第239話 平行世界の一部が重なり合って
「そんな彼は、仲間を虐げている日本の探索協会を憎んでいますが、世界を破壊しようなんて思っていません。やったとしても探索者が活躍できる社会に作り替えることぐらいでしょう」
「今回の件とユーリは無関係だと考えているのだな?」
「いえ、関わっている可能性はあります」
「どういうことだ?」
先ほどの説明と話が食い違っていることもあって、豪毅は怪訝な顔をした。
黙っているが、早く説明をしろと催促している。
「探索協会は日本に大きな影響を与える組織です。内部から変わることは難しい。だから外部……世論を変えるほかありません」
「だが、それは不可能だ」
政府やメディアと強いコネクションを持っており、またダンジョン探索に必要な人材を抱えているため、探索協会を攻撃するような世論にはなりにくい。
仮に今の探索協会はおかしい、変われとなったとしても、表面上の変化だけに留まる。
探索者を使い捨てる本質までは変わらないだろう。
「ですね。だから、ユーリさんは日本社会の破壊と創造を狙っているはずです」
「ふむ……」
豪毅は顎を触りながら考え事をする。
いくつもの未来を想像しては否定していく。それでも最後に残った、否定しきれない可能性が口からぼそりと出た。
「力があっても数が足りない。だから教団を利用したのか?」
「恐らくは」
「渋谷の事件には関わっている可能性が高いな」
正人は首を振って肯定した。
指名手配しても捕まらないのも、教団に匿われているのであればわかる。
集団としての強さも手に入れたユーリは、これからも現在の日本社会を破壊するために活動を続けるだろう。
そんなことをされて探索協会が黙ったままではいない。今回の事件を使って教団の解体に向けて動き、ユーリの痕跡を見つけようと動く。
「貴重な意見ありがとう。参考になったよ」
「お力になれて良かったです」
「では、もう少しだけ我々に協力してくれないか?」
「内容次第ですが、かまいませんよ」
「ありがとう。日本最強の探索者は頼りになるな」
大声で笑いいるが、豪毅の目だけは鋭い。
ユーリと別の大きな問題となりうる話をするつもりなのだ。
「異界での出来事は他の目撃者からの情報である程度は把握しているが、私は正人君の話を聞きたい。アレは何だったのだ?」
「難しい質問ですね。私にも正確なことは分かりません」
「根拠がなくても構わん。何でも良いから感じたことを教えてくれ」
「そうですね……」
どこまで話すべきか正人は悩んだものの、この際だから全て伝えてしまえと決める。
「異界はダンジョン、もしくはそれに近しい空気を感じました」
戦闘中に『スキル昇華』が発動したことから確信していることではあるが、スキルの詳細を伝えたくないため曖昧な言い方になった。
「みんなもそうだよね?」
「はい。ワタシもそう感じました。あれはダンジョンと同じような空気でしたね」
「私とヒナタは地下にいたので、よくわかりません」
冷夏たちがいた場所も異界化の影響は受けていたが、地上に比べて変化は少なかった。異界化したこと自体に気づけてなかったほどだ。
「ふむ。では蛇神という存在はダンジョンを作ったのか?」
「もしくは呼び寄せた、ですね」
「どういうことだ?」
ついにこのことを話すタイミングが来た。正人は覚悟を決めて話し出す。
「いきなり地球にダンジョンが出てきたこと……不思議に思ったことはありませんか?」
「むろんあるぞ。だがあれは、時空のゆがみによって平行世界の一部が重なり合ってダンジョンとして現れた、という結論が出ていたと思うが」
「実は違うと言ったらどう思います?」
「非常に興味深い。詳しく聞かせてくれ」
「蛇人は言葉を喋っていました。これは報告書に書いたからご存じだと思います。けど一つだけ、不確定な情報だったので記載しなかった内容がありました」
これから言うことが嘘だとばれないよう、心を落ち着かせ、いつもと同じ表情でいるよう意識する。
「一つだけ私にも分かった言葉があるんです。それが侵略というものでした」
「ほう。知能ある生物が侵略という言葉を使ったのか……」
「我々が使う言語とは全く違ったので聞き間違えの方が高いと思います。しかし、侵略者と仮定すれば、現地の言語を学ぶこともあるでしょう。絶対にないと言い切るのは難しいかと」
世間の常識とはかけ離れた見解に、豪毅は驚き黙り込んでしまった。
ダンジョンは未知なる部分が多い。平行世界の話も現象を説明するために使われているだけで、裏付けるような証拠は一切ないのだ。
また仮に侵略者がいるとして時空を歪めて世界の一部を重ねる方法だったと考えれば、実は繋がっている話でもある。原因が自然発生的なものなのか、それとも作為的なのか、その違いしかないのだから。
「もし侵略者がいるとしたら、何を狙っていると思う?」
「ダンジョンを使って住みやすい環境を作り、地球そのものを手に入れる。私ならそうしますね」
「確かにな。私もそうする」
荒唐無稽だといって斬り捨てられない。豪毅は、そう判断したのだ。これによって正人の抱えていた問題が、探索協会へ伝わったことになる。
まだ行動に移す段階ではないが、確実に疑惑を植え付けられた。今回の会談で最も大きな功績となるだろう。
「今日は勉強になる話ばかり聞かせてもらった。大変助かるよ」
重要な話題は全て終わったので豪毅は力を抜いて背もたれに寄りかかる。ヒナタを見た。
「お腹は減ってないかね? お菓子があるんだが良ければ食べてくれ」
「はーい! 食べたいです!」
元気よく返事したヒナタを満足そうに見ると、谷口を使ってお茶や菓子を持ってこさせる。
その後は、お互いに他愛のない雑談を一時間ほどしてから、会談は終了となった。
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