をお守りする使命がありますので」
「私もです」
「ま、まあ、いいんだが……明日は出立だ。休養をきっちり取ってくれ、二人とも」
そして──翌朝。
俺たちは部屋を出て、ダンジョンの出口へと向かった。
出立することはフランジュラスに言ってあるし、彼女からラギオスやマルゴにも伝わるだろう。
と、前方に一人の騎士がたたずんでいた。
精悍な中年騎士──マルゴだ。
「レムセリアの遺跡に向かうとか」
すでに情報を得ているらしい。
「気を付けてな、クロム」
「……お前に言われる筋合いはない」
俺は苛立ちを隠せず、そう言った。
今すぐ消し飛ばしてやりたい衝動を、なんとか抑える。
お前への復讐は、近いうちに果たす。
まずは遺跡探索だ。
戻ってきたら魔王と対面し、力を得た後に魔族も、そしてマルゴも一掃する。
「私は私でやるべきことがある。またどこかで会うかもしれんな」
「ああ、近いうちに再会できるさ」
俺は口の端を歪めて笑った。
「ご武運を、英雄騎士殿」
「達者でな、かつての仲間よ」
俺たちは皮肉げに別れの挨拶を交わした。
ダンジョンから出ると、朝日がまぶしかった。
「クロム様」
シアが俺を思いやるように、そっと腕を絡める。
「大丈夫だ。一つ一つ、やるべきことを片付けていくさ」
マルゴも、どんな力を隠しているか分からない。
まずは力を得ることだ。
今戦っても、おそらくは俺が勝つ。
だけど──それを限りなく百パーセントに近づけるために。
確実に復讐を遂げ、確実に奴らに地獄を見せる。
そのために。
今はまず──レムセリアの遺跡を目指すんだ。
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