第七六編 試験終わりと大学生
★
「んうーっ! 試験、終わったあーっ!」
八月初頭。私立
俺のすぐ隣を歩くイケメン女こと
「でも今回の試験はかなり厳しかったな。結構勉強したつもりだったんだが……」
「なに言ってんのさ、
「お前はバカだから知らないかもしれないけど、単位なんて落とさないのが当たり前なんだからな?」
「あーあー! そんな正論聞きたくありませんあーあー! 私は三年に上がれればそれでいいんですーあーあー!」
「二年に上がるのも危うかった奴が何言ってんだ」
耳を両手で塞いで現実逃避を試みる友人にため息をついていると、椅子に腰掛けている俺の視界にヌッと大きな人影が覆い
「オイ、ヤモリィ」
「ゲッ! ち、
「テメェその第一声で『ゲッ!』っつーのやめやがれ腹立つ」
人影の正体は千歳
というか大学内では基本的に一匹狼を貫いている彼女から声を掛けてくるなんて珍しい。なんだろうと思って見ていると、彼女はなにやらソワソワした様子で「あ、あのよ……」と口を開いた。
「ど……どうなンだよ……?」
「? な、なにが?」
あまりにも言葉が足りていない質問に対して質問を返すと、隣に座っている青葉が「もう、ニブイなあ夕は」と得意気に人差し指をちっちっち、と振るう。
「千鶴ちゃんが言いたいのはズバリ――『
「違ェよバカ女! 誰もコイツの試験結果になんざ興味ねェっつンだ!」
「わ、悪いな。まだ自己採点してねえからどうだったかは分かんねえ」
「テメェも律儀に答えてンじゃねェ!」
大声を上げて怒鳴った後、金髪ピアスの大型ライダー女子大生はボサボサと後ろ髪をかき上げながら続けた。
「あ、あの子は元気かって聞いてンだよ」
「あの子……ああ、
俺が真昼の名を出すと、千歳はわずかな挙動でコク、と頷く。……どうやら彼女、本当に真昼のことがお気に入りらしいな。
「ああ、元気だよ。最近ちょっと夏バテっぽいけどな」
「あァん!? バテてンならそれ〝元気〟って言わねェだろうがッ!? ふざけてンじゃねェぞテメェ!?」
「ま、真昼ちゃん大丈夫なの?」
「うーん、どうだろう……判断が難しいんだけど、本人曰く食欲が湧かないらしい」
「典型的な症状だろうがッ!? なにが判断難しいンだよクソが――」
「ちなみに今日のあの子の朝食は大盛りカレー一皿だ」
「……」
「……それは……確かに判断に困るね」
「だろ?」
静かになった千歳を横目に、俺は今朝の真昼の様子を思い返していた。『最近暑いせいか、ちょっと食欲落ちてきてるんですよね~』と言いながらデカい皿に山のごとく作り置きのカレーを盛る女子高生の姿を。「食欲が落ちる」とは一体……?
いや、確かに普段の彼女は朝だろうと大盛りカレー二杯半をペロリ平らげる
「と、とにかくッ! 本格的に体調不良ってンなら病院に連れていくなりしてやれッ!」
「ああ、そうするよ。ありがとな、千歳。真昼のこと心配してくれて」
「テメェに礼言われる筋合いなんざねェンだっつの!」
言葉は乱暴だが明らかに照れた様子でズンズン歩き去っていった千歳。そんな彼女の背中に、青葉が「というか」と首を傾げる。
「なんで千鶴ちゃんが真昼ちゃんのこと気にしてるの? というかあの二人って知り合いだったっけ?」
「ああ。こないだたまたまカフェで会って、なんか仲良くなった」
「ま、真昼ちゃんすご……!? 私でも千鶴ちゃんと打ち解けるには至ってないのに……!」
「お前は絶対無理だと思う、
「どういう意味だよそれ」
すると青葉はへなへなと机の上に倒れ込んだ。
「ねーねー夕~。今日遊びに行ってもいいー? 話してたら私も久々に真昼ちゃんに会いたくなってきちゃったよ」
「ええ……?」
「不思議そうにしないでよ! 私があの子と最後に話したの、下手したら一ヶ月以上前なんだからね!?」
「いや、だってお前と真昼会わせたりしたら千歳に怒られそうだろ。『教育に良くない』とかって」
「なんで私そんな汚物みたいな扱いなのさ!? もう怒った、絶対ついて帰るからね!」
「ええ……?」
正直後から面倒なことになりそうなので嫌なのだが……。
しかし結局俺は青葉を振り切ることが出来ず、仕方なく彼女を連れて帰宅することになってしまったのであった。
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