第485話 山積みの藁はベッドの代わりにならない?

 「本当に大きいね。それに硬くて、すごい反り返ってる」

 「あふぅ!」


 開幕早々、汚い喘ぎ声を上げてごめんなさい。


 俺は進撃の童貞になる!とかほざいてごめんなさい。


 そんな昨日今日で進撃できるわけないじゃんね。


 天気は晴れ。絶好の仕事日和だ。


 陽射しもすごいのなんの。一応、日焼け止めクリームは塗っているけど、暑くて汗が滝のように流れてくるから、その効果を失うのも時間の問題だ。


 クリームが流れちゃったら、あと少しで出そうな自家製クリームを身体に塗るしかない。


 そんな今日は西園寺家でバイトすることになっていて、仕事バイト内容は去年と同じく、知り合いの稲作農家から買い取った藁をある程度の量でまとめる作業だ。


 藁が肌に当たってチクチクするけど、普段と違う作業だから楽しい。


 今は仕事してないが。


 「会長、さすがにこれ以上は!」

 「え、出ちゃうの? 出しちゃっていいの? 勃った上に出したらまずくない?」


 まずなによりこの状況がマズい。


 現在、俺は大空の下、藁を背にして大の字になっている。


 そして俺の股間部に会長の生足が乗っけられている。


 「そ、そんな攻めるようにしたらヤバいですって!」

 「我慢しなきゃ(笑)」

 「そんなぁ」


 なんで彼女が3人も居るのに、付き合ってもいない女性から性的刺激を受けているのかと言うと、先日の我慢大会が深く関係している。


 俺の元カノ、百合川悠莉ちゃんは日課のように会長とお電話するらしい。お姉様、お姉様と日頃から尻尾振っている彼女は、相も変わらずレズパワー全開だ。


 正直、受験生の会長相手に申し訳無くないのか、と思うが、当の本人は暇潰しにいいとレズを相手にしている模様。すごい関係である。


 んで、そのレズ野郎が我慢大会をやったことを会長に喋ったから、会長もやってみたいと俺に頼んできたのだ。


 仕事なんかそっち退けである。


 「こんなに硬くして恥ずかしくないの?」

 「くぅ! 言葉責めかぁ!!」

 「いや、シンプルに心配してるだけ」


 無論、俺が頼まれただけでそんなリスキーなことしない。


 陽菜だ。


 会長が陽菜に電話して、『ワタシもやってみたい』とか抜かすから、先日の悠莉ちゃん、桃花ちゃんに続いて、こんなことになってしまった。


 陽菜も陽菜で、『和馬は勃たないんでいいですよ』なんて許可しちゃうから困っちゃう。


 たぶんだけど、陽菜はあの我慢大会で俺の操を完全に信じ切っちゃったのだろう。


 全幅の信頼を俺の股間に向けているのである。


 「あは、本当に良い顔するね」

 「ぐぬぅ! 陽菜ぁ! 俺は耐えるぞぉ!」

 「開始30秒で勃ったくせに(笑)」


 勃ってしまったけど、息子汁出さなきゃ証拠は残らない。


 勃っても萎えれば証拠隠滅になるからな。


 それに俺もあの時、息子と出会って、よくわからない自信が湧いちゃったから、会長一人の攻めなんて耐えられるだろうと調子こいてしまった。


 結果、こうして他所の農家さんちの畑で、SMプレイじみたことをしている。


 稲作農家ここのご夫妻がそんな俺らを見て、渋い顔をするのも無理はない。

 

 そのご夫妻の傍に居る健さんや陽子さんは、「気にしないでくれ。いつものことだ」と、言っていた。


 全然、“いつものこと”じゃない。


 助けろよ、娘が三股男の股間を刺激してんだぞ。


 「会長! 仕事しましょう!」

 「駄目。まだ時間残ってるから」


 「そもそも仕事する時間です!」

 「あ、もしかしてもう出そう?」


 おっと。仰る通り、出ちゃいそうだから逃げたかったのだが、その意思がバレてしまったか。


 すると会長は俺の股間を足蹴りするのを止めて、大の字に寝ている俺の上にそっと腰を下ろした。


 位置はお腹辺り。マウントポジションを取って、どうする気なのだろうか。


 出るとこ出ている会長だから肉付きがいいはずなのに、あまり重く感じない。乗るときに気を使っているのか、それとも藁が敷かれた上に横になっているからか、苦しくはなかった。


