第139話 悩殺ひっぱいガール

 「んで、平行移動してできるグラフの方程式はこの公式使って」

 「ほうほう」

 「xの方向に2、y方向に-3移動した分をここの式に当てはめて」


 俺は今、陽菜の溜まった夏休みの宿題を手伝っている最中だ。科目はとりあえず数学。


 どれくらい経っただろうか、2時間くらいかな。もう22時は過ぎていて、俺、今日帰れるのか不安だ。


 陽菜は最初から集中して頑張っているため、手伝っている身としてはやりがいがある。いやぁー、本当にこいつは理解が早いから結構なペースで宿題が進むのなんの。


 でもさ、


 「っ?!」

 「この式は簡単に“移動”が求められるけど、他には使えないわね」

 「あ、ああ、そうだな」


 こうやって俺にもたれかかる感じでくっついてくるのはやめてほしい。こっちは眠気が吹っ飛ぶくらい目が覚めるから有効なんだけど、同時に愚息も覚醒しそうで怖い。


 あー、陽菜のこの甘い匂い。ヤバいぞー。


 「ふふ」

 「な、なんだよ」

 「和馬、どきどきしてるなぁって」

 「うっ。わざとかよ!」

 「当たり前じゃない」


 くっそ、貧乳なめてたわ。陽菜が俺に寄り添う際にめっちゃ小ぶりな胸を当ててくるんだもん。まな板かなって思ってたらコレ違うね。逆にこの感触に意識しちゃって少しでも勉強から考えを逸らすと理性がもってかれそうだ。


 「は、離れてくれないならもう宿題手伝わないぞ!」

 「この距離なら...」

 「?」

 「抱き着いたり、キスをしたりできるから和馬の理性を簡単に壊せそうね」

 「っ?!」


 お、大いにあり得る!!


