11.かなり有名な話
次の日、大学に行くと、なんだかゼミの連中がこっち見てヒソヒソやってる。
何話してんのさ、って近づいても、わざとらしいというか、よそよそしい態度で、「いや、別に……」って言葉を濁される。
何なんだ?
みんなの態度で判るのは、好意的なヒソヒソ話じゃないってこと。
元々、好印象だったわけじゃない、ってか存在感なかった僕だけど、変な形で注目されちゃってるみたいだな。
昼休み、一人で学食でご飯を食べる。
こういう時に頼りにしたい松本も、休みに入ったらさっさとどっかに行ってしまったし、別に悪いことした覚えはないのに居心地が悪い。針の筵の上にいるみたいだ。
ご飯を食べ終わって食器を片づけてると、こっちに向かって小走りにやってくる気配を感じた。
振り返ると、松本がいた。何だかちょっと救われた気分だ。
「おい新庄、おまえさ、昨夜女の子とデートした?」
なんだそれ。
「デートってか、バイトが終わって、ちょっと会って話してた子はいるけど」
松本は、うわー、と小さくつぶやいて頭を抱えた。何そのいかにもこの世の終わりだってオーバーリアクションは。
「かなり広範囲でうわさになってるぞ。おまえが、好きな子に告白してフラれた腹いせに、その子の友達に手ぇだした、って。好きでもないくせに、その、なんだ。エッチな関係になったってさ」
「……はあぁ!?」
思考フリーズの後、思わず腹の底から声を出してしまった。
「ばっ、大声出すなよ。とにかくこっち来い」
松本に引っ張られて、僕らは校舎の陰に身をひそめた。
「で、昨夜会ってた子って誰なんだ?」
松本が、ちょっと疑ってますって感じの目で見てきた。おいおい、おまえに疑われるなんて思わなかったぞ。
僕は、水瀬さんが僕のバイト先にやって来て話があるからと喫茶店に一緒に言ったと打ち明けた。もちろん、赤城さんのバイトの話は伏せておいたけど、大体のところの会話の流れを正直に話した。
「つまり水瀬さんが、おまえの赤城さんへの気持ちを確かめるために待ち伏せてた、ってことでOKだな? それだけだな?」
「当たり前だろ。おまえに疑われるなんて心外だ」
「や、まぁ、そうなんだけどさ。噂がすっごい詳細だったから、つい。悪ぃな」
松本はバツが悪そうに頭を掻いた。
「詳細って、どんな感じなんだ?」
松本が軽くうなずいてから話してくれた噂の内容に、僕は目の前が真っ暗になった。
概要は、さっき松本が話した通りなんだけど、喫茶店での僕と水瀬さんの様子を事細かに伝えられた。僕らが顔を突き合わせている写真を見たってヤツもいたらしい。
「写真があるってことは、その場にいて隠し撮りしたってことだよな。写メをプリントアウトしたんだろうな。水瀬さんの顔はちょっとボカしてあったみたいだけど」
「そんなっ。それじゃ水瀬さんだって、判る人には判っちゃうってことだろ?」
「そうだな。多分」
僕は、自分で言うのもなんだけど、怒りの沸点は高いと思う。そんな僕だけど、今まで感じたことのないような、怒りがわき上がってきた。
「僕はともかく、水瀬さんがかわいそうじゃないかっ。遊ばれるような女だって広められたことになるんだぞ」
「そこかっ」
松本があんぐりと口を開けた。
「……おまえ、ほんっとにお人よしだなぁ。おまえだってそんな噂立てられたんじゃいろいろ悪影響だろうにさぁ」
「そうだけど、こういうのって男より女の子の方がダメージでかいと思ってさ」
僕が言うと、松本も、うんうんとうなずいた。
「今の話、本当?」
突然後ろから声をかけられて、僕はびくぅっと跳ねた。こ、この声はまさか。
「あ……、赤城さん……」
松本の声で、僕は真後ろに立っているのが自分の想像通りの人だと知った。
聞かれたくなかった……。
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