第524話 後悔先に立たずで息子もタたず
「ああ〜、いいですよ。そうです、裏筋をなぞるようにして......」
「ん、こう?」
現在、俺は陽菜や千沙に教わったどエロいフェラの仕方を葵さんに教えていた。
彼女は嫌な顔せず、息子の裏筋をぺろぺろと舐めてくれているのだが、やはり初日とあってかなり不慣れな感じがする。
陽菜は初日でも凄かったけどな、なんて言葉を口にしたら、息子は葵さんの咬合力で俺から分断されてしまうことだろう。
「さて、今度は俺もしますね」
「あッ」
俺の陰茎を舐めてくれている葵さんは浴衣を辛うじて着ているといった感じで、彼女の豊満な乳房は完全に顕になっていた。
そんな乳房の先端、薄桃色の乳首をクリクリと摘みながら、俺はそんなことを言った。感度が良い葵さんは、俺が触れただけでびくびくと身を震わせるから、愉しいことこの上ない。
彼女の口から息子を引き離し、代わりにベロチューをした。無論、俺の両手は彼女の両乳首を捕らえてクリクリとイジっている。
「あんッ、だ、駄目ッ、すぐイッちゃ」
「好きなだけイッていいですからね」
それだけで彼女は恍惚とするのだから、女性にとって乳首とは本当に性感帯なのだなと感じる。
俺も乳首カリカリしてもらいたいが、それはまた後ででいいや。
すると部屋の戸がノックする音が聞こえてきた。
『ご、ご夕食をお持ちしました』
聞こえてきた声は、この旅館のスタッフの声である。時間を見れば、配膳される時刻であったことに気づく。どうやら時間を忘れて葵さんと愉しんでいたらしい。
無論、この旅館に到着してから今までの数時間、温泉など一度も入ることはなかった。
言い訳ではないが、葵さんは一度スイッチが入っちゃうと言うことを聞いてくれないのだ。
そんな葵さんはまるで我に返ったかのように飛び起きて、浴衣を着直した。俺も服を着て、配膳してくれたスタッフに対応する。
「し、失礼します」
「はい」
戸を開けると二名の女性スタッフの姿が見えて、一人は食事の乗ったお盆を持ち、もう一人はカートのようなものを引いていた。どちらからも和食の良い香りが漂ってきて食欲をそそられる。
スタッフはそそくさと配膳をし始めた。忙しいのだろうか。別にゆっくり準備してほしいわけじゃないけど、落ち着き無く支度されるとこちらもどうしたものかと戸惑ってしまう。
するとうち一名が、この部屋の中央に敷かれた布団を目にしてギョッとした。
......ああ、そういうこと。
俺は俺の背に隠れるようにして立っている葵さんにボソッと呟いた。未だに彼女は火照った様子であるのは言うまでもない。
「さっきの声、聞かれてましたね」
「っ?!」
両壁の防音はしっかりしていると思うが、どうやら戸の方はそこまでじゃなかったみたいだ。
葵さんはスタッフが来るまで喘いでいたし、浴衣を着直したと言っても、艶のある息を漏らしているから、その色っぽさから俺たちが今まで何をしていたのかを察したのだろう。
布団が一人分しか敷かれていないことも一入だったに違いない。
あと枕だけは二人分あったしな。
それに若干だが、畳の香るこの部屋にイカ臭さが混じってるし。
「そ、それでは、ごゆっくり」
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます......」
配膳を終えた女性スタッフは引き攣った笑みを俺らに向けながら、この場を後にした。それをお礼と共に見送った俺らは、互いの席に着いてさっそく手を合わせた。
座卓には豪勢な和食がずらりと並んでいて、見ていると涎が口内に分泌さていることに気づく。
「美味しそうですね!」
「うぅ、恥ずかしい......」
葵さんは今からする贅沢な食事よりも、先程の情事のことが気になって仕方がないらしい。言うまでもなく、俺らが食べ終わってから後片付けするために、再びこの部屋に来るのだ。
それにきっと今頃、あのスタッフたちは噂しているに違いない。
『あのカップル、温泉も入らずにおっ始めたわね』とか、『あんな大きな喘ぎ声初めて聞いたわ』とか噂しているに違いない。
まさにその通りだから、ぐうの音も出ないや。
「まぁまぁ。どうせ赤の他人なんですから、気にしなくて大丈夫だと思いますよ」
