第14話

 ワレリーと酒を酌み交わして情報を売った数日後の、ある日のこと。俺は夜更けに、自宅の部屋でパーソナルコンピュータのディスプレイと向き合っていた。これまでに訪れた市内の酒場、それらで飲んだ酒の情報をまとめ直している最中だ。


「ふむ……イッターラのワインを扱う店も増えてきたな。ここらで一度情報をまとめておくか」


 そう呟きながら操作をしていると、傍らに置いていたスマートデバイスから着信音。


「ん?」


 デバイスを手に取って電話番号を見た俺は目を見開いた。アニシン領エージェント協会本部、その事務局からの電話だ。即座に頭を仕事モードに切り替え、イヤホンを入れて通話ボタンをタップする。


「はい、ナザロフですが」

『ナザロフさん、夜分に失礼します。アニシン領エージェント協会事務局のクラサフチェンコです』


 口を開いて応答すると、スピーカーの向こうからエージェント協会事務局長、アリスタルフ・クラサフチェンコのくぐもった声が聞こえてきた。

 山羊獣人のアリスタルフは、高齢ながら有能で優れた人物として、エージェント協会でも長く重用されている。俺も彼とは、そこそこ付き合いが長い。気安く、しかし礼儀は忘れないで俺は口を開いた。


「ああ、クラサフチェンコさん。どうもお疲れ様です。いかがなさいましたか」


 アリスタルフに挨拶すると、彼は何とも沈鬱な、悩みを抱えた声色で返してきた。


『はい。アスランベク・トランデンコフがヤノフスキーに戻ってきたことは、ナザロフさんも聞き及んでいることと思いますが』


 彼のその発言に、別の意味で目を見開く俺だ。そんなこと、俺どころか街全体が知っている。一番街の貴族も五番街のホームレスも、全員だ。改めて確認することでもないだろうに。不思議に思いながらも、俺は口を動かしていく。


「はい、存じております。それが?」


 改めて問いを投げると、アリスタルフの言葉が途切れた。言葉を選んでいるような、そんな印象だ。数秒間が空いた後、彼が用件を話して来る。


『実は、そのう……それ絡みの件で少々お耳に入れたいことがございまして、至急協会本部の事務局窓口までお越しいただけないでしょうか』


 そして俺は耳にした要件に、俺は再び目を見開いた。既に夜は深く、月は高く登っている。時計を見れば午後11時前。エージェント協会は24時間営業とは言え、さすがにこの時間は客を招く時間でもない。

 しかし、呼ばれたからには行かねばならない。至急の要件なら断ることも出来ない。俺はハンガーに掛けたジャケットに手をかけながら頷いた。


「分かりました、今から伺います」

『お手数をおかけいたします、よろしくお願いいたします。では後ほど』


 その言葉を最後に、アリスタルフが通話を切る。思わず、スマートデバイスの画面を見ながら首を傾げた俺だ。


「なんだ……? 随分焦っている様子だったな」


 彼の言葉に疑問を抱きながらも、俺はデバイスを鞄の中に突っ込んだ。ジャケットを羽織り、コートに袖を通し、俺は一番街ネリュビン通りのアニシン領エージェント協会本部の建物に入った。受付にいるフクロウ鳥人の女性職員が俺に声をかけてくる。


「アニシン領エージェント協会本部にようこそ。ナザロフさん、本日のご用件は?」

「事務局長から呼び出しを受けた。在席しているか?」


 手短に要件を伝えれば、職員はすぐに頷いた。内線電話でアリスタルフを呼び出すと、程なくして彼が長いあごひげを揺らしながらやってくる。


「ナザロフさん、こんな時間にすみません」

「いえ、構いません。それで、何があったんですか」


 礼を返しながらアリスタルフに問いかけると、彼は困ったように眉尻を下げた。難しい表情をしながら受付から伸びる通路の奥、応接室などがある方へ手を伸ばして言う。


「ここでは何ですので、中で話しましょう。こちらへ……」


 そう言って歩き出す彼に、俺は静かについていく。が、応接室に入るかと思いきや、手前で彼は通路を折れ曲がった。そのまま「部外者立ち入り禁止」のエリアに入っていく。

 驚いた。客を案内するのにわざわざ職員しか立ち入れないエリアに入るとは。そのままアリスタルフは歩き続け、建物中央のエレベーターに乗り込む。そのまま地下に降りて、扉が開いたらそこはもう部屋の中だ。


