第二一一食 隣の少女とレベルアップ
★
「もっと上手にお弁当を作れるようになりたいですっ!」
「……」
俺たちの間を
「もっと上手にお弁当を作れるようになりたいですっ!」
「目玉焼きに
「あ、今日はソースでお願いします」
「ん。それじゃ、いただきます」
「わーい、いただきまーす! ……じゃなくてっ!? ど、どうして無視するんですかお兄さんっ!?」
大好きなご飯を前にわずか五秒で話を忘れかけた少女は、しかしすぐにハッとしたように頭を振った。
「いや、もっと上手に弁当を……って言われてもなあ」
固めの両面焼きに仕上げた目玉焼きの
「そもそも昨日の弁当だってよく出来てたじゃないか」
「で、でも見映えは良くなかったじゃないですか! ぐちゃぐちゃのドロドロになっちゃいましたし!」
「少なくともドロドロではなかっただろ。じゃあ次からは持ち運びに気を付ければいいんじゃないか?」
「そういうことじゃないんですっ!」
血を吐くように嘆く真昼。あくまでも本心を言ったつもりなのだが……どうやら本人的には昨日の
「私はっ……! 私はもっと綺麗でお洒落で、お弁当を作れるようになりたいんですっ……!」
「味噌汁、冷めちゃうぞ?」
「あっ、本当だ!? ……ふう、やっぱり寒くなってくると朝ご飯のお味噌汁が嬉しいですよねえ。……じゃなくてっ!? なんでさっきから微妙に話を逸らそうとするんですか!?」
「ごめんごめん。冷めたらもったいないなと思って」
そんなおふざけ会話を挟みつつ、目玉焼きを一つ食べ終えた俺は改めて首を
「でも意外だな。真昼って食べられればなんでもいいタイプだと思ってたのに」
「ど、どういう意味です?」
「なんというか、食べ物に『綺麗』とか『お洒落』とか求めなさそうというか……『胃袋に入っちゃえば関係ないですよっ!』とか言いそうだろ?」
「お兄さんの私に対する
「思ってるんじゃねえか」
そりゃそうだろう。中学三年間をコンビニ弁当とスーパーのお惣菜という、仕事に疲れ果てた独身サラリーマンみたいな食生活で乗り切った彼女が、いわゆるデコ弁やキャラ弁といった見映え重視の弁当に憧れているとも思えない。
ちなみに俺も同類みたいなものだ。といっても俺の場合は盛り付け方やら飾り切りやら、そういう面倒な行程に時間を
「い、いえ、私もデコ弁とかキャラ弁を作りたいわけじゃないんですよ?」
「え? 違うのか?」
「はい。もっと単純に……上手に玉子焼きを作れるようになりたいなーとか、出来るだけ綺麗に仕上げたいなーとか、そういう話です。お兄さんだって味や
「まあ……」
ふとテーブル上の皿を見てパッと頭に浮かんだのは、一〇〇均などに売っている目玉焼き用の型だった。フライパンの上に置いてその中に卵を落として焼くだけ。手間もほとんど変わらないのに綺麗な円形や星形に焼き上がるということで、一時期うちの母親もハマっていた記憶がある。……「無駄に洗い物が増える」という理由から、いつの間にか使われなくなってしまったが。
もっとも、真昼が言っているのは一品一品の出来映えや盛り付け順など、多少の調理スキルと意識次第でどうにかなるようなレベルの話だろう。
「……でも、そういうことなら練習あるのみなんじゃないか? 何回も繰り返し作るうちに慣れていくものだろ、今までの料理みたいにさ」
「はい! だから繰り返し作ろうと思って!」
「……ん?」
どういうことだろう、と俺が首を傾けたのも
「私、お弁当デビューしてみます!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます