第164話 マジで孕ませ5秒前

 「じゃあさっそく健さんたちに聞いてきます」

 「待って。ワタシも行く」


 人に頼んどいてあんたも来るんかい。


 俺は先程、会長が誘拐してきた猫を飼えるかどうか西園寺家にバイト野郎が代わりに相談するという依頼を受けた。


 なんで俺が聞かないといけないのかね? でもご褒美が素晴らしいから頑張っちゃう。


 「あ、4人共居ますね」

 「雨だからかな。仕事で外出してなくて良かった」


 なんか緊張してきた。


 というか、なんて聞けばいいのだろう。猫飼いたいけど言い出しにくいから他人に任せるって、俺も困っちゃうよ。


 「あ、あのー」

 「お、和馬か。どうした?」

 「それに美咲も」


 居間に入ってすぐ反応してくれたのは健さんと陽子さんだ。他二人も何事かと言わんばかりに俺らの事をじっと見ている。皆してテレビでも視てたのかな。


 ちなみについてきた会長は俺の斜め後ろの位置で立っている。真横に来ない辺り、本当に自分から言いたくないらしい。


 「「......。」」


 そんでもって、いつかの日みたいに俺の服の裾をちょこんと掴んでいる。


 可愛いかよ!


 「えーっとですね。急な話ですが―――」

 「そうか。皆まで言うな。わかってるつもりだ」

 「もうナカに入れちゃったんだね?」

 「え」


 達也さんと凛さんがまるで今から話す内容を理解したような口調で言ってきた。“ナカに入れた”って、え? 気づいてたの? 猫を勝手に連れて来たの。


 なら話は早い。良かったじゃないですか、会長。後は許可だけですね。


 「はは。二人には敵いませんね」

 「和馬との付き合いは短いが、性格なかみは大体知ったつもりだ」


 達也さん.....。そうか、すでに会長が猫を連れてきて、中々言い出してこないから俺が代わりに聞きに来たことを察したんだ。


 さすが、天才姉妹。美咲いもうとが天才なら達也あにもか。それに凛さんも気づいているらしい。


 「美咲ちゃんと和馬君、聞けば知り合ってそんな長くないでしょう? よく行動できたね」

 「まぁ、頼られたらできるだけ応えたいですし」

 「ってことは美咲ちゃんからかぁ」


 そうです。美咲さんに頼まれました。


 「あんた何言ってるかわかる?」

 「さぁ?」


 健さんと陽子さんはまだわかってない模様。達也さんたちがわかってても、これは家族全員に理解してもらわなければならないことだから、二人にはちゃんと言わないとな。


 猫アレルギーかもしれないし。


 「で、あれだけ言ったのにダしたと」

 「“出した”?」

 「生で」

 「“生”で?」


 んん? 何のこと? あれだけ言ったって何のことを指して言ってるんだ?


 “出した”って猫を部屋からってことかな? でも“生”がよくわからない。


 「バイト君、会話が噛み合ってない気がする」

 「ま、まぁ、もう少し任せてください」


 後ろに居る会長が小声で言ってきた。俺もよくわからないけど、とりあえず話を続けよう。


 「で、やっぱりベッドの上では可愛かっただろう?」

 「ちょっと達也、ここでそんなこと聞かなくても」


 ああー。あの猫、たしかに会長のベッドの上にあった下着に乗ってたな。なんで知ってるんだろ。さっきのバイト野郎みたいに忍び足で来て、覗き見でもしてたのかな。


 「はは。ベッドの上だけじゃないですよ。いろんな仕草があって可愛いです」

 「お、おおー」

 「普段、私たちにも見せない美咲ちゃんかぁ」


 たしかに猫も可愛いけど、なにより猫を愛でてるときの会長は普段とギャップがあって可愛かった。


 「バイト君、やっぱり会話が噛み合ってないよ」

 「え、そうですか? さっきよりはマシだと思いますけど」


 後ろに居る会長がまた小声で言ってきた。


 「でも、嫌な言い方するけど、責任取れる立場おとなじゃないんだからナカに出しちゃいけないよ」

 「? いや、まだ部屋なかから出してませんが」

 「え?! いや、まぁ、無理に掻き出すのもどうかと思うけど、処理くらいはしないと垂れてきちゃうよ」


 “掻き出す”って何を? “垂れる”って何が?

 

 「そんな気持ち良く(部屋から猫を)出せる状況じゃなかったですし」

 「気持ち良くないのにイったのか?!」

 「だから勇気を出してってみたんじゃないですか」


 会長の言った通り、若干会話が噛み合ってない気がする。


 「なるほどそういうことか」

 「美咲も隅に置けないねぇ」


 こっちが戸惑い始めた頃に、健さんと陽子さんが事を理解したみたいだ。言わなくても気づけるなんて流石です。


 「さーて、焼き魚で良いかね!」

 「お前、そこは赤飯で良いだろ。ゴッホン!......和馬、理由はどうあれ、責任は取るんだよな?」


 猫には焼き魚が良いと思いますが、その猫を受け入れるお祝いをしてくれるなら赤飯は最高ですね。なんたって家族が増えるようなもんなんだし。


 明るい様子でキッチンに向かった陽子さんと、どこか殺気を漂わせる雰囲気の健さんである。なんか父親の顔してるけど、これ、ペットの話ですよ?