「ここは……」


 部屋の中に立ち入りながら、俺は驚嘆の声を漏らした。

 エージェント協会の一般的な応接室よりも、いくらか上等な空間だ。絨毯は毛足が長く、壁には旗や絵画がかけられている。そしてその部屋の中に、窓は一切ない。

 俺もこの地下の応接室には、本当に重大な案件が飛び込んできたときしか入ったことがない。アニシン領エージェント協会本部の、特別応接室だ。


「クラサフチェンコさん、そこまでの話なんですか。私も、この『特別応接室とくべつおうせつしつ』は今までに一度しか使ったことが無いですよ。それも『あの件』の時だ」


 アリスタルフに振り返りながら声をかけると、彼はあごひげを触りながら小さく頷いた。そのまま部屋の壁にかけられた絵画や、棚に置かれた芸術作品、ガラス棚の中の調度品の前を歩いていく。

 彼のその行動も、決して無為にしているわけではない。それらの場所には、この部屋を監視する隠しカメラ・・・・・があるためだ。その前を歩くことで、カメラのピントを合わせるのが必要だ。


「はい、『前大統領暗殺未遂事件』。あの時もナザロフさんをこちらにお招きして、情報の提供をいたしました。その時に匹敵すると思われる重大な案件です」


 そうして、アリスタルフは部屋の中央、ローテーブルに腰を掛けながら俺に手招きをした。

 「前大統領暗殺未遂事件」。ルージア連邦の前大統領、イルヌール・アブラーモフが首都クリコフスクの市街地で演説中に銃撃されようとしていたところを、直前で阻止した事件である。あの時も俺はこの特別応接室に呼ばれ、銃撃犯の裏にいて糸を引いていると思われる複数の人物の情報を、ここでアリスタルフから受け取ったのだ。

 それに匹敵するほどの事件とは、重大だ。神妙な面持ちでアリスタルフの向かいの席に座った俺に、彼はとんでもないことを率直に告げてきた。


「トランデンコフ農園農場長、アルセン・トランデンコフ氏が、ヤノフスキー市二番街にて銃撃されました」

「な……っ!?」


 その発言を聞いて、俺の腰が僅かに浮いた。

 アルセンが、よりにもよってヤノフスキー市内で銃撃されただなんて。これは確かに、とんでもない重大事件だ。

 目を伏せながら、アリスタルフが詳細を説明し始める。


「二日前の夜11時頃のことです。二番街ピログ通りを歩いていたアルセン氏と同行者は、長距離狙撃ライフルによってどこかから銃撃を受けました。とっさに同行者がアルセン氏をかばった為に命に別状はありませんが、負傷して市内の病院に入院しています」


 命に別条はない、の言葉にホッと胸をなでおろす俺だ。アルセンの生命が奪われたら勿論のこと、彼の身に何かがあったら、確実に市内の農業が大打撃を受ける。それだけ、トランデンコフ農園の立場は大きいのだ。

 眉間にしわを寄せながら、俺は質問を投げる。


「同行者の方は? それに、その人物の身元は」


 同行者が市内の貴族だったりしたら、さらに重大事件に発展するだろう。それを心配していた俺だったが、アリスタルフは先程よりもさらに目を伏せた。


「記録によると、トランデンコフ家が囲っているエージェントの一人ですね。ワレリー・コロレフ。胸部に銃弾を受け、意識不明の重体です」

「コロレフが!?」


 資料をめくりながら話す彼の告げた人名に、今度こそ俺は立ち上がってローテーブルに両手をついた。

 ワレリー・コロレフ。ついこの間に俺はあいつと言葉を交わした。エージェント協会を追放されてこそいるが、エージェントとしての実力は確かな男だ。それが、胸を撃たれて意識不明だなんて。信じられない話だ。


