畑を耕し、そこに青春をばらまく

第１７５話 高橋家

　「え、いや、ちょ、なんの話？」

　「お、俺が聞きたい。和馬、どういうことだ？」

　「いや、だから俺が農家で働いているって話」

　「いや、お前が風俗店で働いているって話じゃないの？　それもゲ〇客も含めるって」

　なんで風俗店？　しかも、なんでそっち系？

　「「......え？」」

　再度、親父と息子のシンクロが始まって、終わった一言であった。

　「いやいやいやいやいや！　なにそれ？！　農家？！　初耳だよ？！」

　「俺もだわ！　なんで男子高校生が風俗店で働くんだよ？！」

　意味がわからない。本当に。

　「だって母さんが」

　「母さん？」

　「え、私？」

　「ほら。以前、電話したときに言ってたじゃん」

　そういえば、俺の口から親父に農家でバイトすることになったって直接言ったことないな。すっかり忘れてたわ。

　「いや、違う。俺が親父に言おうとしたけど、母さんが『話したいことあるし、私からしとくよ』って言ってた気がする」

　「そうだっけ？」

　「そうだよッ！！　前、電話したとき言ってたじゃん！　えっとね、たしか―――」

　人任せにしていた俺も悪いけど、なんで風俗店で息子が働いているって嘘言うの？

　『ひっく....和馬はぁ、可愛い子がたくさん働いている所でバイトしてるよぉ』

　『あの子自身も身体を使ってご奉仕してるんだってぇ....うっ』

　『程々にしなさいって私が言っても「田舎の楽しみなんかこれしかないからやめられない」って......オロロロロロロロ』

　３段階に分けて吐きにいってんじゃん。その状態のババアは完全に酔ってるよね？　なんで言われたことを鵜呑みにするんだよ。

　可愛い子も、身体使うのもあながち間違ってないけど、言い方ってもんがあるでしょーが。

　「そんなこと言ったっけ？」

　「言ったよ！」

　「いやいや。酔ってたときの発言なんてノーカンだよ、ノーカン」

　「んなわけあるか！！」

　「いだッ？！　暴力反対！！」

　親父が母さんにチョップした。

　「っていうか、大体なんでそれで男子高校生が風俗店で働いているって思うんだよ」

　「俺の子だし。やりかねないなと」

　「......。」

　ある意味、自分の息子を信じている証拠だね。

　「しっかし、まぁ、よくやるなー。珍しすぎて信じらんないよ」

　「ああ。田舎ならではのバイトだよ」

　「いや、そうじゃなくて、性根が腐っている和馬がよく続くなって」

　「......。」

　以前、母さんも同じことをドストレートに息子に言ってた気がする。両親揃って一人息子が可愛くないのかね。

　「はぁ。まぁこれで本当に一段落したわけだし、俺はもう寝るね」

　「早いな」

　「和馬は朝早いのよ。齢１６にして、もう老後生活みたいなもんね」

　やかましいわ。ちゃんと寝ないと明日の仕事に影響するんだよ。なんたって体力が必要だからな。

　「残念。せっかく母の手料理を振る舞おうと思ったのに」

　よかった。腹下さなくて済んだ。

　「久しぶりに母さんのゲテモノ料理でも食いたいかも」

　「さっきのもんじゃ、ゴミ箱にあるんだけど」

　「嘘だよ。やだなぁ。もうっ！！」

　仲睦ましい両親でなによりだ。そしてもんじゃは既製品である。

　「あ、和馬」

　俺は寝る支度をしようと居間から出ようとするが親父に止められた。なんか用件でもあるのかな。

　親父が右手の人差し指を左手の指で作った輪っかに抜き差しして言う。

　「夜中、ちょっと母さんとうるさくなるかもしれないから。よろしく」

　「すみません、正気の沙汰とは思えないのですが」

　「今まで一人っ子で寂しい思いをさせたな。安心しろ。育児はこっちでちゃんとするから」

　「すみません、正気の沙汰とは思えないのですが」

　息子が隣の部屋で寝るって言うのに、これからおっ始める気か。

　やめてよ。本当にやめて。せめてホテル行って。何も言わずにシてきて。

　「ちょっと、さすがにこの歳で子作りは厳しいでしょ」

　「ええー」

　言っちゃったよ。子作りって言っちゃったよ。いや、意味わかってたけどさ。

　「もう玉袋パンパンだよ」

　「どっかに和馬のエロ本とかＡＶあったし、それ借りなさいよ」

　「漫画貸して」的な感覚で言わないで。

　「いや、いくら親子と言えど、和馬とは趣向が違うさ」

