第114話 掃除もバイト・・・

 「今日は可愛い可愛い妹と倉庫で一緒にお掃除です」

 「今日は雑用か」

 「......。」

 「わ、わーい。妹とイチャイチャするぞー」

 「キモいです」

 「......。」


 天気は晴れ。気温も40度近くあり、「夏でもこんな暑い日あるんだな」って思うくらい暑いわ。それに最近雨が無いせいか、畑の土もぱっさぱさで乾きまくっている。いい加減降ってくれないと作物が駄目になってしまいそう。


 「あぁー。倉庫って暑いなぁー。日が当たらない分、涼しいと思ったんだけどな」

 「まぁそんな高さがある造りじゃないですからね」


 と言っても、今日のバイト野郎の仕事はクソ暑い中、畑仕事はせずに作業着姿の千沙と倉庫の掃除だ。倉庫って言っても西の物置小屋のことなんだけど。


 「うっわ。すごい土埃」

 「そんな掃除しませんから。年に1回くらいです」

 「年末の大掃除か」


 掃除が今日の仕事になるわけだが、「なんだ掃除か。すぐ終わりそう」って思ってた俺が馬鹿だったわ。舐めてました。これどう見積もっても一日で終わらないよね?


 「ほら、無駄口叩いてないでさっさと片付けますよ」

 「ほーい」

 「あ、これ外に持って行ってください。あと暑いからってマスクは外さないでください。鼻の穴、土埃で真っ黒になりますよ」

 「へーい」


 珍しく千沙がやる気である。普段仕事しないくせに。


 俺は千沙に言われた通り、掃除に邪魔な機械(?)を外に出した。そんでもって暑いからマスクを外したが、千沙に指摘されたので我慢して付け直した。


 機械を出し終えた俺は再び倉庫に戻ってきたら、千沙の目つきが鋭くなって何かを探していた。そしてどこか怯えているようにも見えた。


 「どうしたん」

 「.....蜘蛛がいました。しかもおっきいヤツ」


 あー蜘蛛かぁ。偏見だけど女の子って蜘蛛苦手な人多いよね。たしかに見た目気持ち悪いよな。脚が8本のところかな? でも蜘蛛あっちから人間こっちをみたら「うっわ脚が2本(笑)」ってキモがられるよね。


 「千沙、蜘蛛苦手なの?」

 「蜘蛛というより虫全般ですが」

 「女子だねー」

 「じゃあ男子なら始末できるんですか?」


 なんで始末?


 いや、まぁ虫は嫌いじゃないから毒とかなければ触れるけどさ。蜘蛛って基本益虫じゃん。始末するより放置してゴキブリとか蛾とか食べてほしいな。


 「ほら、蜘蛛なんかかまってないで掃除しよ。終わんないよ?」

 「いや、蜘蛛の始末を先にお願いします」

 「人間に危害加えないよ」

 「びっくりして心臓止まったらどうするんですか?!」


 死因:蜘蛛の出現ってか。そんな妹哀しずぎるわ。


 「千沙が心臓止まったら俺が目覚めのキスするよ。なんちゃって」

 「っ?!」

 「あ、心臓マッサージの方が現実的か」

 「し、しそうになったら兄さんをぶっ殺しますから!!」


 死んでいるのにどうやって?


 千沙の顔が赤い。こんな蒸し暑い空間でマスクしながら掃除していて、おまけに苦手な蜘蛛も出てきたもんな。興奮して熱中症だけは避けてもらいたい。


 「は、早く! さっきそっちの物陰に行きました!!」

 「はぁ......」


 俺は仕方なく千沙の言われた通り、蜘蛛をにその場に向かった。殺すなんてできない。可哀想だろ。


 というのも、なぜ俺が蜘蛛をかばうのかというと高橋家ではこういった益虫を大切にする習慣があるからだ。ゴキブリとか食べてくれるので重宝するし、もし部屋の中で出くわしても「あ、ちーす」ってつい言ってしまう間柄だ。


 「お、いたいた。こっちへおいで」

 「殺さないんですか? 見損ないました」

 「か、可哀想だろ。よーし、捕まえた」

 「よ、よく掴めますね。そのまま潰してください、

 「まだ手で潰してないのに、距離あけるんじゃないよ」


 お兄ちゃん泣いちゃうよ?