「あいつとはつい先日、酒と情報をやり取りしたばかりだったってのに……くそっ」


 だん、とローテーブルに俺の拳が叩きつけられる。

 実際、悔しい。もっと俺が何かしてやれることはなかったのか、と思わずにはいられない。仲がいいと言うほどいい相手ではないが、知らない相手ではないのだ。アリスタルフがゆるゆると頭を振った。


「それは……心中お察しします。既に警察も動き出していますが、人物が人物なだけに、大々的に動き回るわけにはいかないのです」


 そう話しながら、アリスタルフは手にしていた資料を俺に手渡してきた。表紙にはしっかり「機密」の刻印が捺されている。

 これは取り扱いに最大の注意を必要とする資料だ。これがちょっとでもエージェント協会の外に、いや、信頼性の高いのエージェント以外の耳に入ったら、確実に只事ではなくなるだろう。


「なるほど。それで私をこの部屋に呼んで、情報を渡した、というわけですか」

「情報をどう扱うか、誰に渡すかはナザロフさんにお任せしますが……生半可な実力の者が嗅ぎまわっては犯人の思うつぼです。くれぐれもご注意ください」


 彼の発言に、俺も頷いた。エージェントに情報を売り、代わりに悪事を暴いてもらうのが俺の仕事だが、これはまだ俺の手元で温めておくべき案件だ。まずは、俺自身の足で情報を集めなくてはならない。

 アリスタルフの忠告も尤もだが、俺もよくよく分かっている。大きく頷いて彼に言った。


「心配は要りません。この町の酒場街のことなら、私は誰よりも詳しい自負がある」

「はい、よくよく存じております。ですが、重ねてお気をつけて」


 彼の言葉にもう一度頷くと、鞄の中に資料をしまって俺はエレベーターのボタンを押した。中に入るとアリスタルフもついてくる。

 そのまま上に上がり、立入禁止区域から出て、アリスタルフに見送られながら俺はエージェント協会本部を後にした。既に月は高い。時計を見ればもう11時半だ。そのまま帰って寝ることも少し考えたが、さすがにこのまま仕事・・をせずに帰るのは情報屋としてよろしくない。


「コロレフ……お前はよくやったよ」


 そう小さく呟きながら、俺は二番街ピログ通りに向かう。通りに着いてまず最初に向かったのは、この通りでも知られた名店「コレッソ」だ。

 扉を開けると、女性スタッフの猫獣人、ダリヤ・クゼンコヴァが驚いた顔をして俺を見る。


「いらっしゃいませ、すみません、もうラストオーダーの時間で」

「いや、いい。今日は飲みに来たわけじゃない」


 申し訳無さそうにこちらに声をかけてくるダリヤに、俺は小さく首を振る。ラストオーダーを過ぎているのは承知の上だ。店に迷惑をかけてもいけないし、俺は手短に彼女に質問をしていく。


「クゼンコヴァ。君は二日前の夜に店に入っていたか?」

「えっ……ええ、いました。今日のように店の入り口に立っていて……」


 端的に時間を指定して聞けば、ダリヤは戸惑いながらも小さく頷いた。入口付近に立っていたなら都合がいい。さらに質問を重ねていく。


「そうか。なら、外のピログ通りで二日前の午後11時ごろ、男が二人、撃たれて倒れた騒ぎは耳にしているか?」

「えぇっ!?」


 俺の発した言葉に、ダリヤが驚きの声を上げた。その声に、店内のスタッフが何名か動きを止めてこちらを見る。やはり、騒ぎがあったことは知っていても、実情までは知らなかったらしい。

