第97話スキルで殺します!

 大蛇が体を伸ばし、口を大きく開いて里香に襲いかかった。

 勢いはあるがレベル二になった彼女で見切ることは可能。横に一歩ズレて回避すると、伸びた体に片手剣を叩きつける。


 ガンッ!


 金属を叩いたような乾いた音が洞窟内に響いた。

 アダマンタイト製の剣は頑丈ではあるが、それだけだ。大蛇の鱗を切り裂くには鋭さが足りなかった。痛みに鈍い大蛇はとぐろを巻いて、里香を絞め殺そうとする。


 周囲を囲まれてしまった里香は跳躍して逃げようとしたが、途中で掴まってしまい左足だけが巻き付けられてしまった。バキバキと音がなって、骨が砕かれる。


「ッ!!」


 思わず悲鳴を上げそうになったがこらえ、痛みで涙目になりながらも大蛇の動きを見る。口を大きく開き、毒液を垂らしながら里香を飲み込もうとしていた。


「嬢ちゃん!」


 近くに落ちていた石を拾ったユーリが投げた。正人と違って投擲スキルは持っていない。力任せに投げただけだが、レベル三の身体能力を以てすれば、それだけでも驚異的な威力を発する。


 油断していた大蛇の右目に突き刺さり、ターゲットを里香からユーリに変える。


「ワタシを無視しないでね!」


 今度は里香が剣を投げると、左目に突き刺さる。これで両目を潰したのだが、蛇には体温を知覚するピット器官があり、夜間見通しが悪い状況でも動物の体温を察知できるのだ。特にこの大蛇は他の蛇より優れているため、目が潰されても生物の輪郭はハッキリとわかり、動きに支障はない。


 ターゲットが二つもある中で、大蛇は既に捕まえている里香を狙うことにした。丸呑みしようと再び牙をむく。


 ――投擲術:爆発。


 アイリスを蜘蛛の糸から助け終わった正人が、投擲と魔力爆発のスキルを融合した新しいスキルを使った。大蛇の頭部に刺さると爆発する。鱗は吹き飛び、肉が焼ける。大蛇の顔が半分吹き飛んでいた。里香を締め付ける力が弱くなる。腕を使って抜け出すと、片足で地面に着地してゴロゴロと転がり、大蛇から距離を取る。


 ――自己回復。


 大蛇が転がってもだえている隙に、里香は砕かれた骨を回復させた。


 ユーリと里香は武器を手放してしまい攻撃手段はなく、正人は復元スキルを使って修復したナイフが残っているが、体をくねらせて暴れている大蛇には近づけない。安全性を優先させるのであれば、遠距離から叩くしかなかった。


「スキルで殺します!」


 そう宣言した正人は『ファイヤーボール』や『エネルギーボルト』のスキルを連発する。特に鱗が剥げ落ちた顔中心に攻撃しているので、効果は非常に高い。頭はほとんど原型を残していない。しかし、大蛇が暴れる動きは止まらなかった。


「不死身か……?」


 普通のモンスターであれば実体が維持できずに黒い霧になって消えるはずなのに暴れ続けているのだ。思わず、正人が攻撃の手を止めてつぶやいてしまうのも無理はなかった。


「鈍いだけだ! 全員、離れろ!!」


 ユーリは警告したのと同時に大蛇から離れ、里香も続く。正人の頭上に大蛇の尻尾が迫ってきた。回避しようとするが、足下にアイリスがいることを思い出す。


 死んでしまえば美都の強奪スキルは使用できない。正人はアイリスの手を持って一緒に逃げようとしたら、振り払われてしまった。


 大蛇の尻尾が直撃するコースだというのにも関わらず、アイリスは立ち止まったまま動こうとせずに叫ぶ。


『さあ、早く私を守りなさいッ!!』


 三度、正人たちと戦ったことでアイリスは、戦闘で殺すつもりがないことを感じとっていた。ピンチになれば必ず助けようと動く、だから今は動かない。そういった賭に出たのだった。


「正人ッ!! あの女を殺すなよ!!」

「分かってます!!」


 逃げだそうとしていた体勢を変えて、正人はアイリスの前に立って頭上に半透明の盾を出現させる。大蛇の一撃を受け止めた。


 その隙を狙って、アイリスは誰もいない方に向かって走り出す。大蛇が暴れている間は追跡できない。逃げ切れるだろう。そんなことを彼女は考えていたが、足を絡め取られてしまい倒れてしまった。


 足下には蜘蛛のモンスターがいた。大蛇に倒されたはずなのに実体を保っている。瀕死ではあるが、まだ存在できているのだ。


 生物への憎しみだけで体を動かし、糸を引っ張りアイリスをたぐり寄せる。藻掻きながら逃げだそうとするが、腕や体にも糸が絡みつき、まともに動けなくなってしまった。


 顔が半壊した蜘蛛の顔が近づく。アイリスの体に牙が突き刺さる。毒液が流れ込み、苦痛を感じているのにも関わらず、体を動かすことは出来ない。声すら出せない。筋肉が弛緩しているのだ。アイリスがよだれを垂らして動かなくなる。


「クソったれが!!」


 ユーリが急いで駆けつけて大蜘蛛を蹴り飛ばし、アイリスを抱きかかえるが、すでに死んでいた。


 大蛇が力尽き黒い霧になって消えると、正人はファイヤーボールで蜘蛛を焼き殺しユーリに近づく。


「すみません。守り切れませんでした」

「……謝る必要はない。お前はあの場で最善の行動をした」


 話しながら、ユーリはアイリスに絡んでいた糸を引きちぎって体を漁っていく。身分を証明するような物は一切なかったが、目的の物は見つかった。ユーリの手にはカードが一枚ある。


「それに、目的の物も見つけたぞ」


 アイリスが覚えていたスキルは奪えなかったが、ユーリは健康長寿のスキルカードを手に入れて暗い笑みを浮かべていた。


 正人や里香だけなく、離れた場所にいる美都ですら引くほどだ。全身から悪意のオーラが出ているようにすら感じた。純粋に依頼を達成した喜びなどない。裏で何かを企んでいる。そう感じさせるには十分すぎるほどの態度だった。


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