 蜘蛛をみたらやっぱり“アシダカグモ”だった。益虫も益虫。この蜘蛛は尚更殺せない。日本の一般家庭ではよく出るし、間違えて(?)殺してしまう人もいるができれば放っておくのが一番良いのだ。餌となる虫がいなければ自然と家から出ていくしね。餌がいたら住み着くかもしれないけど。


 あ、そうだ。俺は捕まえた蜘蛛を外に持って行こうとするが、その“アシダカグモ”を捕まえたままの手で


 「ちょっ! なんでこっちに来るんですか!」

 「ふふふふ」

 「やめてください! お願いします!」

 「どーしよっかっなぁー」


 千沙がめっちゃ怖がっている。なにこれ、超楽すぃー。思えば、こいつってどんな時も俺より優位な立場な状況が多いよね。たまにはイジメてやりたいという俺のクズな部分が出てしまった。めんご。


 「そういえば千沙、俺に対して何か言うことあるんじゃないか?」

 「ないですないですないです! 本当にソレ苦手なんで近づけないでください!!」


 あるだろ? 人が次の日朝早くから仕事だっていうのにお前は毎晩毎晩ゲームに付き合えとしつこいじゃないか。それにこの前の“ボイスレコーダーの件”とかさ俺、少しくらい仕打ちしても良いと思うんだ。反省させたい。


 「に、兄さん、それ以上は本当にやめてください!」

 「ほらぁー日頃さぁー」

 「すみません! 謝りますからぁ!!」

 「ほほう。例えば?」

 「嫌いなピーマンを兄さんの皿に移したり、夜遅くまでゲームに付き合わせたり、夜起こしに行ったときに中々起きないから鼻にじゃが〇こ突っ込んだり―――」


 可愛い懺悔だ。そういえば、あんま気にしてなかったけど、朝食のときに俺の皿だけピーマンがやたら多かったのって千沙がいるときばっかだよね。


 「ってじゃが〇こを鼻に突っ込んだのってお前かよ?!」

 「え、わ、私以外いないじゃないですか」

 「なに開き直ってんだ。寝返り打ったときめっちゃ痛かったんだぞ!!」

 「つ、次からはポッキーにします」

 「そういう話じゃねーよ!」


 俺は反省しているのか、いないのかわからない妹との距離をさらに縮めた。なんか強請ゆすると他にも出てきそう。俺のが。


 「.....他には?」


 俺は蜘蛛がインしている両手を千沙の目の前まで近づけた。


 「ひっ! えっと! えっと! バックアップを頼まれたときに兄さんのデータをジャンルごとに整理してすみませんでした!」

 「.....知ってる。他には?」

 「LI〇Eのパスコードを知ってたので覗き見したり、兄さんの寝顔を撮ったり―――」

 「......。」

 「兄さんが休暇で留守の時に部屋に入って昼寝とか夜寝たり、兄さんのシャツ勝手に着たり―――」

 「...........。」


 後半可愛いな。俺が寝てた布団で自慰でもしたのかな。しかもシャツ着るとか、“彼シャツ”じゃん。いや彼氏じゃないけど、めっちゃムラムラするわ。見たかったぁ。


 仕方ない、許そうかな―――。


 「布団の上で麦茶こぼしたり、部屋があまりにもイカ臭いから消臭剤置いたり―――」


 え、まだ続くの? いや、アレ麦茶だったの? なんか布団が濡れてたのが意味不明すぎてその日は寝れなかったわ。畳の上で寝たし。


 おい。イカ臭いってアレか。アレが原因なんだな?


 「使うときなんてこないだろうと思ってバッグに入ってたコンドームを勝手にゴミ箱に捨てたりしてすみませんでした!」

 「よし、悔い改めよ」

 「っ?!」


 我慢の限界だったので俺は怖がる千沙に蜘蛛を投げつけようとした。


 が、どうやら千沙あっちも我慢の限界だったらしい。


 「うぅ....くぅ....うっ..」

 「え」


 ...ち、千沙が


 「なんであやまっでるのにぢがづけるんでふきゃ謝っているのに近づけるんですかぁ

 「あ、いや、えーっと」

 「ぼうじりまべんもう知りません。ひっく.....ううっ」

 「ご、ごめんなさい」


 マジ泣きじゃん。両腕で顔隠してるけど、ガチ? すごい罪悪感なんですけど。これは流石にやりすぎてしまったな。


 「にいさんなんかだいきらいです」

 「......。」


 いや、まじでごめん。

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