 ダリヤに視線を向けると、彼女は何かを思い出したように手を叩いた。


「そ……そういえば、11時20分頃だったかしら、外の通りが随分騒がしかった気がします! 外を覗いたら『ラースタチカ』の前あたりに、人だかりが出来ていて……」


 その言葉に、わずかに目を細める俺だ。「ラースタチカ」は、このピログ通りに店を構えるショットバーだ。上等な酒を多く置いてあるので、貴族御用達の店としても知られる。


「そうか、分かった。ありがとう」


 彼女の話を、すぐに手帳と硬筆を取り出してメモした俺は、財布の中から1,000セレー紙幣を取り出して彼女に握らせた。時間を取ってもらった礼はしないとならない。

 カウンターの中でグラスを磨く店主のゲラシム・イリエンコフに視線を送ると、俺はさっと手を上げて内扉に手をかけた。


「イリエンコフ、邪魔したな」

「あ、ああ。また来てくれよ」


 戸惑いがちに投げられた声が、俺の背中にかかる。その声を後ろに残しながら、俺は「コレッソ」の店内から滑るように外に出た。店に入ってから10分も経っていない。まだ日付が変わってはいないだろうが、これは帰宅が日付変更をまたぎそうだ。

 ともかく、ピログ通りを北へ。「ラースタチカ」の店の中には入らず、店の前の通りと、向かいの店の壁に目を向ける。屈み込んで通りに手をやると、僅かに水で濡れていた。


「『ラースタチカ』の前……やはり清掃は入っているな。当然か」


 表面の石畳を撫でながら、俺は独り言ちた。

 ヤノフスキーは寒冷地帯だが、豪雪地帯ではない。雪が積もっても積もり続けないように、通りの石畳は除雪がしやすいようになっている上、通路の端に水路が通って雪を溶かすようになっている。だから元々、足元の石畳はデコボコした作りになっているのだが、そのデコボコが不自然にえぐれた場所が、銃撃されたならきっとあるはずなのだ。


「だが……ん?」


 石畳の表面を観察していた俺だが、ふと、視線を感じて顔を上げた。背中に刺すような視線があった気がして、振り返る。誰も居ない。

 とはいえ、「ラースタチカ」の店の手前側には細い路地が通っている。そこを根城にするホームレスもいるはずだ。というか、気配がある。


「……いや、そうか」


 俺はおもむろに立ち上がると、まっすぐ路地に入っていった。

 果たしてそこでは、路地の壁にへばりつくようにして、ネズミ獣人のヨーシフ・チビソフが震えている。彼もこの近辺を根城にする、ホームレスの一人だ。

 彼がこの場所にいるということは、間違いない。俺の背中に感じた視線は彼のものだ。


「よう、チビソフ」

「ひっ」


 剣呑な表情を敢えて浮かべながら、俺はヨーシフに歩み寄る。路地は暗いしこの位置からだと逆光になるだろう。彼も数歩歩み寄ってようやく、俺が誰だかを把握したらしい。


「な、なんだ、ルスラーンかよ。驚かせるない」

「てめえから様子を伺っといて、驚かすも何もねえだろうが。なんでまた俺を見ていた?」


 震えを止めるヨーシフだが、ここで愛想を崩すわけには行かない。ホームレスを相手にする時は強気に荒々しく、自信たっぷりに。荒事対応の口調で話しかければ、ヨーシフの身体が再び震えだす。


「な、何って、お前、こんな時間にお前みたいなやつが店にも入らないで探し物たあ、つまり『あれ』だろ?」


 へらへらした笑いを浮かべながら、ヨーシフが水を向けてくる。なるほど、自分からタダで情報を渡そうとはしないわけだ。こういう辺り、ホームレスという連中はしたたかである。