「そ、そうかもしれないけど......」
葵さんは箸で料理を摘みながら、ぶつぶつと何か呟いていた。
俺はそんな彼女を他所に、豪勢な料理を楽しむのであった。
*****
「......。」
「すぅ......すぅ」
気づいたら朝だった。
この温泉旅館の絶景露天風呂に入った記憶が無い。
目が覚めて視界に写ったのは見知らぬ天井。傍らには絶世の巨乳美女が、はだけた浴衣姿で寝息を立てている。時計を見れば、時刻はチェックアウトまで一時間を切っていた。
たしかこの部屋ではなく、別の大広間で朝食を摂る予定であったが、もはやそれは叶いそうにない。
俺はむくりと身をお越して、葵さんを揺すって起こした。
「葵さん、起きてください。葵さん」
「んー」
「朝ですよ。というか、後少しでチェックアウトです」
「ふぇ?............っ?!」
彼女はチェックアウトという聞き慣れない単語と、自分が居る部屋の周りを見て、ここが普段の寝室ではないことを察し、跳ね起きた。
「チェックアウトって......もうそんな時間なの?!」
「はい。まだ少し猶予がありますので、軽くシャワーだけでも浴びて来ましょ」
俺がそう言ったのは、昨晩の食事後から続いてた性行為で、互いに少なからず汗をかいていたからだ。そこまで臭いが気になるってほどでもないが、さっぱりしたいしな。
女性ということから、シャワーを浴びるにしろ時間がかかりそうな葵さんに先に向かわせ、俺は部屋の片付けをすることにした。
その際、葵さんが頭を抱えて一言呟くのであった。
「うぅ。せっかくの温泉が......」
「......。」
俺も便乗して性行為したから、こんなことを言うのは違うと思うけど、言わせてくれ。
誰のせいだよッ!!!!
そんな心の叫びは虚しくも声になることはなかった。
*****
「ただいまー」
「ただいま戻りましたー」
無事、中村家に到着後、俺と葵さんはお土産を両手に、帰ってきたことを玄関から告げた。
もう夕方だが、先程、帰宅予定の時間を助手席に居た俺が電話をして皆に伝えたら、皆待ってるよ、と温かみのある返事が帰ってきたので、全員居ることだろう。
するとリビングのドアが開かれ、中から千沙、陽菜、真由美さんに雇い主といつものメンバーが現れた。
旅行したのはたったの一泊二日だったが、こうして皆の顔を見るとほっこりする。
その後、車から荷物を下ろして片付け終えた後、俺らはリビングでしばし寛ぐことになった。
「チーズin饅頭?! なんですか、この面白そうなお土産!」
「私にはこのストラップ? 可愛いわね」
「無事に帰ってきて良かったわぁ」
「うんうん。そこだけが心配だったからなぁ」
「もう大袈裟だよ」
中村家の一家団欒は本当に心に沁みてくるものがある。千沙や陽菜もお土産を喜んでくれているようで嬉しいよ。
俺はそんな光景にほっこりしながら、いただいた温かいお茶をズズッと啜った。
いやぁ、それにしても温泉旅行、楽し――
『あんッ! カズ、く、んッ』
『ダメダメッ、すぐイッちゃ、イッ......クッ!!』
――めたのだろうか。思い返すと葵さんの喘ぎ声しか響いてこない。
閑さや岩にしみ入る彼女の喘ぎ声ってな。
......絶景露天風呂に入りたかったなぁ。
俺がどこか遠くを見るような視線を天井に向けていると、雇い主が口を開いた。
「はは。一泊二日とはいえ、二人とも疲れただろう? 今日はもうゆっくり休みなさい」
「「......はい」」
俺と葵さんは互いに旅館での情事を思い出したのか、はっきりしない返事をしてしまった。
そして雇い主の言葉は続く。
「思い出話はまた明日聞くことにするよ」
「「......。」」
どうしよ、語れる思い出が何一つとして無いや。
気まずかった俺は葵さんを見ると、彼女も俺のことを見ていたらしく、目が合ってしまった。
互いに何を思っているのか理解しているのだろう。
言えませんよね、温泉旅行に言ったのに、温泉に一度も入ってないなんて。
「......また行きましょうね」
「......うん」
そんな虚しい気持ちで交わされる約束が、いつかの日か叶うことを祈る俺たちであった。
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