第15話 食べる黒髪【黒神睦希】

「翔馬、ちょっといいか?」

「あっ! 会長おかえりなさい」

「……もぐ……んぐ? 会長どうしたんすか?」


 睦希との水族館デートから帰ってきた俺達は、先に晩御飯の用意をしようと言う話になり2人で買い物をして現在はキッチンに立っている。



「ごめん、睦希ちょっと行ってくる」

「は〜い! 揚げるのは後からにするわ」


 ちなみに今日はメンチカツとアジフライの献立。つまみ食いをしていたのがバレてしまった……


 会長に連れられて廊下に出る。そして、誰もいないことを確認してから会長は話し出す。


「睦希の所属する軽音部の件なんだが……」

「はい」

「どうやら、引っ込みがつかなくなっているようだ」

「引っ込み? というと……」


 俺は睦希から聞いた内容を思い出す。真剣にしない練習しない部員に注意して、それから無視されて……バンドは睦希抜きで文化祭の出し物の申請をした……か


「どうやら、睦希を排除したのは一部の部員らしくてな……その他の部員は睦希がいなければと渋ったそうなんだが……」

「……それで引っ込まみがつかなくなったと」

「うむ、そういう事だ。それに、軽音部と言っても結構な人数がいてな。彼女はその内の1つのボーカルとして活動していたみたいだ」


 なるほど……という事は他のメンバーは戻って来て欲しいけど、メインのグループでは孤立してしまったと。


「なかなかややこしいなぁ……」

「私もそう思う。彼女のバンドは臨時でボーカルを見つけたみたいだしな」

「そっかぁ……」


(これは同じ軽音部同士で組ませても事態がややこしくなるだけか……)


「翔馬どうした難しい顔をして」

「実は……」

 ………………

 …………

 ……

「……なるほどな、睦希を文化祭で歌わせたい……か」

「はい……この前カラオケに行った時もそうなんですけど、彼女やっぱり歌が好きみたいで、なんとか歌わせてやりたいんですよね」

「だけど、同じ軽音部の人には頼めないと……」

「さっきの話を聞いてそう思うよ」

「確かにな……」


 会長も俺も2人して頭をフル回転させている。この同居メンバーは楽器ができるか怪しい……かと言って今から練習するのも間に合わない。


「ちなみにだが翔馬……」

「なんスか会長」

「カラオケでは睦希はどんな曲歌っていたんだ?」

「えーっと……確か」


 俺は睦希とのカラオケでの会話を思い出す。睦希がハマっているアーティストは確か……


「スモ……フェニだったかな?」

「スモフェニか……」

「会長知ってるんスか?」

「当たり前だッ! 今を時めく大人気ユニットだぞ?そんなお前は知らなかったのか?」

「……お恥ずかしい」


 会長は何かを考えるようにして、手を顎に当てている。こういう時の会長はカッコよくもあり綺麗でもあり……


(普段からそうしてくれ……)


「翔馬……ちょっと時間をくれないか?」

「いいけど……何すんの?」

「まぁ……ちょっとな。そして翔馬は引き続き町内周りをよろしくな!」


 会長は俺にサムズアップして、部屋へと帰って行った。


「ご飯できたら呼びますよ〜」

「頼む〜」


 そして俺は睦希の待つキッチンへと向かう。俺と会長の会話には敢えて何も聞かずに睦希はメンチカツの種を楽しそうに仕込んでいる。


「昔から……好きだったよな、メンチカツ」

「……覚えててくれたんだ」

「よくメンチカツパンも食べてたからな」

「……うん、ありがとう」


「ただいまショーマ、睦希」

「……帰りました〜」

「ソフィアちゃんと葉月ちゃんと駅前で会ったから一緒に帰って来たわ〜」


「「おかえりみんな〜」」


 みんな揃った所で今日の夕飯がスタートする。


「ワオッ! メンチカツね。このサクサクがたまらない」

「うぅ……まだメンチカツは先輩の領域に〜」

「作ったのはほとんど睦希だからな、葉月」

「睦希お姉ちゃん、是非コツを〜」

「いやいや、レシピは翔馬よ?」

「先輩ぃぃぃ……」


 葉月は頬をリスみたいにしながら俺と睦希を交互に見ている。その光景が可笑しくて、みんながここにきてからは毎度食卓が賑やかだ。


「なんか……落ち着くわ」

「あぁ……」


 彼女の……彼女達の心を、少しでも暖かく出来たのならこの同居生活にも意味があったのかもしれない。


 それぞれ見ている景色も、考えも、悩みも、心の中も違うけれど……こうやって食べるご飯の味……美味しいと思う気持ちだけは、皆一緒だと信じている。





 明日もご飯が美味しいといいな。

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