 そんなことされたら俺が陽菜を獣のごとく襲っちゃうかもしれない。そんなの宿題を手伝わないどころじゃないぞ。保健だ。数学から保健の科目にイッちゃう。


 「って、おい、この淫魔め! いい加減にしろ!」

 「いんッ?! ま、また淫魔って言ったわね?!」


 「尻が軽いからだろ!」

 「軽くないわよ!! なんでそうなるのよ! それにまだ私、処―――」


 「?」

 「な、なんでもないわ。言ったら元も子もないし......」


 陽菜がなんか言ってるけどよく意味が分からない。


 「い、いいから! さっさと次に行くわよ! えーっと次は国語かしらね!」

 「まだやんのかよー」

 「当たり前じゃない! !」

 「っ?!」


 あー、今の発言、ち〇ぽにビンビンきました。やめてくれないかな、ち〇ぽを挑発するの。


 「ってか寝かせないって、さすがにもう少ししたら帰る時間だろ。真由美さんたちが心配するじゃん」

 「なにが?」


 「いや、男が娘の部屋に居るんだぞ? いつまでも居座ったら気にするでしょ」

 「しないわよ」


 「え、なんで?」

 「むしろ『ちゃんとはするのよぉ』って言ってたわ」


 あの人、何言ってんの? 普段は冷静で知的な母親なのに、なに爆弾発言してんだ。俺の意見聞けよ。


 「で、でもパパさんが許さないだろ!」

 「ママが頃合いを見て、あんたの靴隠すらしいから」

 「は?」

 「それで適当にパパに『泣き虫さんならさっき帰ったわぁ』って誤魔化すらしいわ」

 「...。」


 いやマジであの人、何言ってんの? あ、そういえば花火大会が終わった後、千沙から聞いたな。『なんかお父さんとお母さんがに行きました』って。


 なんだ“花火ウォッチ青姦”って。屋外セッ〇スだよね? 知り合いのソレ系の事情は知りたくなかった。


 そんなことがあったからか、俺と陽菜もそういう雰囲気にしたかったのかな? やめてくれよ。余計なお世話この上ないよ。


 「か、和馬がその気なら...私のこと『好き』って言ってくれれば、その、じ、よ!」


 なーにが“実行可能”だ。意識高い言葉使っても、すること交尾だからな。


 「はぁ......馬鹿言ってないで宿題やるぞ」

 「な、なによ。期待とアソコ膨らませてるくせに強がっちゃって」

 「うっ、うるさいな。っていうか見んな。大体、お前の宿題を終わらせるために俺はここにいるんだぞ」

 「ケチ」

 「ビッチ」


 ケチで童貞失ってたまるか。隣の部屋に葵さんが居んだろ。


 俺が卒業した後なら気楽にセフレってことで頼むよ。というか、お願いします。ぐへへ。


 「国語か」

 「苦手?」


 「うーん、苦手........かな」

 「ふーん」


 「今日は無理かもしれないけど、普段なら葵さんとか千沙なら勉強教えてくれるんじゃないか?」

 「そうねぇー。葵姉は得意らしいけど千沙姉はアウトね」


 千沙は頭が良いって聞いたんだけど、国語は苦手ってことかな。あの千沙がねー。意外だ。


 「いつだったっけ。一番驚いたのは、千沙姉が国語のある文章問題で」

 「テスト?」

 「そ。[孫が祖母の墓の前で泣いているのはなぜですか?]って問題があったのよ」

 「そういう問題は前後の文章から答えを探すんだろ?」


 そこだけ切り取って言われてもあってるか間違ってるかなんてわからなくね? 俺はそんな疑問を陽菜に言った。


 「まぁまぁ、最後まで聞きなさいよ。“あってるか”じゃなくて、“絶対に間違っている答え”なのよ」

 「?」

 「[あくび]って書いたのよ。テストに」


 それ“国語”が苦手というより“道徳”がなっていないと思う。なんだアイツ。思ってたよりヤベー奴じゃん。テストにそれ書いて出す奴おらんよ。


 「絶対違うな.....」

 「でしょ。コレは頼れないなって」

 「コレって.....」


 たしかに千沙は頼れないな。あいつは理系ってことかな。いや理系でもそんな解答しねーな。


 「でも意外だな」

 「?」

 「千沙と宿題やってた時は特に国語で悩んでいる様子は無かったけど」

 「なっ?! ちょっ、それどういうこと?!」


 未だ隣にぴったりくっついている陽菜が、更にのめり込むような体勢で俺に聞いてきた。


 「ち、近い近い」

 「いつやってたの?! あんた、この夏休みはほぼずっとうちに居たじゃない?!」

 「いや、だから夜ね? あいつとゲームする以外にも一緒に宿題とかしてたし」

 「あーそういうこと」


 落ち着きを取り戻した陽菜が安堵した。千沙との勉強の際、膝枕してもらったことは黙っておこう。正直、体勢的にアレは勉強にならなかったな。俺がしてもらいたかっただけだし。


 そんなこんなで宿題に取り組むこと開始から5時間が経つ。もう日付も変わってるし。これマジで徹夜するのかな? 俺まで? 明日学校なんだけど。いや日付変わったから今日か。


 「陽菜、悪いけど今日はもう帰―――」

 「.....。」


 陽菜は特に聞くことが無いのか、先ほどから黙々と集中して宿題をしている。


 はぁ.....仕方ない。真面目に頑張っている奴がいるんだ。もう少しここに居よう。べ、別に甘やかす目的じゃないけど、俺も何かの教科手伝おうかな。


 たしか陽菜は理科とか得意になったんだっけ? なら少しやっても得意科目ならいいかな。苦手科目ならやらせるけど。


 俺はそう考えて、理科の宿題に手を付ける。他の教科よりそんなに量が無いため、すぐ終わりそうだ。しっかし懐かしいな。半年前くらいまでは俺も受験生だったのに、勉強しないと記憶に残って無い感じがする。


 「あ、やっぱできちゃいそう」


 しばらくして俺が密かにやっていた理科の宿題が終わり、陽菜の様子を見た。


 「すぴー.....すぴー.....」

 「.....。」


 こいつ、なに寝てんの? 陽菜が頑張っているから手伝ってやってんのに何様じゃ。


 「はぁ......俺も眠くなってきた」


 陽菜も寝てるし。俺から襲わなければちょっとくらい仮眠してもいいよね?


 「元々、今日のバイトで疲れてたんだ.....ふぁあ。おやす.....み」


 バイト野郎はそのまま意識が遠退くのを感じ、数分足らず仮眠に入った。仮眠で済めば良いんだけど.....。








 「ほら朝よぉー。陽菜、起きなさい」


 なんでか、真由美さんの声が聞こえてきた。寝ぼけてんのかな。俺は“陽菜”じゃなくて“和馬”だし。


 っていうか、ちょっと寒いな。ああ、そういえば俺、寝ている時に暑く感じると無意識に服を脱ぐ癖が偶にあるんだよなぁ。


 「あ、いや、確かめたいし、やっぱり中に入るわぁ!」


 勢いよく開けられたドアの音がする。朝から元気な真由美さんが起こしに部屋に入ってきた。


 俺は、俺の上に乗っかかるに足を絡めて抱き着いたままだ。抱き心地が良いというか、良い匂いがするな。


 「うぅ.....」

 「んぁ? んだコレ」


 なんだこの布団、柔らかいし、なんか.....。


 あ。


 「きゃー! やったわ! 陽菜、今日は赤飯よぉー!」

 「ふぇ?」

 「っ?!」


 半裸の俺は急いで俺の上に抱き着いたまま乗っている陽菜を勢いよく退かしてその場を離れた。ふ、布団じゃなくてお前かよッ!!


 「あいだッ?!」

 「カメラもこの通りばっちりよぉー!!」

 「なっ、なななんで?! 俺はここに.....は?!」


 そういえば陽菜の宿題手伝ってたッーーーー!!


 え? 仮眠じゃなくてガチ寝してたのかよ?! やばい、それで真由美さんは誤解をしたのか?! 俺、半裸だし!!


 「ふふ。人間、ヤるときはヤるのねぇ」

 「いやいやいや誤解ですから!」

 「あ、朝ッ?! ど、どうしよう。宿題終わってない.....」


 そんなことどうでもいいわッ!!


 陽菜は俺より若干遅く起きたから気づいてないのか。


 よし。朝からこの状況は頭が追い付かないし、


 「すみません!! お邪魔しましたッーー!!」

 「ちょっ、和馬?!」

 「泣き虫さん、詳しくは次回のバイトの日にねぇ」


 逃げよう。



――――――――――――――



ども! おてんと です。


すみません、137話で「7章完結」って書きました。正しくは「8章完結」です。許してください。


今回で8章完結です。次回からは9章に入ります。


あまり今まで学校のことを関連させなかったのですが、9章からはちょこちょこ話に入れようかと思います。


ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。


それでは、ハブ ア ナイス デー!

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