第173話 帰ってきた大黒柱

 『お父さんが帰ってきたの!! 今、玄関前に居るから早く退!!』


 母さんのその一言で俺は母親が嫌いになりそっうだった。


 ......んん? 待って。あの単身赴任親父はこっちに帰ってきてるの? 急だな。俺聞いてないよ。連絡くらい寄越せばいいのに。


 「へー。親父、帰ってきたんだ」

 『そ! だから早く撃退して!』


 「ごめん、ちょっと意味わからない」

 『お・と・う・さ・ん・が帰ってきたの!! 和馬、早く帰ってきて追い返して!!』


 だから、なんで追い返すの?


 ちなみに、母親は“お母さん”と呼んでいるが、父親は“親父”と呼んでいる。無論、段階的に呼び方が変化してこうなったのだ。


 バイト野郎が歳を取るにつれ、パパ、お父さん、父さん、親父の順である。


 最終形態はフリー〇様びっくりの“クソ親父”を予定している。まぁ、俺自身、父親が嫌いではないのでそう呼ぶことはないだろう。


 「追い返すなよ。せっかく久しぶりに帰ってきたんだからさ」

 『あんた、自分ちの玄関で父親見つけたら笑って迎えるか?』


 「え」

 『迎えねぇだろ。でも、ブッ殺すだろ』


 「いや、ちょっと」

 『冷静に考えたら、なんで殺す必要があるかもわかんねぇだろ? それでも全力で―――』

 「わかったわかった。お願いだから父親をゴキブリにみたいに言わないで」


 それテラフォー〇ーズのあの人じゃん。やめてよ。そのセリフを父親に使わないでよ。


 「仲悪いのかしら?」

 「照れ隠しって線もあるかも」

 「よ、他所の家庭に口を出しては駄目よぉ」

 「ああ、中村家で良かったぁ。真由美、愛してる」


 なんか外野がうるさいぞ。しゃーない、一旦帰ろう。俺は皆にそう断って家に帰ることにした。







 「クソ親父め......」


 俺は最終形態にまで降格してしまった親父に悪態を吐いた。


 「きったね」


 だってしょうがないじゃん。家に着いたら、玄関のドアのハンドル部分にゲ―――もんじゃ(自主規制)が掛かってるんだもん。


 「なんでここで吐くのかな......」


 家に入るにはこれを握らなければならない。憂鬱どころの騒ぎではない。


 「いや、電話して中から開けてもらおう」


 そう思って俺は母さんに電話した。インターホンでも良かったけど、なんか外に両親の声が響き渡るのも気が引けるので電話の方が良いと判断したためだ。


 「あ、もしもし、着いたんだけど、ハンドルにもんじゃ(自主規制)付いてるからそっちから開けてくれない?」

 『か、和馬、おかえ......りッ?! ちょっ! 和馬がすぐそこに居るんだからやめなさいって......あんッ!』

 「......。」


 実の親のテレホンセッ〇スは聞きたくなかった。なんで秒でシてんの? なんで息子が帰ってくるのにシちゃうの? なんで、お互いそれぞれの歳を考えないのぉ?


 「あ、俺、今日はホテルで泊まるから。じゃ」

 『違う違う!! あんッ! こ、これエッチじゃないから!』


 説得力皆無なんですが。


 とりあえず、落ち着いたらまた電話してもらおう。これ以上、母親の喘ぎ声だけは聞きたくない。今後、息子が萎えて勃たなくなりそう。


 「いいよ、いいよ、気にしないで。じゃ」

 『ま、待って和馬んッ?!.....っていい加減にしろッ! #×@%¥△がッ!!』

 『びぶらッ?! うっ......オロロロロロロロ』


 ちょっ、通話中に規制音入ったよ。ピー音初めて聞いたわ。インターホンにそんな機能あんの?


