【19】久々の休日

本日は予約も入っていないので、幸栄達にも

休みということは昨日伝えておいた。

私達が入院している時から、あの二人には

休みという休みを取ってもらっていない

気がする…。


冠婚葬祭というが、予定が予め決まっている

結婚式とは違い、人の不幸というのはいつ

起こるかわからない不測のもの。

少人数で経営しているうちのような葬儀屋は

まとまった休みをとることが難しいのだ。


今日は起きてすぐに朝食を作ることはせずに

布団の中で微睡みのひとときを楽しむことにした私は、ゴロゴロと寝転んでネットニュースを読み漁っていた。匠君は夜中にやっていたスポーツをソファーで見ながら、そのまま眠ってしまったらしく、二階には上がってきていないようだ。


朝のワイドショーが一段落して、通販番組が

増えてくる時間、下から私を呼ぶ声が聞こえてきた。


『つーばーさー?ご飯出来たよー?』


まだ、寝ていると思っていたら既に起きて

朝ご飯を作ってくれているとは…


「すぐ降りるねー!」


一階に降りると、トーストや目玉焼きなど

洋風の朝食が並んでいた。


『おはよう翼!コーヒーだけ淹れてくれるかな?俺が淹れるより確実に美味しいしさ?』


「匠君おはよう!ご飯ありがとー。朝起きてご飯出来てるのって、幸せすぎるね!すぐコーヒー淹れるから座って待ってて!」


朝食を食べ終わり、本日の予定の相談をする。事故に遭った時は別として、匠君と二人でゆっくりと休日を楽しむことは本当に少ない。そう、どこかに行こうとした途端に鳴る依頼の電話…。取らなければいいだけの話だが、宣伝もしていない私達のような小さな葬儀屋を、わざわざ選んで問い合わせをしてくれているお客様を無視するわけにもいかない。


「匠君、今日何かやりたいことあるー?」


『んー?何だろ、いざそう言われると思いつかないものだねー!…何しよっか。翼は何かやりたいことないの?』


「私はね、一つだけ見たい映画があったの!それくらいしかないかな?」


『えー、何々?じゃあそれ見に行ってどこかランチでも食べに行こうよ!ちょっとデートっぽいじゃん?!』


「じゃあ、そうしましょうか!

ご飯食べたら出る準備するねー!」


『よーし、翼!久しぶりのデートに出発しますか!映画の時間まで後一時間だから、少し急ぎますよー!』


玄関を出て、車に乗り込む。

…あれ?私今日、左足から靴履いたかな?

何か違和感があるような気がする…。

きっと、履いたよね?うん、多分…。


ギリギリで上映時間に間に合い久しぶりに

大画面で映画を見ることができる!

映画泥棒に二人で静かに突っ込みをいれつつ

ようやく始まった本編に集中する。

そして、物語も中盤に差し掛かった、いよいよクライマックスに向かう!という時に恐れていたことが起こる…。

静かな映画館内に響き渡る匠君の

スマホのバイブレーションの音…!


「…ちょっと、音消してって言ったじゃん!早くどうにかしてよ!!」


『だってー、かかってくるとか思わないし

バイブでいいかなって思ったのー、とりあえず外に出るわ!』


小声でやり取りをし、退出した匠君。

数分後に戻ってきた彼の顔は、先ほどまでの

微睡みの表情から、仕事モードのキリッとした表情に変わっていた。


「……もしかして、依頼の電話?」


『……はい、15時にくるってさ。映画終わったらそのまま帰らないと間に合わないな』


やはり…、私は左足から靴を履かないと

ダメなのだ…。右足から靴を履いて、こういう目に合うのは一度や二度ではない。

クライマックスに入り、周りから泣き声が

聞こえてきたりしている感動のシーンだが

私はその後の内容が全く頭に入ってこなかった。


「あの電話から、映画の内容が全く頭に入ってこなかったよー。お昼も豪華なランチ食べようと思っていたのに、結局ファストフードのテイクアウトだしさー。」


『まぁまぁ、仕方ないじゃない?寿郎達も

そろそろ着いてる頃だと思うし、幸栄さんにいっぱい愚痴ってよね!?』


「まぁ匠君は悪くないし、全ては私が右足から靴を履いた所為だしね。さーて、仕事しますかー!」


『…ねぇ翼?何?右足から靴ってー?

ち、ちょっと待ってよー!!』


車を降りて、會舘へと向かう。後ろで何か

言っている匠君の声がするが聞こえない

フリをして歩みを速めた。

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