ガチ論考ごっこ 劉裕家格考
ヘツポツ斎
劉裕家格考
○序文
中国南朝の先駆けである
○一
諸葛恢大女適太尉庾亮兒,次女適徐州刺史羊忱兒。亮子被蘇峻害,改適江虨。恢兒娶鄧攸女。于時謝尚書求其小女婚。恢乃云:「羊、鄧是世婚,江家我顧伊,庾家伊顧我,不能復與謝裒兒婚。」及恢亡,遂婚。……[1]
ここから見出せるのは、東晋中期ごろにおける
以上のエピソードを参照すれば、
○二 劉裕及び姻戚の家門について
貴顕となる前の劉裕の姻戚は、以下が挙げられる。生母の
・彭城劉氏
劉裕自身は
一方、
劉裕の家門が太守を輩出しているのであれば、ここで論を終了しても良いのだが、上の代の人間も権威づけとして追贈がなされた可能性も考えられる。やはり姻戚の官位についても調査を進めておく方がよいだろう。
・下邳趙氏、蘭陵蕭氏
劉裕の生母・
劉裕の継母である
余談だが、劉宋より禅譲を受けた斉の皇族は蕭文寿と同じ蘭陵蕭氏である[10]。
・東莞臧氏
劉裕の妻、
下邳趙氏、蘭陵蕭氏よりはやや落ちる家門となるだろうか。これは劉裕の父が夭折したことにより、彭城劉氏の家格がやや低くならざるを得なかったからなのだろう。とは言え、その学識を陳郡謝氏に買われていたことを考えれば、必ずしもマイナスであったとも言い切れない。臧氏の姻戚となった、のであれば、何らかの形で謝氏に劉裕の存在が知られた可能性も有り得る。
・高平檀氏
劉裕の配下将としてもっとも著名な
・曹氏(本貫不明)
宋書には曹氏とのみ載り、どういった家門の人物であるかは書かれていない。ただし 1969 年に発掘された「
なお彭城曹氏は、晋書や世説新語中にその名が現れている。それによれば、
以上の人員を見ると、彭城劉氏に較べれば、彭城曹氏はやや家門が高いと言えなくもない。しかし正史に名前が残らないことを考えれば、劉裕の代には没落していたことも考えられる。劉道規は劉裕の七歳下の弟である[20]。劉道規が結婚適齢期になった時に劉裕が大きな武勲を挙げていた、と考えれば、没落家門の再起への賭けと、寒門の躍進のためのつながり作り、と言う利害の一致が見られたこともあり得よう。あるいは彭城曹氏とのつながりを経て、天下の盛門である琅邪王氏とのつながりを得ることが叶った、とまで想像を逞しくすることも可能であろう(劉裕の栄達の端緒として、宋書は琅邪王氏の
無論ここまで話を広げれば、それはもはや、妄想にすぎないのだけれど。
・北地傅氏
劉裕の妹が嫁いだ
傅亮は
以上を総括すると、元々太守クラスの人材を輩出し、趙氏や蕭氏とも通婚の叶う家門であった劉裕の家は、父である劉翹の夭折により没落の危機に立たされた。苦しい家計を何とか支える継母を助けつつ、劉裕ははじめ北府の将軍・
○三 劉宋皇室の姻戚
☆琅邪王氏 十五名
☆
☆陳郡謝氏 六名
○
□
○済陽江氏 四名
☆陳郡
□蘭陵蕭氏 三名
○
□
☆
□東莞臧氏 一名
☆陳郡
○済陽
☆
?
☆印は東晋期第一流の家門
○印は東晋来の第二流家門
□印は姻戚や決起以来の同胞
?印は詳細不明
史書に載らない通婚者も多くいるであろうことから、この数字がそのまま実績ではない。なお、劉穆之亡き後の劉裕の参謀役を務めた
総じて言えば、即位以降は元来の姻戚よりも東晋来の名門との通婚が多くなった、となる。ここに劉裕即位後の彭城劉氏が国内第一の家門として扱われるように変わった事実が見出せよう。
○結論
東晋末、その圧倒的な武力をもって立身した劉裕が不世出の英雄であることは論を俟たない。しかしながら、評価がなされるにあたっては、その英雄性を強調するためか、さも劉裕が底辺出身であるかのように謳われている。その原因としては、宋代に
資治通鑑巻一一一には、以下の記述がある。
及長,勇健有大志。僅識文字[27],以賣履為業,好樗蒲,為鄉閭所賤。
劉裕は成長すると勇猛頑健、しかし知っている文字は数文字ほどしかなく、わらじを編んで生計を立て、ギャンブルを好み、郷里の者にいやしまれていた。
これには出典元がある。
恒以賣履為業。意氣楚剌,僅識文字,樗蒲傾產,為時賤薄。
わらじ売りで生計を立てていたが、豪快にして粗雑な性分であり、知っている文字はわずか、ギャンブルで身を崩し、周囲からは軽蔑を受けていた。
魏書とは
司馬光の劉裕に対する歪曲は度を越しており、他にも宋書にある「数十人で千あまりの敵に囲まれたのを何とかやり過ごし、駆けつけてきた援軍と共に打ち破った」[29]と言う記述を「わずか数人で数千もの敵を打ち倒した」と改変している[30]。結果、無頼出身、けた外れの武勇を持った武将、と言う劉裕像が生み出されるに至った。なお、十八史略の記述もやはり資治通鑑の影響下に収まっている[31]。
物語として劉裕を楽しむのであれば、そこに敢えて口を差し挟む必要もない。しかしながら、史書記述より劉裕を追うにあたっては、初めに参照することになるであろう資治通鑑に看過しきれない歪曲の跡がある。そのことについては、大いに注意を払って頂きたく思う。
劉裕は不世出の英雄である。しかしながらその英雄譚を史書より手繰れば、単に武力一辺倒でのし上がったわけではないことが伺える。自分自身、その軌跡を探っている途上であるが、劉裕に興味を抱かれた方々が、いま流布している「物語」のイメージに引きずられすぎず、フラットな目で追って頂けるような手がかりを残すことができれば幸いである。
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