第31話 数学は頑張れば誰だって解けるさ

 今、なんとなくだけど、俺寒気がするんだけど。クーラー効きすぎたかな。俺はポチポチとリモコンを操作する。


 「ねぇねぇ、陽菜ぁ?」

 「な、何かしら?」

 「私いつから数学苦手になったかなぁ」

 「っ?!」


 え、なに、どゆこと? あ、わかった。


 「ねぇねぇ、いつからぁ?」

 「うぅ」

 「はぁ陽菜、もう遅いぞ。色々わかっちゃったよ俺」

 「「えっ?!」」


 二人が驚く。さすがになぁ。ま、でも、今更。


 「う、嘘。お兄さんがそんなすぐ気づくなんて.....」


 いや、普通にわかんだろ。陽菜が桃花に数学のこと訊きに行かなくて、俺のとこ来る理由なんてさ。俺、そこまで鈍感じゃないし。


 「ま、待って和馬! これには事情があるの!」

 「はいはい。つまり、桃花に申し訳なかったんだろ」


 「心の準備がぁ!! .....って、え?」

 「いや、だから数学以外の、国語、社会、理科....英語はできるんだっけか。その申し訳なくなったんだろ」


 「..................。」

 「わかるぞ、俺にはわかる。特に数学なんて訊きたいこと多くて、遠慮しちゃうもんな。そりゃあ桃花ちゃんに悪いよな」


 意外と躓くのは個人に差があるけど、しょうもないところでわかんなくなっちゃうんだよね数学って。そういうのが恥ずかしくて、前に進めなくて困るんだよなぁ。


 「大丈夫。俺もすっごく苦労したから。小さなことでも、なんでも訊いてくれ。一緒に考えるから」

 「................える」


 「え?」

 「私帰る!!」


 「え、いや、まだ終わってないぞ、この問だ―――」

 「うっさい! 滅べ!!」


 え、ええー。ほ、滅べって初めて言われたんだけど。


 『ガチャッ!! バタンッ!!』


 ドアを勢いよく開け、強く閉じていった陽菜。お、俺なんかまずいこと言った?


 「お、お兄さん、やばいよ」

 「なにが」

 「脳みそ」

 「いたって普通なんだけど....」

 「陽菜がちょっ可哀想」


 滅べって言われた俺の身にもなって?


 「そ、それで桃花ちゃん、なんで来たの?」

 「あ、あぁ、なんかもういいかなって」

 「そうか、なんか悪いな」

 「いや、謝るなら陽菜に言ってよ........」


 こいつ用もなく来たの? ほんっと何がしたいの?


 「あ~でもこれせっかく持ってきたし、渡しておく」

 「なにこれ」


 そう言われて、俺は桃花ちゃんから風呂敷に包まれた箱のようなものをもらう。


 「おかず」

 「え」

 「ほら、前お礼するって言ったじゃない?」

 「あぁ、アレか」


 そういえば買い物に付き合った時、言ってたな。でもお礼って“身体”じゃなかったでしょうか。


 「お兄さんって1人暮らしみたいな生活しているからか、スーパーのお弁当ばっかでしょ?」

 「たしかに。わざわざありがとうな。試験期間なのに作ってくれるなんて」


 やったね! J Cの手作りご飯ゲットだぜ!!


 「? おばあちゃんが作ったやつだけど、それ」

 「...............わ、わーい」


 まじか。いや、まぁ嬉しいけどさ。普通、お礼なら自分で作るもんじゃないのか。


 「まぁ、田舎の味だと思って」


 もらった側の複雑な気分も知らずに、桃花ちゃんは言う。普通にうまいやつってのはわかるんだけどさ。


 「........早いよ。私のを食べたいならね」

 「え」


 顔に出てたかな。そんながっかりしてないし。つか、よく心の中で思ってたこと分かったな。


 「じゃ、私帰るね?」

 「おう。洗って返すわ」

 「うん」


 そう言って俺は玄関まで桃花ちゃんを送る。今日はスーパー行かずにすんだな。弁当は日持ちしないから、毎回毎回買いに行くのが憂鬱なんだよな。


 「しっかし陽菜のやつどうしたんだ。っていうか、教科書置いて行ってるし。あとで桃花ちゃんに渡して、陽菜に学校で返してもらおう」


 俺はなぜか変な予感でもしたのか、テレビがあるところまで早足で向かう。そしてDVDプレーヤーのボタンを押す。


 『ウィーン』

 「..................。」


 俺は中から一枚のDVDを取り出す。18禁のな。


 『ポロッ』

 「........あいつ、折ったな」


 お宝がまた1つ減ってしまった月曜日であった。

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