【18】最後の友達

「ん?…ここは?」


豪華な調度品の並んだ、リビングのような

場所に到着した私達は見たこともない大きさのテレビや高そうな外国の陶器ブランドが

並ぶ食器棚に圧倒されていた。


"おや、本当に到着したみたいだね。

ここは私の家の中だよ。書き終わるまで

茶でも飲んでのんびり待ってておくれ。"


『いやー、サキ婆ちゃん!上流階級の人の

家なんて入ったことないから嬉しいよ!

少し見学させてもらってもいいかな?』


"匠!婆ちゃんはやめろと言っただろ?

今日は家政婦もいないし、私は夜まで出掛けてる日のはずだから自由に見てくれて構わないよ。"


子供のように目を輝かせて広い室内を探検し始めた匠君、これだけ広かったらが難しそうだな。

とりあえず私はサキさんが書いているダイニングテーブルの近くにある皮貼りの座り心地のよさそうなソファーで待つことにした。そういえば、サキさん"意地悪婆さん"って呼ばれているって言ってたけど、何故何だろう?私が過ごしたのは、ほんの数時間と言ったところだが、口は悪いとは思うが別にこれといって意地悪された記憶もない。


「サキさん?一つ質問してもいいですか?」


"よし、冥土の土産に何でも答えてやろう

じゃないか!ま、冥土に行くのは私だが。"


「ふふっ、ありがとうございます。サキさんは先ほど"意地悪婆さん"って呼ばれていると言ってましたよね?私が短時間接した感じ、口は悪いけど別に"この人意地悪だなー?"と感じたりはしてないんです。だから、何か

理由でもあるのかなと思いまして。」


"あぁそのことかい、勿論面と向かって言われたことはないよ?でも娘がね、心配して教えてくれたんだ。みやこだけだよ、私のことを考えてくれていたのは。…多分、そう呼ばれ出したのは私の旦那が亡くなってからだね。うちの旦那はこの付近で有名な地主でね駅前に何棟もビルを経営したり、土地を貸したりして莫大な収入を得ていたんだよ。まぁ言わずと知れた金持ちってやつだね。旦那が生きている時はそうでもなかったんだけど、亡くなって財産が私に移った頃から周りの対応が変わりだしたんだよ。今までは、挨拶程度の会話しかしていなかった連中が「旦那さん亡くなって、一人でお気の毒に…私達友達になりましょう?」って沢山近づいてきてな。最初は皆、優しくしてくれてありがたいと思ってたけど、そのうち何か怪しげな宗教に勧誘してきたり、お金を貸してくれと言ってきたり…私の心配をするフリをして近づいてきた奴らは私ではなく、私のお金しか見ていなかったのさ。だから旦那が亡くなってきた後に近づいてきた奴ら全員に「わたしに近づいてきてくれるのは嬉しいけど、お金も貸さないし何の勧誘も受けないよ!」ってハッキリ言って縁を切ってやったんだよ。それから、あそこの婆さんは人が親切にしてやったのにとか周りに言い触らし始めてね。こっちからお願いしたわけでもなく、自分の都合で近づいてきて、冷たい態度を取られたら変な噂流して孤立させようとする…。人間の醜い部分をイヤというほどみてきて心底、人と関わるのが面倒になったんだよ、わたしは。まぁそんな感じの理由だね~。"


名探偵寿郎…、当たっているじゃないの。


「なるほど、そうだったんですか。お金が沢山あるというのも良いことばかりではなさそうですね。」


"しかも、自分の子どもにまで同じ様なことをされてしまって、私は本当可哀想な婆さんだよ。あ、長男と長女のことだよ。私も旦那も子供達のことは、ずいぶん可愛がって育てたつもりだよ?長男は小さい頃から頭が良くてね~将来は、歯医者さんになる!とか言って頑張っていたから東京の有名大学にも行かせてあげたし…長女は、頭も悪くはなかったが器量よしでね~?よくお母さんそっくりですねって言われたものさ。それを嬉しそうにしている長女がまた可愛くてね~。"


『へぇー、サキさんも若い時は綺麗だったんだねぇ?長女の人も化粧は派手だったけど多分普通にしていたら綺麗な顔してそうだ!みやこさんは派手じゃないけど年齢にあった歳の取り方をしているって感じだったし。あ、翼が一番可愛いけどね?それで、その続きは?』


いつの間にか探検から帰って来て

一緒になって話を聞いていた匠君。


"あんたいつの間に戻ってきてたんだい?