 また距離が近すぎて緊張してしまう。


 夏の暑さからか、会長は顔を赤くして、ハァハァと息を荒らげている。


 口の端から透明な体液も出てらっしゃる。


 このドS女、マジで生徒会長止めた方がいいって。生徒会長がしていい顔じゃないぞ。


 「あ、そうだ。ちゃんと証拠としてビデオ撮影しよっか」

 「なッ?!」


 ドS女は作業着のポケットからスマホを取り出して、カメラアプリのビデオ機能をオンにした。


 撮影開始の合図の音が聞こえたことで、一気に緊張感が高まる。


 ヤバい、証拠を残すわけには......。


 「いいね、視線ちょうだい」

 「......。」


 違った。この女、俺の勃起ち◯こを撮るのではなく、俺の表情を撮りたいらしい。


 先輩のいいようにされて、性的に興奮しちゃった後輩を苛めたくてしょうがないのだ。


 そんなドS女は、俺の頭の横に片手を着き、顔を近づけて耳元で囁く。


 「いいよ、びゅっびゅってして」

 「っ?!」


 あ、それ駄目なヤツ。


 美女に攻められた上にそんなこと言われたら、息子汁出すしかなくなっちゃうヤツ。


 意識を股間に向ければ、相当な位置まで込み上げていたのを察する。何が、とは言えないが、ナニがだ。


 そっと身を起こした会長は、俺を見つめながら片手を後ろに持っていく。


 「そ、それは駄目ですッ!!」

 「っ?!」


 俺は会長の両肩を掴んで、逆に彼女を横へ押し倒してしまった。その勢いにより、細かい藁が宙を舞う。


 無論、俺の周りにも藁は十分に敷かれていたので、強引にそんな行動を取っても彼女に怪我は無い。


 会長は目を見開いて驚いた様子になる。まさか組み伏せていた男が、自身を押し倒せるとは思ってもいなかったのだろう。


 この状況を少し離れた位置から眺めていた稲作農家さんご夫妻と、健さんたちが「おおー」と声を漏らす。


 それもそのはず、今まで手足を縛られてもない男が、情けなくも大の字になって女のいいようにされていたのだから、一転して逆襲するなんて熱い展開しか見えてこない。


 それに、おおー、とか言ってる場合じゃない。


 仕事しろ、というか仕事させてくれ。


 「君は......を押し倒してどうするの?」

 「っ?!」


 ボクっ娘?!


 なんでここで一人称を......。


 と疑問に思って彼女を見下ろすと、そこには先程の興奮したサディストな一面を見せる会長とは違った――別の美咲さんが居た。


 「じ、自分は別に――」

 「......ねぇ、バイト君は二股どころか、それ以上に彼女を作ってるけど......もしかしてまだ増やす気?」


 予想だにしなかった質問を受けて、俺は絶句する。


 俺の理想は相思相愛のカップルだった。今は俺一人に対して、三人も彼女が居るけど、これから今以上に増やすなんてあり得ない。


 なんでこの状況でそんなことを聞くのだろう。


 会長の見たことのない一面を目にしたことも手伝って、馬鹿へんな考えをしてしまう。


 「いえ、これ以上はさすがに難しいです」

 「......なんかフられた気分だよ」

 「そ、それって――へぶ?!」


 会長が苦笑した顔を見せるが、それも一瞬のことで次の瞬間、俺は顔面にバサッと藁を叩きつけられた。


 藁が思った以上に硬く、チクチクしていたため、あまりの痛さから横へ倒れ込んでのたうち回ってしまう。


 口の中にも少しばかり藁が入ってしまったため、ぺっぺっと吐き出す。


 「な、なにするんですか!」

 「言っておくけど、ワタシは三股男なんて御免だから、四人目には別を当たってね?」


 そんな返答にもならないことを、聞いてもいないことを会長は口にした。


 その態度に少しイラッと来た俺は、生意気にも言い返すことにした。


 「はは。会長の相手なんかお願いされてもしませんよ」

 「......へぇ。言うじゃないか」


 冗談で言ったつもりが、それを聞いた彼女は目つきを鋭くして、俺を睨む。


 そして手にしていた自分のスマホを俺に見せた。


 その画面に映し出されたのは――


 「っ?!」

 「ふふ。ワタシがお願いしても相手をしないくせに、押し倒しちゃったね」


 ――俺が会長を押し倒した様子が、地面したから撮られていた写真だ。


 い、いつの間に......。


 先日、俺が自宅で葵さんに、インスタの件でやった行動を思わせる一枚だ。全然気づかなかった。


 とにかく、こんな写真を交際相手たちに送られたら、命がいくつあっても足らない。


 俺は眼前のスマホを、目にも留まらぬ速さで奪おうとしたが、それを察した会長がひょいっと差し伸ばした手を引っ込める。


 「け、消してください!」

 「嫌だね。消したいなら力づくで奪ったら?」


 おう、いいだろう。やってやんよ。


 煽られた俺は、会長のスマホを奪うため彼女に近づく。


 しかしドS女は意地の悪い笑みを浮かべ、作業着のチャックを少し開けた。そして汗で湿った艶のある胸元を顕にする。


 「ちょ、何してるん――」

 「こうする」


 会長はその豊満な胸の谷間、汗がその曲線を辿って落ちる狭間に自身のスマホを挟んだ。


 奪いたきゃ、胸に手を突っ込んでみろ。


 そう言いたいのだろう。


 「卑怯ですよ!」

 「ふふ。触ったら、即処す。110番だ」

 「おい! いい加減に仕事しろッ!!」

 「若いっていいねー」

 「さっき、儂には“三股”と聞こえたんじゃが......」

 「わ、若いからねぇ......」


 そんなこんなで仕事もせずに、時間は過ぎていくのであった。

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