 だが俺も下手に出るつもりはない。ヨーシフの奥側に手を伸ばし、自分の腕で遮りながら彼を壁に押し付けた。


「『あれ』じゃ分かんねえなぁ。もっと奥に入ったところで話をしようか。ええ?」

「いっ……」


 睨みつけてやると、彼の背筋がビクリと伸びた。もうひと押し。声に威圧感をたっぷり含ませながら、俺は彼に言ってやる。


「チビソフ、二度は言わねえぞ。『二日前の午後11時20分頃にピログ通りで起こった騒動』について、てめえの知ってる事全部話せ」

「いっ……わ、分かった、分かったよ」


 観念したか、ヨーシフが両手を顔の横に掲げた。その言葉に満足しながら、俺は壁から手を離した。そのまま路地の反対側の壁にもたれかかる。


「おとといの、半分に欠けた月が空高くに昇ってきた頃だ。北の農場のアルセン坊ちゃんがお供のパンダ野郎を連れて、『ラースタチカ』から出てきて……そこの扉を閉めて歩き出した時だ。ドスンって重たい音がして、見たらパンダ野郎が血を流して倒れてたんだ」


 彼の話を聞きつつ、俺は手帳に書き留めていく。やはり、「ラースタチカ」の前でアルセンが銃撃を受け、ワレリーが負傷したのは確かなようだ。

 くいと顎をしゃくると、ヨーシフは再び話し出す。


「アルセン坊ちゃんはパンダ野郎の下敷きになって呻いていた……すぐにあちこちの店や家から人が飛び出してきて……」

「なるほど、ワレリーはアルセンの上に倒れ込んでいたんだな?」


 と、ヨーシフの発した言葉に、俺は硬筆を止めた。

 アルセンはワレリーの下敷きになった。それはつまり、ワレリーがアルセンを狙う射線の間に立っていたということだ。それだけ分かれば、狙撃した場所はいくらか割り出せる。

 俺は満足したように笑うと、財布の中から1,000セレー札を三枚取り出してヨーシフの手に握らせた。


「ありがとうよ、チビソフ。明日の夜になったらこの金で、いい酒でも一杯飲むんだな」

「あ、お、おう……って、おいルスラーン、お前」


 そのままひらり、手を振って俺はヨーシフに背を向けた。彼が戸惑っている声が聞こえるが、気にしている余裕はない。

 俺は改めて「ラースタチカ」の前に立つと、先程歩いてきた方、ピログ通りの南側を見た。何軒もの飲食店や酒場が軒を連ねているが、既に時間は遅い。灯りを落としている店も多かった。


「(アルセンが被害に遭ったのはここ。恐らく向こうは心臓を狙っていた。それをワレリーが射線に割り込み、アルセンの前に立ちふさがった状態で狙撃され、撃たれた勢いで後方のアルセンの上に倒れた……そんなところだろう)」


 考えながら、俺は硬筆を手に握ったまま街路を見つめた。

 この視界内のどこかから、犯人は狙撃を行ったはずだ。しかし地面に狙撃の後はない。ならばと俺はピログ通りを南下する。


「(地面の石畳に弾痕は無かった。きっと銃弾は浅い射角でワレリーの胸にぶち当たり、貫通しなかったはずだ。ならば……)」


 ゆっくり歩きながら、俺は通りを挟む家々に店々、さらには路地に目を向けていった。

 全く何も証拠を残さずに、誰かを狙撃するなんてことは出来やしない。この世界に魔法なんて埒外のものは存在しないのだ。何かしら、痕跡は絶対に残るものだ。絶対に。

 ふと、視線を上に向ける。そこには少し外に張り出した出窓があった。その出窓の縁の部分に、何かを押し付けて引いたような跡がついている。

 おもむろに俺はスマートデバイスを取り出した。カメラアプリを起動して、出窓の部分を拡大して、二枚ほど撮影する。日付情報を入れるのも忘れない。ついでにその出窓がある建物の全景も。


「よし」


 カメラアプリを閉じて、俺は再び歩き出した。だが、スマートデバイスは鞄に入れない。手に持ったまま、今度は電話アプリを起動する。電話帳をざっと目にして、これだと思う相手の名前をタップした。この情報、渡す相手も吟味しないとならない。


「よう、コサリコフ。今ちょっと話せるか?」


 相手に電話をしながら、俺は家路を急ぐ。明日からまた、面白いことになりそうだ。

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