短編集

隠れ豆粒

感想

 中学校の美術の時間。

 友達の絵を見て感想を書きましょう。

 隣の席の子の絵を見た。

 それは、ただただ美しかった。

 だから僕は、「〇〇さんの絵が美しかった」と、そのままの感想を書いた。

 音楽の時間。

 この歌を聴いて感想を書きましょう。

 目を瞑って聴いた。

 それは、ただただ綺麗だった。

 だから僕は、「綺麗だった」と、そのままの感想を書いた。

 そして、美術の時間、感想を書いた紙が返却された。

 点数、十点中四点。

 音楽の時間。感想をかいた紙が返却された。

 点数、十点中二点。

 僕は理解できなかった。

 どうして満点じゃないんだろう。

 僕は正直に感想を書いたはずだ。

 長ったらしく書かずに、ひと目見てわかるように、そのままの感想を書いた。

 おかしい。

 先生は言う。

 小学生の楽しかったや面白かったと同じレベルだと。どこがどう綺麗だったのか述べていないと。

 そんなのおかしい。

 僕はただただ綺麗だと思ったから、素直な感想を書いたのだ。具体的も何もない。ただただ綺麗だったのだ。ただただ美しかったのだ。

 先生はみんなに、嘘を書かせているのか。嘘のことを長々と書いて、それで満点をつけるのか。

 というか、なぜ感想に点数をつけるのだろう。人それぞれ思うものは違うだろう。

 点数をつけるのなら、みんな満点でいいじゃないか。

 先生は言う。

 オマエは鑑賞の能力がないんだよ。

 違う。

 みんな思うことが違うのだから、文章が長くても短くても、そんなの関係ない。

 だから、僕は思ったことをそのまま言った。

 先生はみんなに成績のための嘘の感想を書かせるんですね。嘘吐きを育てているんですね。先生は桜を見て、花びらが五枚で木に咲いていて淡いピンク色で川沿いに連なっていて花びらの筋が見えて花びらの先端が二つに割れているところが綺麗だねって、恋人に言うんですか? 花火を見て、ドンと打たれてヒューと音を立てて空に上がってバンと音を立てて赤と青と緑と黄の色に光って空に広がってキラキラと消えてゆくところがたまらなく綺麗だねって、恋人に言うんですか?

 先生は言う。

「そんなこと言わない。綺麗なものは綺麗と言って終わりだ」

「先生、それ、僕が素直に書いた感想と何が違うんですか?」

 先生はなにも言えなくなった。

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