【37】夢の中。

【…匠…匠君…起きて?私、翼よ!】


誰かが俺を呼んでいる。ん?この暖かい

包まれるような大好きな優しい声…

段々視界がハッキリとしてくると、目の前には神々しい光に包まれた翼の姿があった。


"ん!?これは夢?翼は今、病院のベッドの上で眠っているんじゃなかった?"


【そう!私の体は病院のベッドの上で今、

生死の境をさ迷っているみたい。で、またもや魂だけ抜け出して匠君、幸栄、寿郎君に

会いにきてるってわけなの。】


"生死をさ迷っているって…まさか幽霊?

あ、そういえばこの前、死んでないけど俺も自分のこと宙に浮いて見下ろしていたな…"


【そうそう、それ!ここまできたら私、

特技"幽体離脱"って書けちゃうわよね。

振り返って見て?二人もいるのよ!】


後ろを振り返ってみると、そこには

幸栄さんと寿郎が"わけがわからない"

という顔をして佇んでいた。


【三人揃ったところで、私の話を聞いて欲しかったの。それはね、今言った通り危ない状況みたいなんだよね私の体。これが神様の決めた私の寿命だったら受け入れるしかないと思うんだけど…それでもね、最後に何か抵抗してみるのもいいかな?と思ったの。病気なんかに負けたくないでしょ?三人が私の事を本当に必要としているって言葉を貰えたら、私はまた自分の体に戻れそうな気がするの。

私、四人でバカみたいな会話をしながら過ごす毎日が、本当に大好きでさ?まぁ、いつかは皆死ぬってことも解っているつもりだけど、まだ早いと思わない?だから、お願い!

力を貸してくれるかな…?】


俺は一度経験をしているし、故人のお願いを聞いてきた経験もあって素直にこの状況を受け止めている。しかし、後ろの二人はお互いに顔を見合わせて困惑の表情を浮かべていた。俺は二人に近寄ると、二人の手を握り

"大丈夫!"と笑いかける。

二人は力強く頷くと、翼に向かって

自分の気持ちを話し出してくれた。


『翼、あなたの言いたいことは、よーく

わかったわ!私は翼の事が大好き!あなたがいなかったら、私のコーヒーは誰がいれてくれるの?寿郎への愚痴も聞いて貰えなくなっちゃうし、二人で海外旅行に行くっていう夢もまだ叶えてないわよね?言い出したらキリがないんだけど…とにかく翼は私の一部なの!お願い、戻ってきて?』


『翼ちゃん?俺、口下手だからさ、何て言ったらいいのか言葉が上手く出てこないんだけど…、翼ちゃんがいなかったら、俺の大事な幸栄も匠もダメになってしまうと思う。

俺一人で、二人の暴走を止めるのは無理だよ?だからさ、俺も翼ちゃんには今まで通り一緒にいてもらわないと困るんだ。』


二人の話を聞いて、涙を流している翼。

寿郎に退院するまで泣くなって言われたけど、二人の翼への想いを聞いて俺も涙が止まらない。種類は違えど同じように翼のことを

大切に思ってくれている真っ直ぐな言葉が嬉しかった。


『ちょっとー、翼が泣いてくれるのは嬉しいけどさ?何で匠君が泣いているのよ?』


『…、匠?翼ちゃん戻ってくるまで

泣くなって俺、言ったよな?』


「もぉー、二人ともいじめないでよっ!!」


三人のやり取りを見て、嬉しそうに微笑んでいる翼。やっぱり翼には笑顔が一番だ。


「そういうことだよ、翼?俺は翼がいないと、全ての気力を失って、仕事も手につかずご飯も食べないで、二人の思い出が詰まった家に引きこもり、きっと翼の後を追う。

これは脅しじゃないよ?だって、翼がいない世界に俺の生きてる意味なんてないんだから。だからさ、幸栄さんと寿郎を二重に悲しませない為にも翼は今すぐ体に戻って、俺達の世界に戻ってこないといけないの!わかった?これは命令だよ?」


真剣な表情で俺を見つめ、最後まで黙って

話を聞いてくれている翼。後ろからは、

幸栄さんの鼻をすする音が聞こえてくる。


【三人とも、本当にありがとう。そうだよね。幸栄と海外旅行に行くって約束もまだだし、寿郎君に二人の面倒を看させるわけにもいかない!匠君が自殺しちゃうのも絶対にイヤ!やっぱり私は三人の世界に思い残したことばかりなんだ。元気になって絶対に戻ってくるから、だからもう少し待っててよね!】


翼が言い終わると、視界が眩い光で覆われ

気づくと俺は翼のいない自分のベッドから

転げ落ちていた。なんだ、夢か…。

それにしてもリアルな夢だったな。

時刻は午前四時を回ったところである。

床に落ちているスマホを確認すると

病院から何回も電話がかかってきていた…。

まさか、翼…?

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