 っていうか、家の中でももんじゃ(自主規制)ぶちまけてるの? やめてよぉ。

 

 『ガチャッ!』

 「お、おかえり、和馬」

 「あ」

 「あ、ごめ」

 「......ただいま」


 勢いよく開けてくるからもんじゃ(自主規制)が飛び散って俺の服に付いたし。


 これじゃあ開けさせた意味無いじゃんね。


 「あ、私の寝室には行かないで!」

 「......。」


 健全な男子高校生である息子が自宅前に居るっていうのに、本当になんでシてんのかね。


 もうその一言でさっきの会話がアレしてる最中だってわかったよ。寝室へや、絶対ムワッてしてそう。ムワッて。


 「で、コレは?」

 「あまりにもしつこかったから、さっき腹パンしたら吐いたわ」


 あ、そう。


 コレこと、虎次郎こじろうは俺の父親である。高橋 虎次郎、単身赴任でしばらくこの家に居なかったが、なんでか、今日急に帰ってきたらしい。


 そして帰ってきて早々、居間をもんじゃ舞台にした高橋家の害虫でもある。


 「うっ。吐き気が」

 「あんた、トイレ行きなさいよ」

 「久しぶりに見る親父がこんなだなんて......俺は将来ちゃんとした父親になろう」


 俺は未だに四つん這いで下を向いている父親を見てそう誓った。


 「物事の良し悪しを見分け、前向きに行動する......か。少し見ない間に立派になったな、和馬」

 「まずはあんたが立派になりなさいよ!」

 「しっかし、派手に吐いたなぁ。くせぇし。......片付けが面倒だよ」


 「父親の良し悪しを見分け、下向きになっている人を介抱する......か。少し見ない間に立派になったな、和馬」

 「てめぇの良し悪しは“悪し”しか見えねーよ!! 誰がここを片付けると思ってんの!!」

 「お母さん、そう言って俺に雑巾とバケツを押し付けるのはなんで?」


 俺がやれってか。うっわ。まじ最悪。まぁ、フローリングの上だから多少はマシだけどさ。


 こうして、父親特製のもんじゃ(自主規制)を息子が片付けて、一先ずこの騒動は終わりを迎えた。


 落ち着きを取り戻した親父はソファーに座り、その向かいに俺と母さんが座るかたちとなった。


 「で、なんで玄関で吐いたの?」

 「ああ、アレは母さんがドアポストからランスで俺の腹を突いたからだ」

 「ごめん、我慢できなくてつい。和馬の傘が近くにあったし」


 「なんで俺の傘で突くんだよ......」

 「俺が聞きたい。一升瓶を片手に、せっかく良い気持ち酔ったままで帰ってきたって言うのにな」

 「あんた、原因自分で言ってるのわかんないの?」


 そりゃあ連絡も無しに、久しぶりに帰ってきた夫が飲んだくれてたら腹立つわな。


 「逆に聞きたい。どうすればちゃんと歓迎してくれるの?」

 「まず酔っぱらうな。お土産買ってこい。仕送り増やせ。できないなら代わりに良い男連れてこい」

 「どうしよう和馬。母さんがこの上なく冷たいんだが」


 知らんがな。


 「まぁまぁ。その辺にしてさ。久しぶりに揃ったんだし。ゆっくりお茶でもしよう」

 「まぁ和馬がそう言うなら....」

 「父さん、一升瓶に自前の水があるから良いぞ」


 一升瓶で頭叩き割るぞ、クソ親父。


 「でさ、なんで急に家に帰ってきたの?」

 「連絡くらい寄越してくれれば迎え撃ったのに」

 「母さん......。ゴッホン! そうだな。まぁ、一言で言うと、があったからだ」


 軽く咳払いした父さんが俺に向かってそう告げた。心配事って何?


 両親がこの家を空けて俺一人の生活なんて中学生の頃からの話なんだから、今更心配したってなぁ。


 「和馬、よく聞け」

 「あ、はい」


 真剣な面持ちで親父が俺の肩を掴んで言う。


 ......手、洗ったよね? さっきのこともあるし、どうしても気になっちゃう。


 「和馬、今やっているバイトは辞めなさい」



―――――――――――――――――――



ども! おてんと です。


新・登場人物ですね! 和馬の父、虎次郎です。


この“虎次郎”って名前......どっかで名前を紹介しましたっけ?


まだ父の名前は公開していない気がするのでたぶん違ってはいないと思うですが。


こういった登場人物の設定なまえを予めちゃんとして決めていないからダメなんですよね。許してください。


それでは、ハブ ア ナイス デー!

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