第17話 金色の黒髪【黒神睦希】
「ねぇ皆、私髪を染めようと思うんだけど……」
「……ん?睦希もう一度言ってくれ」
「髪を染めようと思うの」
日曜日の午後、昨日カラオケに皆で行き、焼肉を食べた後は帰って爆睡。そして、今日は俺と弥生さんはバイトがあったので午前中から出勤していた。午後のティータイムが終わる頃にバイトも終わり自宅に帰ってきたらこの展開になっていた。
「いいじゃない睦希! ワタシとお揃いで銀髪にしてみる?」
「んー銀髪だと、キャラが被っちゃうかなぁ」
「睦希お姉ちゃんは、どんな髪色にしたいんですか?」
「そうねぇ……私の憧れてるスモフェニのフェニックスさんみたいに金髪がいいなぁ」
「あらあら、金髪はお姉さんもカッコイイと思うわ!キャラも被らないし」
ダメだこの人達はノリノリだ。かくいう俺も別に止める気はないんだが。
「睦希……」
「会長?」
おっ、流石に会長は止めに入るのか?まぁ自由な校風だから染めて怒られる事はないのだが、生徒会長としては見過ごせないって事か? しっかり仕事してんじゃん会長。
「睦希……」
「会長、やっぱりダメかな?」
………………
…………
……
「私もフェニックス様みたいになりたいッ」
「「「「お前もかッ」」」」
ダメだこの人、彼女になにかを期待するのはもう諦めよう。
「翔馬はどう思う?」
「俺か……う〜ん」
(睦希の黒髪は好きなんだよなぁ、っていうか俺は事ある毎に女子の髪を触っている気がする。俺って髪フェチなのか……)
「なにか理由があるんだろう?」
「……うん」
小さく頷く彼女。なにか理由が無いといきなり髪を染めたいなんて言わないからな。
「そっか、ならいいじゃない?」
「ほんと? てっきり反対されると思ってた」
「反対する理由も無いからな、まぁ睦希の黒髪としばらく別れると思うと名残り惜しいが、新しくなった睦希を見てみたいと思う俺もいる」
これは嘘偽りない俺の真実だ。髪型ひとつで女性の魅力は何倍にも跳ね上がる。まぁ髪型だけでは無いけれど、それに加えて髪色まで変えたとなりゃ、周りの反応は様々だろう。
「私の髪、好きなんだ」
「俺は髪フェチなのかもしれないからな」
「そっか……じゃあ、染めるね」
「おう! ニュー睦希が楽しみだ!」
「だったら、夕飯の買い出しのついでに私と出かけましょ?」
「弥生さん……」
提案した弥生さんは、睦希から色々悩みを聞き出すつもりなのだろう。同じ学校の人では話しずらいアレコレは年上のお姉さんには話しやすいのかもしれない。
「お願いします弥生さん!」
「うふふ……それじゃあ早速行きましょうか」
「はい!」
「弥生さん、よろしく」
俺は横を通り過ぎる弥生さんに向けて耳元で呟く。弥生さんはお返しとばかりに、なんとも可愛らしいウインクで応えてくれた。
(弥生さんには敵わないな……)
ここは大人の女性に任せて、俺達は洗濯や掃除等に手をつけ始める。今日の食事当番は俺と弥生さんなので、あらかじめ弥生さんには足りない食材を買ってきて貰うだけで良いと伝えてある。
「会長、昨日の事いつ睦希に話します?」
俺は昨日会長に衝撃的な事を聞いていた。
「あぁ、その事か。う〜む……当日でいいんじゃないか?」
「サプライズ過ぎません?」
「その方が喜びもひとしおだと思うが……」
「女性はやっぱりサプライズ好きなんですか?」
「一概にはわからないが、翔馬からパンツを貰った時の私は昇天しかけたぞ?」
「……俺はネックレスの方が本命だったんですが」
「はっはっは」
会長はなんでも無いように笑っているが、裏でめちゃくちゃ頑張っている事は知っている。皇さつきとはそういう人間なのだ。俺達の前ではおちゃらけているが、凄まじく努力家で、友達思いで、勉強熱心で、そして……
「翔馬よ……」
「なんですか?会長」
「思い出したら濡れたので着替えてくるッ!」
やっぱり変態だった。
俺の感動を返してほしい……
◆
「たっだいま〜」
「おかえりなさ〜い」
「どうだった?いいのあったか?」
買い物から帰宅した2人はルンルン気分だった。心做しか睦希の顔もなんだか晴れやかに見えた。
「弥生さん、具材の下処理は終わってますよ」
「あら、ありがとうしょうくん。最近、手の調子も良さそうね」
「えぇ、夏休みまでには元通りになるって言ってましたよ」
「良かった♡」
手の心配をしてくれた弥生さんと一緒に俺達は夕食の準備を始める。今日の献立は……
肉じゃがとポテトサラダをメインにして、山菜の天ぷら、タコとキュウリの酢の物、ご飯にかけても美味いとろろ。
後はそれぞれの好みに合わせたおかずが並ぶ。
「いっただっきま〜す」
同居する時の取り決めで、なるべく集まれる時は皆でご飯を食べようというルールになった。この取り決めは正直めちゃくちゃ嬉しかった。
(皆で集まってご飯を食べる。俺には最近あまり無かった光景……)
この提案は睦希がしてくれたらしい。俺の過去を知っているのもあったが、何より睦希本人の希望が大きかったのかもしれない。
「睦希〜ワタシの天ぷらあげるわ!」
「えっ?いいの」
「私のタコさんもどうぞです」
「葉月まで……」
「私の肉じゃがもおすそ分け♪」
「……弥生さん」
「じゃ、じゃあ……私のとろろも」
「会長、それは自分で食べて下さい」
「あぅ……」
一緒に生活して、少しずつ皆の好みが分かってきた。意外な事に会長はネバネバ系が苦手らしい。
そして、皆からの祝福?というかお裾分けを貰った睦希は口の中いっぱいに幸せを噛み締めている。
「美味しいご飯って幸せをくれるよね」
睦希のこの言葉に尽きると、俺も思う。
◆
「ワオ! 睦希似合ってるわ」
「あわわわ……髪色を変えただけで、こんなに」
「私も染めてみたくなるわねぇ」
「まさしく、フェニックス様みたいだ」
「……」
睦希は皆のお風呂が終わった後に、髪を染める為に最後に入っていった。初めに脱色やら何やらしてたみたいで結構時間はかかったのだが……
「ど、どうかな……翔馬」
「……」
俺はあっけにとられていた。髪型ひとつで女性は変わると言ったが、その言葉を髪色で当てはめてみても納得のいく仕上がりだった。
「その……なんだろう」
「……ん?」
俺は何を言えばいいか迷ったが、素直に感想を口に出す。
「黒髪の睦希も最高だったが、金色の睦希もやっぱ最高だな!」
「えっへへ……ちょっとまだ恥ずかしいや」
落ち込んでいた黒髪の彼女はもういない。
これからの彼女は金色の髪のように……
明るく笑って過ごせるだろう。
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