 「責任.....もし美咲さんが駄目なら俺が育てます!」

 「そ、そこまで.....」


 感動している様子の凛さん。この場に居る健さんと達也さんは腕を組んで考えごとをしている様子だ。そりゃあ、いきなり言われても困るよな。


 「新たな命を授かると同義だぞ?」

 「重々承知しております。それでも美咲さんが望んだことでもあるので無下にはできません」

 「はっ!.....良い目になったな」


 健さんは自分の鼻を人差し指で擦ってそう言った。


 もし西園寺家ここで駄目なら、俺が引き取ろう。俺自身も猫飼ってみたかったし、アパートだけど同じ住人で猫を飼っている世帯もあるからな。オーナーさんに全力で許可を取ろう。


 幸い、あの白黒猫はまだ子猫なんだ。これからちゃんと排泄場所トイレとか躾ければ大丈夫だろう。


 「元々って気持ちがありましたしね」

 「お、おまっ?! 赤子を“飼いたい”とはどういうことなんだ?!」

 「命をなんだと思ってる!」


 「え、どこか変でした?」

 「わからないのかッ?! その根性叩き直してやる!!」

 「達也、俺が抑えとくから思いっきりいったれ!!」

 

 そう言って健さんが俺の後ろに回り込み、ガッチリと俺を束縛した。そんな俺に達也さんが肩をぶんぶん回して、今から全力で殴る様子を見せつけてくる。


 「ちょっ!! なんですか?!」

 「うるせぇッ!!」

 「見損なったぞ、和馬ッ!!」

 「ちょっと乱暴はやめてよ、二人共!」

 「バイト君、たぶん君が悪い」


 女性である凛さんは物理的にバイト野郎を助けてくれなさそう。会長はもっと必死になって助けてくれても良いと思う。


 「いやいや、会長も関わってるんですから―――へぶッ?!」

 「元はと言えば快楽に負けてダしたお前がいけないんだろ?!」


 痛ぇーッ!!


 訳の分からないまま、回避不可能な俺は達也さんのパンチを頬に食らった。


 「だから出してませんって!」

 「現実逃避するつもりか!! 的中するかわからないが、デキたらお前の子だって証拠なんだぞ!!」


 んん?! 待って、マジでなんの話?!


 「こら! 二人共、なに暴力に訴えてるんだい!」


 居間で騒がしくしている俺たちの所に陽子さんが戻ってきて怒鳴りだした。


 「聞いてくれ! こいつ、美咲が孕んだかもしれない子を“飼いたい”って言いやがったんだ!」

 「は?! “赤子”ってそっちの子供?! なんで?!」

 「ああー、やっぱり」

 「美咲、アフピ買ってくるからな! 待ってろ!」

 「皆、一旦落ち着こう!」


 いや、なんの話してたんだよッ?! 徹頭徹尾、猫の話だろ!! なんで美咲さんを孕ませた話になってんだよッ!!


 「なんだい、美咲の子供って。最近たまーに、美咲の部屋から聞こえてくる猫の鳴き声のことだろう?」

 「「「............え、猫?」」」


 陽子さんの説明を聞いて健さん、達也さん、凛さんの目が点になる。


 「美咲は隠してるつもりかもしれないけど、換気したくて部屋に入った私にはバレバレだよ」

 「ああ、それで昨日出かける際に窓開けたのに帰ったら窓が閉まってたのか」

 「換気しようと思ったけど、猫が逃げたら美咲が可哀想だからね」

 「逃がしても良かったのに」

 「え、何がしたいのあんた」


 ほんっとそれ。それ言ったら俺が代理した意味無いじゃんね。言ってることと要求が一致してませんよ。


 「えーっと、か、和馬」

 「こ、子猫を飼いたいってことか?」


 「はぁ......はぁ......。逆にそれ以外ないでしょ.....」

 「「......。」」


 「口切ったかな? 痛いですね。ったく」

 「「わ、悪い」」


 こうして何とか誤解が解け、伝えたかった意思が遠回しに伝わり、このよくわからない騒動は終わりを迎えた。


 .....西園寺家は中村家に劣らないくらい騒がしい場所ですね。



―――――――――――――――――――――



ども! おてんと です。


ちょっと今回の会話は無理があったかな....。


ア〇ジャッシュのお笑い動画を見てたらこんな感じになっちゃいましたよ。許してください。


それでは、ハブ ア ナイス デー!

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