第05話「デリバリー」

「はいまいど。第一層は配送料として一割もらってるんで……」


 第一層パーティに回復薬ポーションを二十個ほど渡し、代金を受け取る。

 注文を受けているわけではないが、第一層をうろついているだけで、今日はもう五~六回はこんなやり取りが続いていた。

 昨日は持ちきれないほどのドロップアイテムを獲得したパーティに頼まれ、ギルドまで運んだりもしている。

 価値の一割分の配送料を受け取っているだけで、俺が戦闘を苦手としていることもあるが、ソロでモンスターを倒すより、一日の実入りは多かった。


「あの……ショートソードの替えとか……あったりします?」


 ポーションの残量を確認していると、まだ少年の面影を残す年若い剣士が、おずおずと切り出した。

 見れば手にはナイフと棍棒を持っている。戦いの最中にメインの武器が折れてしまったと言う剣士に向かって、俺は笑顔を向けた。


「あるよ」


 リュックに手を突っ込み、新品のショートソードを三本取り出す。

 新品とはいえバランスや作りにバラつきがあるので、最近は武器ごとに複数本持ち歩くことにしていた。

 剣士は三本の剣を一つ一つ確かめるように素振りをし、重さやバランスを確かめる。


「これに決めた! ありがとう。本当に助かりました」


 気に入ったらしい一振りを定価の一割り増しで販売し、俺は次の客を求めて第一層をうろつきまわる。

 その後も何組かのパーティに商品を売り、一日の探索を終えた。


 この仕事は俺に向いている。モンスターと戦うのは苦手だが、だからこそ第三層くらいまでのモンスター相手なら、逃げ切る自信がある。足もそんなに速いわけではない俺だが、徘徊する怪物ワンダリングモンスターの生態やクセを細かく調べ、大迷宮のマップも主要な通路はほぼ頭に入っているからだ。

 第四層や第五層の探索となればそれこそ命がけになるが、それでも、商品代金の四割、五割と言う配送料を考えれば、やりがいのない仕事ではなかった。


 それに何より、この仕事は感謝してもらえる。


 ここ数日で、今まで冒険者として迷宮を探索してきた数年の、何倍もの「ありがとう」と言う言葉を聞いた。

 それがなにより嬉しくて、俺はもう【銀翼ぎんよく】のパーティから追放されたことや、あらぬ噂を流されたことなど、ほとんど忘れていた。

 お客さんになる冒険者たちも、最近は例の噂のことなどほとんど忘れているようだ。

 人の噂も七十五日とはよく言ったもので、最近では【運び屋】といえば、その名のとおり「何でも」「安全に」「低料金で」「劣化させずに」運ぶと言ういい噂のほうが広まっていた。


 俺が冒険者になったのは、人の役に立つ仕事をしたいと思ったからだ。

 そう考えれば、冒険者と言う名前とは無縁のこの仕事も、俺の望んだ生活なのかもしれない。

 第五層を探索していたときに感じたヒリヒリするような緊張感とはまったく逆の、平穏で穏やかな日々が過ぎてゆく。

 俺は緊張感と平穏な日々、そのどちらを本当に求めていたのか、よくわからなくなっていた。

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