第三二食 夢見る女子とイケメン女子①


「みんな、紹介するね。こちら、うちのお隣に住んでる大学生の家森夕やもりゆうさん!」

「は、はじめまして! 冬島雪穂ふゆしまゆきほっす!?」

「はじめましてー、赤羽亜紀あかばねあきでーす。どうぞよろしくー」

「家守夕です。こちらこそよろしく」


 真昼まひると合流して彼女にジュースをご馳走した後、俺は彼女の友人たちと挨拶を交わしていた。

 一人はなにやら緊張している様子の眼鏡を掛けた女の子・冬島さん、もう一人はのんびりした雰囲気のかなり可愛らしい女の子で赤羽さんというらしい。


「あははー、雪穂ガッチガチじゃーん。どしたのー?」

「だだ、だって! 普段大学生の男の人と話す機会なんかないじゃんか!? むしろなんでアキはそんな平然としてんの!?」

「私、人と話すのに緊張とかしないタイプだもーん」

「なにそれズルい!?」

「(なにそれズルい)」


 当たり前のことのように言った赤羽さんに、俺は心の中で冬島さんと同じ感想を抱いていた。

 というのも、俺だって普段から女子高生と会話する機会などない。自分が高校生だった頃でさえ日常的に話す女子なんてほとんど居なかったのだから当然と言えば当然だが。

 今はほぼ毎日真昼と話すようになったものの、彼女は最初から割と人懐っこかった印象が強い分、俺の中ではあまり〝女子高生〟だという意識はない。例えるならば妹とか近所の小中学生を相手にしている気分というか……。


「……? どうかしました、お兄さん? 私と雪穂ちゃんたちを見比べて」

「いや……真昼が子どもっぽくて本当に良かったと思ってな」

「えっ!? なんですか急に!? ほ、褒めたってなにも出ませんからね!?」

「……今のって褒め言葉判定なのー?」

「まひるの中ではそうなんでしょ」


 そんな話をしていると、不意に真昼が俺の後方あたりを見てわずかに目を見開いた。そして彼女は俺の視線に気付くや否や、すぐに「なんでもありませんよ~」と言わんばかりに吹けもしない口笛を吹き始める。……。


「……はいはい、青葉あおばだな? 後ろから驚かそうとかしなくていいから」

「わあっ――ってなんで分かるんだよぉっ!?」


 前を向いたままそう言うと、後ろから騒がしい声が聞こえてきた。

 目を向ければ、そこには真っ白なシャツにタイトジーンズというシンプルな服装をモデルのように着こなす同学部所属の友人・青葉蒼生あおいが俺に飛び掛かろうとする直前のポーズのままで固まっている。


「残念だったな。不器用な真昼に〝知らんぷり〟なんか出来るわけないだろ。バレバレだ」

「真昼ちゃぁんっ!」

「うわぁんっ! ごめんなさーいっ!?」


 いつの間にか到着していたらしいこのサボり魔は、どうやら俺をびっくりさせて楽しもうとしていたようだ。しかし後ろからこっそり近付いている途中で俺の対面に居た真昼にバレてしまい、仕草ジェスチャー等で「知らんぷりしてて!」と頼んでみたところ、真昼が先程の三文芝居を披露した、と。


「ったく、そんなしょうもないことやってる暇があるならちゃんと授業に出ろっつの」

「ごめんねぇ。昨日はあんまり飲まないようにしてたんだけど、なんだかんだで寝坊しちゃったよね。いやあ、飲んだお酒が悪かったかな?」

「悪いのはお前の頭と成績だ」


 ケラケラといつものように明るく笑う飲んだくれ女に俺がため息をついていると、冬島さんと赤羽さんがなにやら真昼に飛びついた。


「ね、ねえまひるっ!? だ、誰よあのイケメンは!? あの人もアンタの知り合い!?」

「えっ……う、うん。そうだけど、でも……」

「まひるずるーい。自分だけあんなイケメンと仲良くなっちゃってー」

「い、いやだから青葉さんは――」


 男みたいだけど女なんだよ、と言おうとしたのであろう真昼は、しかし悪どい笑みを浮かべている青葉に肩を叩かれたことで言葉を止める。

 そして邪悪な飲んだくれは、俺の時とは違ってキラキラした瞳を向けている女子高生二人に向けて、いつもよりさらに割増しで低くした声で言った。


「はじめまして、お嬢さん方。私の名前は青葉蒼生、。どうぞよろしく」

「!?」


 何を言い出すんだと俺と真昼が揃ってぎょっとして見ると、青葉は完全に面白がっている顔でニヤニヤと笑っている。……やっぱりコイツを誘ったのは間違いだったかもしれないと、俺は今さら後悔するのだった。

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