第20話 デーモンフェスティバル
やぁ皆さんこんにちは。
突然だけど、みんなはお祭りって好きかな?
春夏秋冬どの季節にもお祭りってあるよね。ひな祭りや花火大会、遠足や餅つき。
まぁ後半はお祭りとは言わないかもしれないけど些細な事さ。
お祭り、フェスティバル、カーニバル。
言い方は様々だが、世界には見たことも無いお祭りが沢山ある。
さてさて、ここ
とまぁお祭りの事を長く語っても話が見えてこないだろ? なんでこんなどうでもいい事を言ってるか気になるだろう?
日本語ってなかなか面白くて『祭り』って一言で言っても色んな言い回しがあるんだ。
『お祭り騒ぎ』――この言葉は俺達の学園にピッタリだね。どんな時でも騒いで遊んで一丸となって楽しむことができるのさ。
『血祭り』――うん、まぁこれはアレだね。祭りっていう賑やかな言葉なのに、前にくる文字で戦慄を覚えるよね。どこかの部室で恐怖の旋律が奏でられてるなんて些細な事さ。
『後の祭り』――うん、まぁこれはアレだね。今回に限って言えば俺の事だね。「あとは任せた」この言葉を言わなければよかったと後悔しても後の祭りってね。
本当はこんな事後報告みたいな事はしたくなかったさ。けどそれじゃあみんなは納得しないよね? オーケーブラザーわかったよ。それじゃあ始めようか、悪魔達のフェスティバルを!
――――――
――――
――
日が昇ると同時に起床して冷水で身を清める。朝食の前に偉大なるマリーの肖像画に向かって手を合わせる。
学校に到着すると各隊が点呼をとり朝礼が始まる。天気のいい日はグラウンドで、雨天時は屋根のある駐輪場でラジオ体操。
学園の生徒や先生達がやって来る頃を見計らって校門に整列し気持ちのいい挨拶。きっと聖典の声出しが良かったのだろう。
午前中は各クラスへ散開し勉学に励む。昼休みは各自食べ物を持ち寄って
中でどんな事が行われているのかは当事者しか知らない。
午後の授業もつつがなく終えるといよいよ放課後。彼……いや彼女……いやいや怒寿恋の活動が本格化する。
濃部屋(元は写真部の部室)をチラリと通りかかった時に聞こえた会話を一部紹介しよう。
「……もう、無理です……足が」
「甘ったれるな小僧っ! そんなんじゃ真の乙女になれないぞっ!!」
ビシンッバシンッ
「歩き方はこう! 骨盤を前に出す」
「えっと……こう?」
「違うっ!」
ビシンッバシンッ
「無敵乙女講座その58、無とムニは表裏一体」
「無敵乙女講座その58――」
俺は何も見なかった、見なかったんだ。
おそらく中でとんでもない事が起こっているのだろう。俺は背中にゾクリとしたものを感じてその場を後にする。
しばらくして。
「あぁスッキリした!」
「これでちょっとはマシになったかな」
「アレくらいで音を吐くなんてまだまだや。ほんまはもっとシバきたかったんに」
チア部の面々が濃部屋から出てくる所を見てしまった。
「お……」
「「「お?」」」
なんて声を掛ければいいか一瞬迷ってしまう。しかし彼女達の表情はどこか晴れやかな感じだった。
「
「今日会ったけどね」
「それでもなんか久しぶりやわぁ」
両手を前にくねくねする
「えっと、みんなは何を?」
俺の問に顔を見合わせる三人娘。
「ん〜……」
と悩んだ挙句。
「強制的な矯正?」
「個性的な補習?」
「壊滅的な更正?」
「おふぅ」
落ち着こうぜ俺。
どの言葉をとっても安心材料がまったく無いじゃないか。いったい怒寿恋どもは彼女らを巻き込んで何してんだよ。
「大丈夫だようまうま。キャサリンちゃん達は私達のことを思ってやってくれたから」
「そ、そうなの?」
それに私達の他にも大勢居たからとの事。なんだか疑心暗鬼になってしまう。
この場合恐らく鬼は怒寿恋で逃げ回るのは彼の方だろうけど。
「あと1週間もすれば仕上がるって言ってたよ」
「し、仕上がるとは?」
「ん〜……」
と悩んだ挙句。彼女達は告げる。
「「「
怒寿恋アウトォォォォ!!
――そして時間はあっという間に流れて1週間後。
「じょうまぎゅぅぅぅぅん!! アチキがわるがっだわぁぁぁぁぁん!! だから仲直りしてぇぇぇぇぇん」
「うわぁぁぁぁぁ! く、来るなぁぁ化け物ぉぉぉぉぉぉ」
縦横無尽に駆け回る俺をよそに校内放送が響き渡る。校内放送というか実況中継だな。
「さぁやって参りました、本日のメインイベント。馬VS悪魔……合体のその先に」
「解説の城峰さん。どうッスかこの戦い?」
「魔改造された人類の極地を見たって感じよね。まさか彼があんな事になるなんて……オロオロ」
乗り気な城峰のヤローは嘘泣きがうまい。
「もっと罵ってぇぇ、いっそのこと抱いてぇぇぇぇ」
「ぎやぁぁぁぁぁぁぁ」
吠えろ大腿四頭筋、限界はまだだアキレス腱! 月詠学園の総大将の意地を見せろ!
「わたしも若干引くッスね。いったい怒寿恋の皆さんは彼に何をしたんスかね?」
七色の疑問に、恐らく矯正に参加したであろう城峰が答える。
「女子の”いろは”から乙女のAtoZまで様々な事を叩き込んだわよ」
「なるほど〜」
くそっ。やっぱりそういう事か。
「まぁそのAtoZのtoがTo Be Continuedだったのは笑えるけどね!」
「城峰さん上手いッス!」
ドチクショー! なんも上手くねぇよ!
「くっそ、アイツらぁぁぁ」
1人の悪魔と馬が学園内を暴れ回る。
「ところで城峰さん。馬と悪魔が合体したらどうなるんスかね?」
「それはつまり――って事?」
「イエス!」
校内放送って事忘れてんじゃねぇよ。アウトだよアウト!
「う〜ん。そうねぇ、馬と悪魔が合体……それはまさにケンタウロスね!」
城峰の渾身のギャグに学園内がひび割れた。
そして廊下を全速力で走り回る俺は目の端で元凶どもを捉える。
「魔王様、万事解決!」「いい仕事したでごさる」そんな清々しい顔でサムズアップされた俺は声に出して誓うのだ。
「この野郎っ! 覚えてろぉ!!」
まぁでも、矛先が俺の方に向いたのは良かったとしておこう。その矛が物理的に俺を刺さないように、最強の盾を下半身に装備しようかな。
あれ? これって矛盾では?
心に傷を負った乙女達が俺達を見て笑ってる。その笑顔を見ることができて本当に良かったよ。俺の事なんて些細な事さ。
「じょうまぎゅゅゅゅゅん!!」
悪魔召喚はもう勘弁願いたい。
きっとこれも後の祭り。
次回
その田園に描く甘い贈りもの
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