　「あっそ」

　「どうしよっかなぁー」

　「トイレットペーパーの芯は？」

　「穴があれば良いってもんじゃないよ。それにあんなに細いと入らない」

　「じゃあ、こんにゃく？」

　「冷たいって。ち〇ぽに失礼でしょーが」

　いや、食材に失礼だろーが。

　とてもじゃないが、息子の目の前でする会話じゃないな。放っておいて早く寝たいところだけど、おっ始められたらたまったもんじゃない。

　「あ、なら和馬のオ〇ホは？」

　「実の息子と穴兄弟ってそれなんの冗談（笑）」

　この人たちは俺がここに居ることを忘れているんじゃないだろうか。さっきからそんな気がしてしょうがない。

　でも、悲しきかな。両親揃ってコミュニケーションを取るのが久しぶりすぎて忘れていたけど、これが高橋家なんだって思い出した。

　つまりこの二人がこの家に居る限り、この会話が日常となるのだ。一般家庭からしたら異常以外の何物でもない。

　「あのさ、頼むからそういうことは他所か、俺が居ない時間帯で頼むわ」

　「ほら、息子（かずま）公認だよ」

　「いや、公認したわけじゃないから」

　数秒でいいから話聞けってクソ親父。

　「と言ってもなぁ。この辺、ホテル無いし」

　「ちょっと、私の意見を聞きなさいよ」

　「母さん、息子の気持ちも視野に入れて？」

　「仕方ない。母さんも明日暇でしょ？　昼はどう？」

　「昼はご近所さんに迷惑でしょ」

　「夜は息子が大変迷惑に感じます」

　「うーん.....和馬、我慢しなさい。お兄ちゃんだろ」

　「あ、それ一人っ子じゃ言えないセリフ」

　「理不尽すぎる」

　まだ生まれてすらいない兄弟（妹）優先かよ。このオナ猿バーバリアンが。

　「あんたも、こっちに帰ってくるまで疲れたでしょう？　もう寝なって」

　「疲れマラの域に達してるよ。ほら」

　「見せんでいい、見せんでいい」

　もう最悪。帰ってくるなり、もんじゃ片付けさせられたり、親父のナニを見させられたり......両親揃ったって良いこと何一つ無かったな。

　「中村家の子になりたい.....」

　「え、どこそこ」

　「ああ。陽菜ちゃんのとこ？　結婚を前提に付き合っちゃえばいいのに」

　「あ、あいつとは付き合わないから」

　「え、なにそれ。なんつう面白いネタ隠してたんだ？！」

　「息子の恋バナ（？）をネタって言わないでよ」

　「ひ、陽菜は元カレと別れてからすぐ俺と付き合いたいって言ったんだぞ？」

　「尻軽女か（笑）―――いだだだ！！　もげる！！　もげちゃうもげちゃう！！」

　「陽菜ちゃんを悪く言うとこの玉袋握り潰すから。......え、あの子、交際経験あるの？」

　「なんだ、聞いてなかったのか」

　「ふぅー！！　ふぅー！！　ふぅー！！　おいおい、赤く腫れちゃったじゃないか！」

　「知るか。......この前、アルバムで和馬のち〇ぽが写った写真見て、『パパの以外、初めて見ました』って」

　なんつうもん撮ってアルバムに載せてんだ、こら。ねぇ、ソレ、いつの写真？　やめてよ、毛も生えてない息子なんて恥ずかしいじゃん。

　それに陽菜の「初めて見た」は絶対嘘だろ。

　「そうだ！　今日は久しぶりに“川の字”で寝よう！！」

　「「は？」」

　「ふっ。そんでもって和馬と恋バナしたい。......“川の字”、懐かしいだろ？」

　「いや、まぁ、そうだけどさ。どっちも恥ずかしいっていうかなんというか」

　「.....偶には良いかもね。３人で寝ましょ」

　か、“川の字”で寝るなんていつ以来だ？　よくそんなことを高校生の前で言うよね。

　まぁ、でも......３人揃うなんて半年ぶりなんだし、一回くらい良いかな。そ、それに俺が真ん中に居ればさすがにセッ〇スしないだろ。言い訳じゃないぞ。ないったらない。

　「そうと決まればテーブルとか退かそうか！」

　「おおー！！」

　「しょ、しょうがないなぁ」

　ここは高橋家。さっきの息子の気持ちを度外視した一家団欒みたいなもんがあっても熱い愛情が蔓延る素敵な家庭である。

　「右から智子、俺、和馬な！」

　普通は俺が真ん中だろーが。おっ始める気満々だな、おい。

　「「......。」」

　「痛ッ！！　二人で蹴らないでよ？！　じょ、冗談だって」

　ここは高橋家。ここに居る息子なんか無視して、股にぶら下がっている方の息子を尊重した大黒柱が居る最低な家庭である。