067. 何って、自然発生ですわよ

 何だこれ。どういうこと?


「新たな生命に祝福を!」

「同朋の誕生に感謝を!」

〈きゃー! 可愛いですわ~!〉


 大聖堂の聖職者の人達が集まって、礼拝堂の中心辺り、何もない場所を囲んで見てたから、何かなと思って僕も見てたわけ。

 そしたら急に、シャンパンの栓が抜けるような音がして、黒い司祭服カソックを着た小学生くらいの男の子が、ポンと現れた。

 音以外に特別なエフェクトなんかはなく、本当に突然現れた感じだなぁ。


 転移魔法ってやつか! 便利! ファンタジー!!

 と驚いていたら、周囲の反応は冒頭の通りだった。


 姫様、新たな生命って?


〈あの子のことですわよ!〉

「えっ」


 思わず声が出た。

 今のって転移魔法じゃなくて、蘇生か転生とかだったんです?

 大技のわりにエフェクト地味だな……じゃない、そんなのあるんですか、この世界。


〈蘇生魔法って、死んだ人が生き返るんですの?

 それは、あればとても素敵でしょうけど……〉


 無いんですか? では今のは一体。


〈何って、自然発生ポップですわよ。草原でお話しましたわよね?〉


 ………………???


「えっ。こわっ」


 思わず声が出た。2語も。

 この世界って、人間も自然発生するの? こわっ。

 あー、でも人間もドロップアイテム落とす世界だしな。

 そう考えると当然なのかも。


 いや、どうだよ。


〈どこかで人がたくさん死ぬと、再発生リポップも多くなるのですわ。

 生命いのちって、こうして巡り廻る物なのですわね……〉


 何かほっこりしてるけど、やっぱりこの世界は頭おかしいな。

 ウサギや草と同じなら、人間も出産と自然発生の両方で増えるはずだ。ポップした子供には親がいない(と思う)けど、その辺は大丈夫なのかな?

 この周囲の歓迎っぷりだと、たぶん大丈夫なんだろうけど。


「どうしたんだい、そんな、餃子にレーズンが入っていたような顔をして」


 考え込んでいた所に、大司教様の弟子の人が声をかけてきた。

 名前はセナ君だっけ。いつの間にかタメぐちになってるし、僕もタメ口でいいのかな。


「何というか、生命というのはよく判んないな、と」

「ふうん。君にとっては、死の方が解りやすい?」

「どうかなぁ。死は死で判りにくいよ」


 この世界、変なタイミングで人が死ぬし、死んでもすぐ亡霊になって戻ってきたりするしな……。


「おや、早速仲良くなったようですね」


 とそこへ、眼鏡の奥に優しげな微笑を浮かべたウラギール大司教様も戻ってきた。

 ポップした男の子は、いつのまにか聖職者の人達に連れられて、何処かへ行ってしまったようだ。


「先ほどは話の途中でしたね。

 貴方達のためにも、今後のことについて少し相談できればと思うのですが、構いませんか?」


 大司教様がそう仰るなら、まぁ。

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