第三一五食 優等生と学力低下②
「ひま。あんた、私になにか隠し事してるでしょ」
「えっ」
学校からの帰り道、ひよりは並んで歩く
「な、なに言ってるのひよりちゃん? わわ、私別に隠し事なんてし、してな、ないよ?」
「そんだけ分かりやすく動揺しておいて、よく
視線を泳がせながらダラダラと冷や汗を流す親友に、〝母親〟の少女は歩くスピードを変えぬまま流し目を送る。同級生の二人とはいえ、昔からなにかと世話になってきた分、真昼はひよりに対して頭が上がらない。そんなひよりから向けられる冷ややかな瞳を見て、少女は「あう……」と小さく肩を
「……まあ、もう
「へ?」
「あんた、期末試験の結果、悪かったでしょ」
「はうあっ!? ば、ばかな、どうしてそのことをっ!?」
完全犯罪のトリックを見抜かれた犯人のごときリアクションをとる真昼に対し、ひよりは「見てれば分かるわよ」となんでもないことのように答える。
「
「あぐっ!?」
「半年前まではいつ見ても教科書が山積みになってたあんたの部屋の机にも、勉強した
「いぐっ!?」
「むしろ机に広げられてたのなんて料理とかの本ばっかりだったし、本棚に並んでる参考書の数も減ってたし」
「うぐっ!?」
「期末が終わった日もいつもより自信なさげだったし、さっきも返ってきた解答用紙をすぐに
「えぐっ!?」
「
「おぐっ!?」
〝母親〟の圧倒的観察眼および記憶力に打ちのめされ、少女は胸を押さえながらフラフラと
「英語八二点、古文八〇点、日本史八五点、化学七六点……か」
赤ペンで記された点数を読み上げつつ、ひよりは微妙な表情を浮かべた。この四科目の平均点は、ざっと八〇点くらいだろうか。まだ全体平均や学年順位が発表されていないためなんとも言えないが、決して恥じるほどの成績ではないように思える。
しかしひよりが知る限り、真昼は中等部時代から――家庭科や美術のような実技科目を除き――ほとんどの試験で九〇点を下回ったことがない。以前雪穂も誇張混じりに言っていたが、真昼の平均点は一〇〇点に限りなく近かったはずだ。そこから二〇点も落ちていると考えれば、彼女が思わず隠したくなる気持ちも分かる。
無論、中等部と高等部では授業内容の難しさ・複雑さは比べるべくもないし、中学で優等だった生徒が高校でもそうあり続けることが出来るとも限らない。だがそれらを踏まえた上で真昼の成績不振、その最大の原因は――
「
「っ!」
ズバリ指摘したひよりに、今度は
「そういえばあんた、試験直前にあの人が風邪引いて気が気でなくなってたり、あの人に贈るクリスマスプレゼントを買うためにバイトするとかって浮き立ってたもんね。テストに身が
「うっ……」
おそらく自覚があったのだろう。少女は奥歯で
「ひま……大丈夫なの? たしかあんたがお父さんと約束した〝一人暮らしの条件〟って――」
「ひよりちゃん」
真昼がひよりの言葉を
「ごめんね、心配してくれてありがとう。でも、大丈夫だよ」
「……」
「お兄さんには何も言わないで。私の成績とお兄さんはなにも関係ないし……きっと余計な心配をかけちゃうだけだから」
いつになく真剣な声でそう言った親友の姿は、冷静であるようにも必死であるようにも見えた。それはもう二度と同じ失敗はしないという自信によるものか、それともようやく想いが
「……そうだね、あの人なら」
そう答えながらも、ひよりの胸に
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