第39話 絶体絶命
「何してるの? 2人して」
「父さん助けて! 動けないの!!」
「自分は泥で溺死する恐れはありませんが、まず早とちりして殺さないでください」
嬉しいのか何なのかわからなくなってきたが、とりあえず行動してくれた。雇い主は助けてくれるために荷台からロープを出してきた。
なるほど俺がそれを手に持って、そっちが引っ張るんですね?
そして、軽トラの後ろのフックにロープをひっかける。もう片方をこちらに持ってきて、
「これでよし」
「待ってください、なぜ首に巻くのでしょうか?」
「え?」
え? じゃねーよ。片方、俺の首に巻き付けてんぞこら。
「トラックで今から引っ張るから大丈夫だよ?」
「すみません、正気の沙汰とは思えないのですが」
「大丈夫、大丈夫。“クリープ現象”って言ってね、車は最初ゆっくり進むから」
「すみません、正気の沙汰とは思えないのですが」
この人の目、もう完全バイト野郎を殺す気満々なんですけど。俺は空いている両手でロープを全力で掴んだ。
「父さん、ふざけないで! 私、か、かかか硬いのが当たってるの! 彼のが、えーっと、とっても辛そうだから早く!!」
さすが葵さん。見事な火に油を注ぎっぷり。これでバイト野郎の寿命は5秒後となりました。
『ブンッブンッブーーーンッ!!』
なにがクリープ現象だ。アクセル全開じゃねーか。かっ飛ばす気で満々で煽ってくるんだけど。市中引き回しの刑が始まるんだけど。
っていうかそのトラック、マニュアル車じゃねーか。クリープ現象ねーよ。オートマだけだよ、その現象。
「ど、どーしよ?!」
「葵さん、最期に1つだけよろしいですか?」
「え、何?」
「おっぱい揉んでいいですか?」
「ダメだよ! よく惜しみなく言えたね?!」
「いいじゃないですか、俺の胸筋ばっか触って、俺がダメなんて理不尽すぎません?」
「そ、それは悪かったけど.......」
「これから、いつでも俺の触っていいですから。.....これからがあればですけど」
「うぅ」
断りきれない葵さん。この人、押しに弱くない?
普通、おっぱいと胸筋なんて同価値じゃないでしょ。
「い、いつでもだからね? そ、それと優しくお願いします」
「.......。」
いいんかい。
そんなに触りたいの? 俺、葵さんのこれからが心配になってきたんですけど。そこらへんに落ちているマッチョにほいほいついて行きそうで怖いんですけど。
「.....じゃ、遠慮な―――」
『ブオンッ!!』
「危なっ!!」
俺はギリギリ、急発進したトラックのロープを掴んだ。体が微かに浮き上がる。泥の抵抗力のおかげか、もう少しで首が持っってかれるところだった。
「チッ」
雇い主、サイドミラーで俺が油断したかチラチラ様子見てるんですけど。ねぇ、今舌打ちしてなかった?
「だ、大丈夫?!」
葵さんが心配してくれる。くっそ! おっぱいは目の前にあって、本人公認なのに!! ロープから手を離せば首がもってかれる!!.......なにこの状況。
「父さん! ゆっくりね?!」
「あいよ」
絶対わかってない、アレ絶対わかってない。ゆっくりとかじゃなくて、首に巻いたロープをどうにかして欲しんですが。
よし、今の状況を再確認だ。俺が仰向けで、葵さんが馬乗り、そして俺の首にはロープで引っ張り出してくれるという、トラックの運転手の雇い主。カオスの極みだね。
「葵、もう少しの辛抱だ! 今、父さんが助けるからな!」
「う、うん? よろしくね!」
なお、バイト野郎は助けてくれない模様。わかってたが、これでますます気が抜けない。
つうか、それならまず葵さんをロープで引っ張り出そうよ? なんでバイト野郎の首なの? 順番に助けてよ。
「あ、あなたたち、何をしてるのかしら?」
別の軽トラ通りかかった真由美さん、まじナイスタイミング、まじ女神、まじ結婚してください。
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