第一〇三食 JK組と浴衣姿
「……ったく、なんでどの自販機も売り切ればっかなわけ? 下駄のせいで足がすっごい痛いんだけど」
「考えることはみんな同じってことでしょ」
「あ、
からんころんと神社の石畳に下駄を鳴らしながら歩く友人たちの姿を捉え、
ひよりは黒地に
一方の雪穂は淡い
「二人ともおかえりー。ジュース買えたー?」
「一応ね。あ、出口らへんの屋台でたこ焼き買ってきたけど食べる?」
「食べる食べるー」
「ほら
さっそく出来たてあつあつのたこ焼きをもぐもぐ頬張る亜紀を横目にひよりが
「……なにしてるの、あの子?」
「んあー、ついさっきまでおにーさんと電話してたんだよー。なんか海でのナンパのこともあったから心配で掛けてくれたんだってー」
「……あの人らしいわね」
微笑して、ひよりは帰省中だという大学生の青年の姿を頭に浮かべた。
真昼を除けばこの場で最も
「ふーん? なんか異様に大事にされてるよね、まひるって。そんで? 今はなにしてんの、あの子?」
「おにーさんとのメッセージ履歴眺めながらニヤニヤしてるー」
「気持ち悪っ!?」
思わず酷い本音を叫んでしまったのは雪穂だ。
「ええ~……? いやまあ、年頃の女の子の行動としては別に普通かもしれないけど……今この場で、お祭りの真っ最中にそれやる……? 〝お兄さん〟のこと好きすぎでしょ、あの子……」
「そのツッコミならさっき私がやっといたー」
「というかまひるってあんな露骨に〝お兄さん好き好きオーラ〟出してたっけ? 一応表面上は『好きとかそういうのじゃないからっ!?』とか恋の自覚がない乙女みたいなこと言ってなかった?」
「ねー。まーそれこそナンパの時に助けられて自覚しちゃったとかじゃないのー?」
「そうなのかな……まあいっか、今さらだし」
真昼と親しい彼女ら三人からすれば真昼が夕に対して特別な感情を抱いていることなど分かりきっていたことだ。それ自体に驚くべき部分はない。
「……でも大丈夫なの、あの子……あんな天使みたいな笑顔浮かべといて、やってることがストーカー予備軍のそれなんだけど……」
「雪穂は人のこと言えないでしょー。海で撮った
「蒼生さんはいいのよ、だってイケメンだし」
「なにその理屈ー。あとサラッとおにーさんはイケメンじゃないみたいな言い方やめたげてー」
亜紀と雪穂がそんなことを言いあっていると、ちょうどその時真昼が携帯電話から顔を上げた。どうやら彼女は戻ってきたひよりたちにも気が付いていなかったらしく、「あっ、ひよりちゃん雪穂ちゃん、おかえりっ!」と元気な笑顔を向けてくる。
そしてそんな親友を見てなにを思ったのか――ひよりは真昼の肩にぽん、と手を置いて言った。
「ひま……オトすにしても、法に触れないやり方を選びなよ?」
「いきなりなんの話っ!?」
なにやら危機意識を抱いたらしいひよりの言葉に動揺する真昼。そしてその話に便乗するように、亜紀が「そういえばさー」と続ける。
「さっきの写真もー、どーせ送るなら
「ぜったい嫌だよ!?」
「そんな写真個人的に送ってくる女とか間違いなく地雷っしょ……」
「でもその写真じゃー肝心のまひるの浴衣姿をおにーさんに見てもらえないじゃんかー」
真昼の携帯電話の画面に映るのはひより、亜紀、雪穂の三人を後ろから撮影した例の写真。その中に真昼の姿はなく、写真の下の方に辛うじて控えめなピースサインが映されているだけだ。
するとそこで亜紀が妙案でも考えついたかのようにぽんっ、と自らの手のひらに拳を打つ。
「ねーねーひよりんー。たしか今週末にまた別のお祭りがあるんだよねー?」
「え? ああうん、花火メインの祭りがあるはずだけど」
「それでまひるー、おにーさんって今週末には帰ってくるんだよねー?」
「う、うん。ちょうど週末頃に戻るって言ってたけど……そ、それがどうかしたの……?」
「んっふっふー……」
妙に自信ありげに笑う亜紀に、残る三人が揃って一歩身を引いた。……このゆるふわ少女がこういう笑い方をするのは面白いことを思いついた時だけだと、真昼たちは経験則で知っているからだ。
「写真より実物の方が嬉しいでしょー、まひるもお兄さんもー」
そう言った亜紀は、早くも自分の携帯を勢いよく操作し始めていた。
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