第424話 悠莉の視点 ここは天国か

 「ふぅ。これで一通り試着終わりましたね、陽菜ちゃん」

 「少し疲れたわぁ」

 「そうだね。あと掃除しないと。誰かさんの鼻血のせいで、リビングの床が汚れちゃったよ」


 ごめんちゃい♡


 私は女が好きだ。


 飽きること無く。


 性的に。


 「まぁ、カーペットは汚れていないんだし、フローリングなんだから拭けば済む話よ」

 「陽菜ちゃん!」

 「ひ、陽菜、ちょっと懐柔されてない?」


 私は愛しの陽菜ちゃんの家に来ていた。この場には桃花ちゃんも居る。今日来た目的は陽菜ちゃんに扇情的な衣装を試着&プレゼントするためだ。


 黒のマイクロ下着から始め、陽菜ちゃんには私が持ってきたエッチな衣装を次々と着てもらった。彼女の小柄な体躯は愛らしさを伴っているので、衣装のジャンルを思案するのに苦労はしなかった。


 美脚を主張するチャイナ服に王道なメイド服、僅かな膨らみを決して無駄にはしないサンタ服など、どれもノースリーブやミニスカ仕様で露出高めだった。


 「ほら、あと少しで家族が戻ってくるから早いとこ片付けましょ」

 「今後のためにも、後で詳しい感想お願いしますね」

 「ま、まだ作るんだ」


 もちろん♡


 今日のところはアクセサリーとして、猫耳やうさ耳カチューシャを着用してもらったけど、次は“差し込む系”とか試してもらいたい。


 あとボディーペインティングのように、色々と彼女の身体に描きたい。


 陽菜ちゃんの太ももの内側に回数の意味を表す“正”の字を複数個書いたり、恥丘ら辺に謎の紋様を描いたりと......ぐへへ、こんな想像するとすぐに下着がぐしょぐしょになっちゃう。


 人んちだし、少しは自重しないと。


 私は今しがた綺麗にしたフローリングを、また汚さないように妄想を我慢した。


 「でも本当に......こんなにいいの?」


 不意に陽菜ちゃんが申し訳無さそうな顔して私にそう言ってきた。


 漠然とした聞き方だが、この言葉の意味は私が陽菜ちゃん用に持ってきたエロ衣装のことだろう。


 いいもなにも、陽菜ちゃんに着てもらうために加工したんだから返されては困る。


 「はい。今までのお詫びと言ってはなんですが、どうぞ使ってください」


 なにより陽菜ちゃんに試着してもらう度に、私はスマホでたくさん写真を撮ることができた。『今後の資料のため』と念を押して言い、様々なアングルから陽菜ちゃんを撮りまくった。


 これで当分のおかずには困らないよ。ありがとう。


 私は心から感謝の意を込めて、満面の笑みでお礼を言った。


 ちなみに“今までのお詫び”とは、私と先輩が付き合っていた件のことである。陽菜ちゃんを誰にも獲られたくないとは言え、彼女と先輩には最低なことをしたと自覚している。


 後悔はしていないけど(笑)。


 「あんた......わかったわ。そういうことなら、ありがたく使わせてもらうわね」

 「はい。あとですね、実は一部の男性はハメ撮りというものが好きでして、良ければ私がカメラマンとして――いへッ?!」

 「悠莉は少しくらい自重しないとね!」


 私の提案途中にも関わらず、隣から桃花ちゃんが私の片頬を抓ってきた。


 桃花ちゃんは私が同性愛者だってことを知っているのに距離を置こうとしなかった。むしろ前より近い気がする。これが俗に言う......“親友”なのかな?