…今はよぼよぼの婆さんで悪かったわね。

まぁいい、話しを元に戻すよ。長男は大学を出て、歯医者になったところまでは良かったんだよ。でも何年かすると、突然自分の病院が持ちたい!頼むから資金を援助して欲しい。とか言い出してね、私は働きだしたばかりで世の中のことも何も知らない息子に何が出きるんだ?と思ったよ、でも結局旦那は嫌われたくないから出資してやったのさ。息子は反対した私をその時から嫌いだしてね…

まぁ長女も同じような理由だよ、やっと大学を卒業したと思ったらチャラチャラした弁護士の男にひっかかってさ、結婚して自分達の弁護士事務所出したいから金を寄越せとな。後は長男と一緒だよ、旦那は出してくれたけど私が反対したから毛嫌いするようになったとな。


『サキさんは間違ってない!そりゃ反対するべきだよね!旦那さん、ちょっと甘やかし過ぎだと思うよ。まぁ旦那さんの気持ち俺もわからないでもないけどさ?子どもには嫌われたくないと思うだろうし。』


「うん、確かにね。私もサキさんは間違ってないと思います。みやこさんは、そんなことなかったんですか?」


"だろ!?私の気持ちを分かってくれるのは、あんたらだけだ!二人とも死ぬ前に会いたかったよ。で、みやこなんだけど、あの子は上の二人と歳が離れていたからね可愛がってはいたよ?でも旦那も私も上の二人を甘やかした反省から、少し厳しくは育てたかもしれないな。大学の学費も自分で働きながら、払っていたしね!結婚したい人がいるって相談にきた時も、お金に苦労するような人とは結婚するなって止めたんだけどね、あなた達には分からないかもしれないけど、人間の価値はお金じゃないのよ!とか言ってきて、私達家族はそれ以上何も言えなかったよ。だから、遺言書を書いて、あの子に多く引き継がせてあげたいと思ったのさ。"


『うん、サキさんそれ賛成!!

みやこさんに多く渡すべきだよ!』


「私も、そう思います!」


"じゃあ、さっさと書き上げるからコーヒーでも飲んであんたらは待ってな。"


台所を借りて、三人分のコーヒーを

淹れて座り心地の良いソファーで寛ぐ。


"よし、できた!これで完璧だよ。後は原本を全く関わりのない弁護士に持っていくことにするよ、こういうものは変に知っているやつに任せるとロクなことにならない気がするからね!コピーしたやつをあんたらに預けたいんだけど頼んでもいいかい?"


『俺らにコピーを?』


"念のためさ!折角書いたのに、紛失されたとか言われたら嫌だろ?"


「まぁ、預かるだけだしいいんじゃない?」


『翼がそういうなら、サキさん!

責任もって預かることにするよ!』


"匠、翼ありがとう、家族葬なんて寂しいと思っていたけど、これで思い残すことはないよ!お前さんたちのところを選んでくれたあのバカ息子達に感謝しないといけないね!"


弁護士事務所を訪れて、遺言書を託し葬儀の翌日の日付を指定して、その日に兄妹三人に連絡をして全員集め遺言書を公開するようにお願いした。

たっぷりと顧問料を貰った見知らぬ弁護士は

「はい!仰せのままに!」と満面の笑みを

浮かべて返事をしている。裏切ることはなさそうだ。まさか、サキさんがその日には

この世にいないとは思ってもいないだろう。


弁護士事務所を出て、車へと戻ると三人の体は眩い光に包まれ始め、気がつくと元の駐車場に戻っていた。


『……岩崎さん?』


誰かに呼ばれる声で我に返ると助手席には

遺影を抱えたみやこさんの姿があった。


「あ、すみません、ボーッとしていたみたいです…すぐ準備に取りかかりますね!」


車を降り、匠君と棺を降ろす準備をする。

二人で手を触れた瞬間…


"匠!翼!本当にありがとう!こっちにきたら私が茶飲み友達にでもなってやるから、それまで仲良く暮らすんだよー?ふふっ。楽しみだな…。じゃあ達者でなー!!"


二人で顔を見合わせて、笑いを堪えながら

火葬場の職員にサキさんを引き渡した。

…ん?何が楽しみなんだ?

まさか、私達が死ぬこと?!


「ねぇ、匠君?サキさんは

何が楽しみなんだろ?」


『ん?そんなこと言ってた?気にしなくていいんじゃなーい?とりあえず明日には遺言書が公開されて、みやこさんの苦労も報われるだろうしさ?』


あ!寿郎君に言わなきゃ!

その後、會舘に戻り、名探偵寿郎の推理が

見事的中していたことを伝えるといつもは見せない得意気な顔で更なる推理を披露していたが、それは見当違いもいいところだった。


みやこさんと家政婦がグルになって、

サキさんを殺害していたなんて…



※※※※※※

数日後、會舘にある小包が届いた。


宛名には"岩崎匠、翼様"

差出人は伊集院サキ


中を開けてみると、


○○銀行✕✕支店へ行き

これを見せて貸金庫を開けなさい。


と書かれていた。


指示通りに銀行に二人で行ってみると貸金庫の中には、手紙と小切手が入れられていた。


"わたしの最後の友達へ"

驚いたかい?サプライズってやつさ?

これはサキ婆ちゃんのへそくりだから!

二人で好きに使うがよい!

本当に感謝しているよ、ありがとう。

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