第128話これは……?

 ボス部屋を見つけたものの、すぐに入ることはなかった。

 四人はドアの前で小休憩を取っている。


「もう一度確認するけど、扉を開けたらすぐに私がアイアンアントクイーンの前に立って盾役をする」


 話を聞いた三人は小さく首を縦に振った。

 パーティーの中で最も戦闘経験が多く、大量のスキルを持つ正人が適任だ。

 誰も反対することはない。


「里香さんとヒナタさんは、取り巻きのアイアンアントが出てくるまでは待機、冷夏さんは背後から怪力のスキルを使って、アイアンアントクイーンを攻撃して欲しい」


 何度も確認してきた役割分担だ。スキルによる圧倒的なパワーを誇る冷夏がダメージを与える役で、回復系スキルを覚えている里香はヒナタと一緒にアイアンアントを潰す。数が多くなければ傷を負うことなく完勝できるだろう。そのぐらい二人と、アイアンアントには実力の差があった。


「ドアは開けっ放しにして、予想外のことが起こったら即時撤退。いいね?」

「「「はい!」」」


 元気な返事を聞いた正人は満足そうに笑うと、短槍を強く握って扉の前に立つ。


「開ける」


 扉を押すと、空気を振動させる音を出しながら自動で開きだした。


 ボス部屋の中も天然の洞窟のように、地面や天井はでこぼこしている。周囲は薄暗い。正人たちは棒状の使い捨てライトを折って点灯させると、部屋にいくつも投げ込んで、入り口付近の光源を確保した。


 正人が短槍を構えながら部屋に入る。


 奥は薄暗くて見えない状況だが、探索スキルに反応はないので使い捨てのライトをさらにばらまいていく。部屋の奥まで見通せるほど部屋が明るくなった。


「これは……?」


 壁にはびっしりと、アイアンアントの卵があったのだ。

 探索教会にあった報告書には、卵の存在は記載されていなかったので、異常な事態ではある。だが、想定外のモンスターが出現したわけではないので、撤退するほどではない。


 安全を確認してから正人は片手を上げると、里香たちも部屋に入った。


「卵……」


 里香たちも当然のように、この部屋にある異変には気づく。

 判断を仰ぐために視線は正人に集まった。


「まだ許容範囲内だ。このまま行く。奥に行けばアイアンアントクイーンが出現すると思うから気をつけて」


 続行の判断に三人は同意した。里香とヒナタは左右に分かれ、正人と冷夏は奥に進む。しばらくして魔方陣が浮かぶと、全長で五メートル近くはあるアイアンアントクイーンが出現した。それと同時に、正人は短槍を前に出して走り出す。


『突撃:槍を前に出しながら走ると威力が増す』


 新しくスキルを覚えた直後に使用する。穂先を中心に短槍、そして正人自身が淡く光ると進むスピードが上がった。このままアイアンアントクイーンを貫く軌道だったのだが、正人の眼前に新しくアイアンアントが出現する。


「ギィ」


 スキルを中断することはできず、短槍は召喚されたアイアンアントの頭部を貫いた。勢いが止まり立ち止まると、正人は短槍を引き抜く。青い血を出しながら黒い霧に包まれ、アイアンアントは消滅した。


 新しいスキルを覚えて喜ぶ暇などない。アイアンアントクイーンの大顎が正人に迫っている。


「たぁあ!」


 横に回り込んだ冷夏が薙刀を振り下ろして頭部に当てるが、スキルは使用できなかったため、浅い傷を作るだけ終わった。アイアンアントクイーンの頭部が冷夏の方を向く。


 ターゲットが移ったと察した冷夏は、すぐに後ろに下がると、正人が前に出て短槍を突き出す。冷夏を攻撃しようとしていたアイアンアントクイーンは、動作を中断して前足で防いだ。


「お前の相手はこっちだ!」


 大声を出した正人は、再びアイアンアントクイーンの気を引くことに成功した。


 前足を二本持ち上げると振り下ろされる。正人は冷静に動きを見ながら、左右に動いて避けた。


 ――短槍術。


 穂先が淡く光ると頭部を狙って槍を突き出す。アイアンアントクイーンは、前足で柄を叩いて軌道を変えると大顎を開いて正人に噛みつこうとした。


 短槍が横に動く勢いに抵抗している正人は、動けない。


 ――短距離瞬間移動。


 スキルを使ってアイアンアントクイーンの頭上に回避。そのまま穂先で貫こうとするが危険を察知されてしまい、前足を器用に使って正人の体を叩きつけた。


「ぐッ」


 横に吹き飛んで地面を転がる。立ち上がると同時に正人はスキルを使った。


 ――自己回復。


 おとり役として十分な役割を果たした正人のおかげで、冷夏は攻撃する隙を見つける。


 ――怪力。


 覚えているスキルを使い、大きく振り上げた薙刀を腹部にめがけて振り下ろす。ガンと、金属同士がぶつかりあった衝突音とともにアイアンアントクイーンの外殻を突き抜けて、刃が半分ほど埋まった。


 傷口からは緑色の液体が流れ出ており、間違いなく大きなダメージを与えたことがわかる。


 戦闘開始直後から危険な状態に陥ったアイアンアントクイーンは、出し惜しみする余裕などない。体を大きく持ち上げて大顎をカチカチ鳴らすと、床からいくつもの魔方陣が浮かび上がる。


「召喚される前に叩く!」


 回復を終えた正人は走り出すが、少し遅かった。目の前にアイアンアントが三匹出現して、行く手を阻む。立ち止まると、正人は短槍を巧みに使って戦いながら周囲の状況を観察する。


 里香、冷夏、ヒナタの三人も同様にアイアンアントと戦っていて、足止めされている。アイアンアントクイーンは自由に動ける状態だった。


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