 いや、私と同じで女の子が好きで距離を縮めてきたという線も......。


 「あ、じゃあこれから三人で外食しに行こうよ! 少し早いけど晩ご飯にさ!」

 「私、これから料理作らないと......」

 「偶にはいいじゃん! おばさんや葵さんも居るんでしょ?」

 「そうだけど......」


 さすがにそこまで付き合わせるのは良心が傷む......と言いたいところだけど、こんなにも楽しい時間は今までに無かったと思えるので、私も桃花ちゃんに賛成だ。


 あ、でも、


 「今日って雨ですよね?」

 「「あ」」


 今日は午後からいつ雨が降ってもおかしくないと天気予報で聞いた。そう思ってリビングの窓から外を覗いたが、まだ雨は降っていない。


 いや、正確には雨は降っていた。窓に少量の雨粒や、中庭の地面が濡れていたので一旦止んだだけだろう。


 「今は止んでいるみたいだね」

 「そうですね。いつまた降るかわかりませんし、今日のところはこれで――」

 「ということは、外出にはナイスタイミングってことじゃん!」


 捉えようによってはそうかもしれないけど、少し強引じゃない?


 陽菜ちゃんだって家事とかやることがあるらしいし。


 「まぁ、でもよく考えたら早いとこ借りは返したいわね」

 「え?」

 「あ、あんたに一方的に借りを作られると困るって言ってるの! 私が外食代奢るからそれでチャラね!!」


 なんと!


 私のオカズとなるエロ衣装を“かり”として受け取ってくれたんだ。陽菜ちゃんは私のこと根っから嫌いなんだと思い込んでたけど、今回の件はよっぽど彼女にとって得られるものが大きかったらしい。


 ここまで言われてはもう野暮なことは言わない。外食なり、ラブホなり、どこへでも付き合おう。


 「そうと決まれば早く行こ! 私と悠莉はこの服の山を陽菜の部屋に持ってくね!」

 「わかったわ。私はママたちに電話するからお願い」


 陽菜ちゃんの自室に行けるの?! 生きてて良かったぁ。


 彼女の部屋の至る所に潮吹いてマーキングしたいところだけど、桃花ちゃんも同伴だとそれも叶わないか。


 こうして私たちは陽菜ちゃんが両親から許可を貰えたことにより、一緒に外食しに出かけることとなった。


 ちなみに雨が降った場合、中村家三姉妹の長女、葵さんが車で迎えに来てくれるらしい。優しいお姉ちゃんだなと関心している心とは別に、どんな美人さんなんだろうと期待に胸を膨らませるレズ野郎であった。



******



 「女神様、やばかったぁ」

 「思い出すとまた鼻血出すよ」


 桃花ちゃんが絶賛していた中華料理店で夕食を済ませた私たちは、陽菜ちゃんの姉、中村葵さんに車で迎えに来てもらった。


 そんな私たちは今、中村家の東の方の家にお邪魔し、玄関付近に居た。


 本当ならば中華料理店から最寄り駅まで送ってもらい、私と桃花ちゃんは陽菜ちゃんたちと別れる予定だった。でも桃花ちゃんがこのまま陽菜ちゃんの家でお泊りしたいと我儘を言ってきたので、再び戻ってきた。


 桃花ちゃんの急な我儘を快く受けてくれた陽菜ちゃんと葵さんはなんと心優しい姉妹なのか。


 「あのおっぱ......胸は大きすぎません?」

 「あんたが言うんじゃないわよ」

 「たゆんたゆんでしたよ」

 「人の姉の胸見て、たゆんたゆんって言うな」


 葵さんは一言で言えば女神だった。


 それもおっぱいの女神ね。けしからん乳房と安産型のお尻は迫力満点だったなぁ。黒髪清楚系巨乳JD最高。性格も最高。ちょっと内気な感じが情欲を煽ってくる。


 交尾するために降臨された女神様に違いない。


 信号待ちのときの女神様が車のハンドルに胸を押し当てていた様は、こちらをムラムラさせるのに十分なものだった。


 「でもいいんですか? 本当に私も泊まちゃって」


 さすがの私でも友人の家に急遽泊まることになったとなると、緊張や遠慮という気持ちが生まれてくる。


 「べ、別に友達と一緒にお泊りしたかったわけじゃないんだからね!! 雨が降っているから仕方なくよ!」

 「陽菜、そのツンデレ属性復活させようとしてる?」


 やっすいツンデレだなって思ったけど、口にはしなかった。可愛いければなんでも許せる。


 ちなみになぜ私たちが外食前に居た南の家ではなくて、東の家に来たのかと言うと、先程も言ったように中村家で泊まるためだ。


 桃花ちゃんだけなら陽菜ちゃんの部屋で泊まれるけど、今回は私も居るので、東の家にある大部屋を三人で使う。無論、押入にはちゃんと人数分の布団があるので寝床には困らない。


