7 女剣士ファラ

 SIDE ファラ


 ファラはリジュ公主の城に招かれていた。


 魔王軍の残党を束ねる高位魔族の一体──ラギオスを討った祝賀パーティである。


 ファラは、普段はポニーテールにしている白銀の髪を、今は高く結い上げていた。

 褐色の肌に純白のドレスがよく映える。


「あれが勇者パーティの一員、ファラ様ね……」

「素敵、なんて凛々しいの……」


 貴族令嬢たちから感嘆の声がもれた。


 ファラは軽く会釈した。

 たちまち彼女たちの顔がポウッと赤くなる。


 いずれも初心そうな少女たちである。

 ベッドに誘って、思う存分に蕩かせてあげたい──。

 そんな欲情が煮えたぎる。


「魔王亡き今、最強の魔族の一体であるラギオスを討ったとか。さすがはファラ殿だ」

「世界を救った勇者パーティの一員だけのことはある」

「しかも若く、美しい──」


 別方向からは、大臣たちの賞賛が聞こえた。


 ──先日、彼女は勇者ユーノや騎士マルゴとともに魔王軍残党を束ねる高位魔族ラギオスと戦った。

 ただ、彼女自身はラギオスに敗れ、後を引き継いだユーノと途中からやって来たマルゴが倒したのだが。


 だから、ファラは満足していなかった。

 賞賛の言葉に屈辱さえ覚えるほどだ。

 と、


「ちっ、勇者パーティとかいっても、ユーノにくっついていっただけだろうに」

「おおかた、勇者に色目でも使ったんじゃないか」

「いい体をしているからな。ご相伴にあずかりたいくらいだ、はは」


 今度は、馬鹿にしたような声が聞こえた。


 大臣の中には、魔王退治の英雄の一人として国民から絶大な人気を誇るファラに嫉妬したり、やっかんでいる者も少なくない。

 彼らもそんな連中のようだ。


 こちらをチラチラと見る視線には、嫉妬と羨望が混じっているように思えた。

 ついでに、ねっとりとした欲情も。


(あたしに聞こえないように話してるつもりなんだろうけど……あいにく耳がいいのよね、あたしって)


 内心で笑みをもらすと、ファラは彼らに歩み寄った。


 ちょうど気持ちがモヤモヤしていたところだ。

 彼らで遊んで、晴らさせてもらうとしよう。


「面白そうな話ね」

「ひ、ひいっ」


 大臣たちはいっせいにビクッと体を震わせた。


「ファラ……殿」

「ユーノは大事な仲間だけど、男としてはちょっと……ね」


 ファラが鼻を鳴らす。


「女慣れしてないし、言動がちょっと童貞臭いし。あたしの好みじゃないかな。色目を使うなんてあり得ない」


 そう、彼を男として意識したことなどない。

 性経験豊富なファラを満足させるだけの手練手管を、ユーノが持っているとはとても思えない。


「そ、そうですか……」

「それは失礼いたしました……」


 大臣たちは完全に気圧されている様子だ。


「だからね」


 ファラはにっこりと微笑んだまま、さらに彼らに歩み寄った。


「勇者に色目を使っている、なんて心外。あたしの名誉にかけて──」


 口元に笑みが浮かぶ。

 肉食獣さながらの、どう猛で凶悪な笑み。


「決闘を申しこむね」

「えっ、いや、あの……」


 普通なら大臣に決闘を申しこむなど許されるはずがない。


 だが、ファラだけは別だった。


 このリジュ公国が生んだ、救世の英雄である。

 すべてにおいて──特別待遇を受けていた。


 それは大臣たちも分かっているのだろう。


「ひ、ひいっ、許してください」


 ファラの性格の苛烈さは知っていても、まさか決闘を挑んでくるとは思わなかったのか。

 お気楽な連中だ、と内心で蔑む。


「──許すと、思う?」


 ファラは冷え冷えとした目で告げた。


 嗜虐的な気持ちが燃え上がる。


 胸の芯に甘い陶酔感が駆け抜けた。




「ぎゃ……ぁぁぁぁ……っ」


 ──数十分後、城の外れの広場に彼らの苦鳴が響いた。


 ファラによって四肢を切り落とされ、激痛にのた打ち回る彼らの苦鳴が。


「死なないように上級の僧侶を用意しておいて正解だったね。今すぐ治癒呪文をかけさせるから、命だけは助かるでしょう。命だけは、ね」


 彼女は冷然と彼らを見下ろした。


 剣についた血のりをぬぐい、鞘に納める。

 そのまま彼らを一瞥すらせず、背を向けて去っていった。




「あんな雑魚どもを相手にしても燃えないのよねー、はあ」


 館に戻った後も、今一つ気持ちは晴れなかった。


 彼らを叩きのめし、自分を蔑んだ報いを受けさせてやったときには胸がスッとしたが、それも一時的なものだ。

 やはりファラがもっとも高ぶるのは極限状態での戦闘である。


 この間のラギオスとの戦いは、敗れはしたものの、今日よりもずっと充実感があった。

 思い出すだけで興奮がこみ上げ、下腹部が甘く火照ってくる。


「ふうっ、ちょっとムラムラしてきたかな」

 ファラは舌なめずりをした。


 戦いでスッキリできないなら、別のことで果たすとしよう。

 体中に、ますます妖しい熱が駆け巡っていく。


 ファラは七つある寝室の一つに赴いた。

 呼び鈴でお気に入りの三人を呼び出す。


 あどけない顔立ちの少年。

 地味な外見ながら、ベッドでは驚くほど乱れる三十路前の女。

 精悍で筋骨たくましい中年男。


 やって来た愛奴たちを見回し、ファラはうっとりと微笑んだ。


「お召しいただき、ありがとうございます。ファラ様」


 三人はいっせいにひれ伏した。

 ファラの爪先に、一人ずつ口づけしていく。


「さあ、全員で心を込めて奉仕するのよ。あたしを気持ちよくさせて」


 女剣士は妖しい笑みを浮かべた──。

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