第40話 闘技大会の最終日が近づいてきました。

 ケイの試合の次の日からは、また警備の毎日だ。

 日を追うごとに試合内容は激しくなっていって、担架の往復回数も増えた気がする。


 それに、試合中に選手の人が使う魔法の、流れ弾が飛んでくるようになった。

 急に来るから反応できなくて、何度か直撃してしまった。

 ギド王は≪魔法を食らえば、そのぶん魔力が補充できる≫とか言ってるけど、けっこう痛いんだからね?


 それでもなんとか、予選の最終日である今日までお仕事を続けることができた。

 今日で予選の試合は全部終わって、明日は休息日。

 そして、その次の日が決勝日、勝ち残った四人が戦う闘技大会のクライマックスだ。


 今日の私とウェナは早番だったので早朝から警備についてたけど、お昼でお仕事終わり。

 明日は試合も休息日だし、私も休日だ。たぶん静かに過ごせるだろう。というか過ごしたい。


 なぜかというと、自分の身体から悲鳴が上がっているからだ。

 ご飯を食べ終えて部屋に戻ってきたけど、じっとしていても自分の足や腕が小さく震えているのがわかる。


 ケガをしたわけではないです。

 ただの筋肉痛です。

 だけど、ここまでガクガクになったのは未経験です。


 はじめて試合場の警備をした日の翌日から痛みはじめたんだけど、それは日を進めるごとにひどくなっていっていった。

 最近はまるで、自分の身体じゃないみたいな感じだ。

 動け動けと思い続けて、やっと身体が動いてくれるような。

 身体と神経の感覚が、ものすごく、ずれてる感じだ。


 警備員って思った以上に肉体労働なのね。知らなかった。


 部屋に戻ってイスに腰掛けると、もう動きたくなくなる。


「だいぶ、お疲れの、ようです」

「うん、そうかも。身体のあちこちが痛くてね」

「よかったら、マッサージ、しましょうか」

「マッサージ?」


 なんだろう、異世界のマッサージなんて予想がつかないけど。

 でも、せっかくウェナのほうから言ってきてくれたことだし。


「やってもらおうかな」

「はい。では、少々お待ちください」


 立ち上がったウェナが、ハンモックのロープと支柱のつなぎ目あたりに手を伸ばした。

 組み立て式なのか魔法なのか、ハンモックを支えていた支柱が変形してベッドの骨組みのような形に変わる。

 ロープ部分は骨組みに網の目のように張り直された。


 ウェナが離れると、そこにあったのはもうハンモックではなかった。ベッドともちょっと違う。

 たとえるなら、ビーチチェアかな?

 リゾートプールとかに置いてありそうな、金属の骨組みにビニールがピーンと張られてて、上に寝そべるやつ。


「準備、できました」


 ウェナが、できあがったビーチチェアの上をぽんぽんと叩く。


「ここに、うつぶせに、寝てください」


 言われるままに、私はビーチチェアに寝そべった。

 枕の上にあごを乗せると、ウェナは私の腰のあたりに乗ってくる。


「では、マッサージを、始めます」

「はーい、おねがいしま……」


 肩に乗せられたウェナの手の、その強い握力に、なにか嫌な予感がして私の言葉が途切れた。

 私の左肩をがっちり力強く押さえたウェナが、大きく息を吸い込む。


「んぎゃっ!」


 筋肉痛とはまた違う痛みに、思わず変な声が出てしまう。

 肩の骨が身体にめりこむ感じがして、首の後ろのほうが、ぽこんって鳴った。


「こ、これ、マッサージだよね?」

「痛めた部位に、つながる点を刺激し、快復力を高めます」


 後ろを見ようとしたけど、関節をがっちり押さえられてて首もまともに動かせない。


「同時に、血行が良くなり、身体のゆがみも、直せます」

「それって、どっちかというと、整体とかになるんじゃ」


 もうちょっと優しく押したりさすったりするのを予想していただけに、不意打ちでけっこうダメージ大きかったり。


「しばらくの、我慢、です」

「まって、まっ、うわたたたいたああああ!」


 腕の関節を取られ、骨にひねりが加わると、ごつーんとした痛みが胸に伝わってくる。

 背骨に当てられた手のひらからの、体重をかけた一発が、ビーチチェアの骨組みを揺らした。


「うあっ、あいあああ!」


 そういえば。

 ウェナって、私の槍を片手で持てるくらいの力持ちなんだっけ……。

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