第三四一食 自炊男子と女子高生2ー①
★
俺がアルバイトをしているスーパーマーケットは、下宿先や大学からは少し離れた場所にあった。
俺は基本的に
それに、職場で一定の信頼を得ていれば予期せぬメリットがあったりもする。たとえば――
「おー、
「
事務所で退勤打刻を済ませた俺に声を掛けてきたのは
「そういえば、家森くんは野菜好きかい?」
「へ? え、ええ、まあ」
突然の質問に
「実は野菜が大量に余っちゃってね。よかったら持って帰っておくれよ」
「え……で、でも流石に商品を勝手に持って帰るのはちょっと……」
「あー、違う違う。店の
「な、なるほど」
野菜コーナーで働きながら趣味で野菜作ってるってどんだけ野菜好きなんだよ、というツッコミは飲み込み、俺は差し出された大きな袋を両手で受け取る。中にはレタスやきゅうり、トマトなど、とても
「……あれ。でも家森くんって、実家じゃなくて一人暮らしって言ってなかったかい?」
「はい、そうです」
「だとしたらその量はちと多すぎるかね?」
「あ、いえ、大丈夫です。俺の他にもう一人、すごくよく食べる子がいるんで
「ほほー? さてはコレかい? いやあ、若いってのは羨ましいねえ」
「は、はは……」
悪戯小僧のような笑みと共に小指を立てて見せる田中さんに、俺は
だが今は違う。あの子が――
田中さんに礼を告げ、店の裏口から出た俺はバイクに
「(
初めは相手が年下の女子高生ということもあり、おっかなびっくり話していたのを思い出す。夕食をご
だがあの時一緒に食卓を囲んでいなければ、きっと俺たちはこんな関係にはなれていなかっただろう。そう考えると、あの日の夕食は俺たち二人にとって劇的だ。
これまで何度も繰り返してきた思考を、今もう一度。
あの日、あの子に声を掛けて本当に良かっ――
「――……真昼?」
うたたねハイツの二階廊下に立った俺は一瞬、現実と記憶が
俺が目を向けたのはうちのお隣さん、二〇五号室のドアの前。アパートの構造上どうしても通らねばならないその場所に、一人の女の子が体育座りでうずくまっている。俺の声に反応し、制服に身を包んだ彼女が膝に
相違点を挙げるとするならば、俺にとってその子はもう〝見知らぬ少女〟ではないということ。そして――
「……お兄さん」
――いつもお日様のような笑顔を浮かべていた彼女の顔が
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