 家が二軒あるってすごいな、ほんと。


 「あれ?」


 今更だが、私は玄関の靴を見てあることに気づいた。


 そこには私たち以外の靴が二足あったのだ。片方は男性もので、もう片方は女性ものである。私のこの疑問に答えてくれたのは陽菜ちゃんだ。


 「和馬と千沙姉のね」

 「え?! 先輩、ここに居るんですか?!」

 「居るわよ。毎週土曜はバイトの関係でこっちで寝泊まりしてるもの」


 マジか! 元カレここに居んのか! 気まずッ......くはないな。先輩だし。


 ん? そういえば先輩は陽菜ちゃんと千沙さんの二人と同時に付き合ってるんだよね? おかしな話だけど。


 千沙さんと先輩の二人が一つ屋根の下に居るって......


 「もしかして.....お二人は今、せ、セックスしてるんじゃ――」

 「ないわよ」


 なぜか即答されてしまった。


 陽菜ちゃんは信頼からだろうか、それとも先輩のヘタレ具合からだろうか、かなり言い切ったそれに不安という要素は微塵も感じられなかった。


 先輩もなんでこんな美少女を前に手を出さないのか不思議である。


 「あら? この紙袋に入ってるの......和馬の学ランじゃない」

 「あ、本当だ」


 陽菜ちゃんと桃花ちゃんは玄関近くに置かれていた白い紙袋を目にしてそういった。中には先輩の学ランの上着と思しきものが一着入っていた。それはクリーニングにでも出したのか、透明なビニール袋の中に入っていた。


 バイトしに来てるはずなのになんであるんだろ。


 陽菜ちゃんはそれを袋から取り出して両手で広げた。


 そして次の瞬間、


 「くんくん......うーん、さすがにクリーニング出しちゃうとせっかくの“カズマ臭”が消えちゃうわね」

 「「......。」」


 ボフッと彼女の小顔を学ランに埋めたのだ。なんの躊躇いもなく、私たちが居るにも関わらずである。私と桃花ちゃんはその光景に絶句してしまった。


 「あ、陽菜、お兄さんが居るなら、千沙さんとどんな感じか覗き見してこない?」


 悪気なくそう言った桃花ちゃんは本当に怖い女子だ。普通、カップルがイチャついているであろうピンク色の空間を覗き見しようと思わない。


 そりゃあ興味が湧くのはわかるけど、もし先輩たちが情事に勤しんでいたら居た堪れない。


 「そんなことするわけないでしょ。私が逆の立場だったら嫌だもの」

 「ええー。でも、もしエッチなことしてたら気になって寝れなくない?」


 「だから和馬はそんなこと――」

 「“逆の立場だったら”ってことは、陽菜が千沙さんの立場ってことだよね? 陽菜はお兄さんに迫らないの?」


 「......。」

 「迫るよね? お兄さんとシたくてシたくて、彼女の日になったら毎回誘惑するんでしょ?」


 お、おお。さすが桃花ちゃん。


 先輩にその気がなくても陽菜ちゃんは執拗に彼に迫ることだろう。


 だってそのために今日私たちは集まったんだから。


 あのエロ衣装コレクションはまさにオスを興奮させるための物だから。


 「ね? 見に行こ。バレなければいいんだよ」

 「............ちょっとだけよ」


 陽菜ちゃんは呆気なく折れた。


 どうやら少なからず心配だったみたい。こうして私たちは陽菜ちゃんに続いて、先輩が居るであろう千沙さんの部屋へ向かうのであった。

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