第一〇一食 家森夕とオーバーケア
★
自分で言うのもなんだが、俺は友だちに恵まれている方だと思う。……いや、待ってほしい、そんなに疑わないでほしい。毎度ウザ絡みしてくるどこかの
それに恵まれている、と表現したが、それは数の話ではなく質の話なのだ。……いや、待ってほしい、なおさら疑念の色を濃くするのはやめてほしい。息を吐くようにドタキャンするどこかの
閑話休題。
繰り返すが、俺は友人に恵まれたという自覚がある。別に〝命を投げ出してもいいと思えるほどの親友〟だとか〝第二の家族とも呼べるような仲間たち〟だとかがいるわけじゃない。友だちの絶対数だって特別に多いというわけでもない。それでも「恵まれた」と思えるのは、俺の性格を
だってそうだろう。俺――
「――じゃあまたなー、家森ぃー!」
「またこっち帰ってきたら言えよなー!」
「おう、じゃあな」
こちらに向けて手を振る友だち二人と別れた後、俺はすっかり暗くなった空を見上げて「ふう」と息をつく。
「(でも……案外いいもんだな、こういうのも……)」
普段から青葉の誘いをあしらっていることからも分かるだろうが、俺は基本的に〝飲み会〟というやつが得意ではない。十数人単位でわいわい騒ぐのが苦手というのもあるし、まだ酒の良さも今一つ理解出来ていないからだ。
けれどしばらくぶりに会った旧友と初めて共にした酒の席を、俺は意外なほどに楽しめた。もっともそれが酒の力なのか、単に久しぶりの再会に気分が高揚していただけなのかは分からないが……。
「……」
程よく酔って
取り出して画面を点灯させると時刻は二〇時を回ったところ。そして今の振動はメッセージアプリの着信通知だったようだ。立ち上げてみると、送信者名は〝
『旭日真昼:ひよりちゃんたちと夏祭りです! お兄さんはもうお友だちとご飯食べましたか?』
そんな短い文章と共に
帰省当日に本人が言っていた通り、真昼からはちょくちょくこうしてメッセージが飛んで来る。「お父さんがご馳走を買ってきてくれました!」や「お母さんと一緒に料理をしました!」など、楽しい帰省になったようでなによりだ。彼女は当初の予定通り三日で歌種に戻ったようだが、今日は今日で友だちと一緒に夏祭りに行っているのだから見事な青春謳歌っぷりである。
思えば俺が今日、柄にもなく高校時代の友人に連絡をとったのは真昼の影響もあったのかもしれない。俺が知っているのは小椿さんたちくらいだが……真昼のことだ、きっと他にもたくさんの友だちがいるのだろう。そんな彼女の姿を毎日見てきた俺は、なんだか妙にかつての友人たちに会いたくなってしまったのである。
「(祭りか……もう長いこと行ってねえな、そういや)」
祭りそれ自体は嫌いではないのだが、あの人混みに自ら飛び込んでいくほど好きでもない。いや断じて、断じて物価が高いからなどではなく。
そういえば
「(しっかし、こんな時間に女の子だけで祭りか……まあ祭りなんてだいたいどれも夜からが
それでも少しだけ心配してしまうのは過保護だろうか。どうにも海でのナンパ事件以降、なにかと気になってしまうことが増えた気がする。
「(……せっかく楽しんでるんだ、水を差すのもな)」
どちらにせよ、一隣人に過ぎない俺が今以上に真昼のプライベートに口を出すのは流石によろしくない。
「…………」
――やはりなんとなく気になって、画面を操作する手を止める。入力中だった本文を消し去り、代わりに指先を伸ばしたのは〝旭日真昼〟の表示の隣にある受話器マークのアイコン。
「(絶対過保護だよなあ、これ……)」
もしかしたら煙たがられるかも……なんて考えながらも、俺は今度こそ手を止めることなくそのアイコンをタップしてしまうのであった。
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