17 復讐者のパーティ

 ヴァレリーとマイカを魔導装置に閉じこめ、永遠に続く苦痛を味わわせる──これで奴らに対しては決着だ。


 ヴァレリーはもはや再起不能だろうが、マイカは【光】を持っているだけに、万が一にも新たな力を得て、なんらかの逆襲を企てる──という可能性はゼロじゃない。


 だが、奴には俺の鎖の一部を付けてあるから、仮にそういった力に目覚め、行使すれば、すぐに俺にも分かる。

 一種の探知機代わりである。


 まあ、逆襲に来るなら来たときのことだ。

 俺たちは研究所を出た。


「ラクシャサ、一つ聞きたい」


【闇】の端末たる美女に問いかける。


『なんでしょう、宿主様』


 虚空からにじみ出るようにして、漆黒のドレスをまとった美女が現れる。


「マイカが最後に使った技──あれは、なんだったんだ?」


 黒と金の混じりあった槍が、俺の【固定ダメージ】の鱗粉を跳ね除けた。

 今までのマイカのスキルでは対抗できなかったはずの【固定ダメージ】に、ある程度抗ってみせたのだ。


 結局は、シアやユリンの助けもあって、奴を撃破することができたわけだが──。

 もしも、ユーノが同じような力を身に着けていたら厄介だ。


『あれは【光】と【闇】の混合術式──いわば【混沌】のスキルといったところですね』


 ラクシャサが言った。


「【混沌】……?」

『【光】と【闇】の属性を併せ持つ、非常に強力なスキルです。あの少年に発現したのは、もともと素養があったのか、土壇場まで追い詰められたからか、あるいは別の要因なのか──そこまでは分かりませんが』

「俺も同じようなことができるのか?」

『可能性はあります』


 と、ラクシャサ。


『ただし──宿主様は『闇の鎖』の呪縛を受けているため、スキルの行使にかなりの制約を受けます。【混沌】を身に着けるのも、それを行使するのも容易ではないでしょう』

「そうか……」

『ですが、もしも身に着けることができたなら、【光】を持つ者と戦うときに大きなアドバンテージになります』


 ラクシャサの口ぶりからすると、俺が【混沌】とやらを使えるようになる手立てを知っているような気がした。


『リジュ公国──と人間たちが呼ぶ国に、古代遺跡が点在しています。その中の一つに』


 案の定、ラクシャサは微笑みを浮かべ、


『ただし、それを得るためには宿主様が試練を突破しなければなりません』

「試練……ね」


 俺は小さく息をついた。


黒の位相クリフォト』での戦いでは、俺がユーノを圧倒した。


 だからといって、気は抜けない。


 俺の【闇】が力を増しているように、奴の【光】だって強くなっていくかもしれない。

 確実に奴を打ち倒せる力を得ておきたい。


 返り討ちにあっては、死んでも死にきれないからな。


「じゃあ、次の目的地はリジュ公国だな」


 勇者パーティの一人、女剣士ファラの故国だ。

 さらなる『力』を得ることと、ファラへの復讐と──二つの目的を同時に果たせそうだった。


 幸い、ここはラルヴァとリジュの国境沿い。

 公国内まですぐの距離である。


「あの……一つよろしいですか、クロム様」


 シアが横から話しかけた。


 ……ん?

 妙に不機嫌そうな顔だが。


「その人──いつもの【闇】ですよね? 姿がやけにはっきりと見えるんですけど……」

「……ああ、そういえば紹介してなかったな」


 何せ、俺が彼女の名前を知ったのは『黒の位相クリフォト』に移動してからのことだし、元の場所に戻ってからはマイカとの戦いで、説明する暇がなかった。


「こいつは【闇】──正確には、その力の一部が具現化した存在らしい。端末とか呼ばれていたが……名前はラクシャサだ」


 俺は二人に言った。


『あらためて……よろしくお願いしますね、【従属者】さんたち』


 ラクシャサが黒いスカートの端をつまみ、優雅に一礼する。


 それから、ふたたび俺の腕に自分の腕を絡ませた。

 むぎゅっ、と柔らかな胸の膨らみが俺の二の腕に押し当てられた。


「……クロム様にくっつきすぎじゃないですか?」


 シアがますます不機嫌そうな顔になった。


「シアさん、ヤキモチですね……可愛いです」


 微笑むユリン。


「えっ!? あ、ちょっ、ち、ちがっ!? あたしは、そのっ」


 シアは、たちまち慌てたように両手を振った。


「ますます可愛いです」

『初々しいですね。でも──宿主様には、もう少し大人の女性の方が釣り合っているかもしれませんよ』

「大人の女性……」


 ラクシャサの言葉を繰り返し、つぶやくシア。


『私自身にそういった経験はありませんが……これまで様々な宿主を見てきましたから、知識は豊富です。よろしければ、後で教えて差し上げましょう』


 と、ラクシャサ。


 ……おい、さっきからなんの話をしている。


『きっと宿主様を誘惑するときにも役にたちましょう』

「クロム様を……誘惑……」

「あ、シアさん、鼻血出てますよ!」

「きゃあ、ちょっと想像しちゃったから……ああ、もう……恥ずかしい」


 わいわいと騒ぐシアとユリン、そして微笑むラクシャサ。


「一気にかしましくなったな……」


 俺はため息まじりにつぶやいた。


 俺の、仲間たちパーティは──。

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