第35話 訪問者
ログインすると何やらドアの外がうるさい。
ドンドンドンッ!ドンドンドンッッ!!
「ん?なにごとっ!?」
ドアを叩く音とそれを止めようとするバーバラさんの声が聞こえる。
「今ってまだ早朝も早朝だと思うんだけど……」
「おいっ!早く開けろー!」
「もう少しお待ちなさいな」
「バーバラ!そんな暇はないのだっ!鍵はないのかっ」
「グランツが取りに行ってますよ(もちろん時間稼ぎの嘘ですけどね)」
え、まじか。このまま放っておくとドアを壊されそうな勢いなのでさっさと騒動の元へ向かうことにする。ここまで案山子さんが入れてるってことは無害なはず……だといいな。
「はいはーい。今開けますよー!」
ガチャ
「遅いぞ!」
「バーバラさんおはようございます」
「リリーちゃん、おはよう。朝早くからごめんなさいね」
「いえ……」
んー、誰かなこの子。ま、この騒ぎの張本人に違いなさそうだけど……まさか、グランツさんとバーバラさんのお孫さんとか?
「む。娘、変なこと考えるんじゃないぞっ!私はふたりの孫ではないっ」
おー、心を読まれてしまったようだっ。
「リリーちゃん、声に出てるわよ」
「あ、そうでしたか」
じゃあ、この男の子は誰なんだろうか?
「うむ。もう会ってしまったか」
「グランツさん」
「グランツ!」
「うむ、こちらはリリー。こやつは案山子をつくったルミエル・エンドロースだ」
「え?そんな……この男の子がつくったんですか?」
10代前半にしか見えないけど……
「む……言っておくが娘!私はエルフだぞ!グランツよりも長く生きているんだからな!」
「そうじゃな」
ルミエルさんはグランツさんより少し年上なだけでエルフではまだまだ若輩者扱いなんだって。しかも、エルフはやっぱり外に出ていくものは少ないから集落では変わりモノ扱いらしいよ。
そういえば耳も尖ってるしかなりの美形さんですねー……てか、なんでショタ?ここはロリババアもしくは合法ロリじゃないの?
「えっと……よろしくお願いします?」
「娘次第ではよろしくしてやってもいいぞ!」
「うむ、こやつに案山子のことを伝えたら全て放り出して来たらしいんじゃ」
案山子さんのことを聞きつけてやってきたのかー……え、早くない?ゲーム内でも数日しか経ってないよね?
結構有名(いろんな意味で)な魔道具職人兼錬金術師だからいろいろと忙しいのに放り出して来たんだってさ……グランツさんたちも真夜中に到着したルミエルさんを引き止めてくれてたみたいなんだけど陽が昇ったら止めきれなくなったらしい。
「早く、案山子1号のところへ行くぞ!」
ん?まだ会ってないのかな?この様子なら1番に突撃してそうなのに……
「うむ、案山子本人がリリーも一緒がいいというものでな」
「ええ……そのせいでさっきの騒ぎだったのよ」
「ちょっと変わっておるがの……悪いやつじゃないんだ」
「ええ、ほんの少し自覚も足りないけど悪い人じゃないのよ」
ちょっととか、ほんの少しじゃない気もするけど……悪い人じゃないならま、いっか!
「ほら早くしろっ」
「あ、はい」
なんか偉そうな口ぶりだけど、本当に案山子さんのところに行きたくてそわそわしてるの見ると怒る気も起きないというか……
早速外に出ると案山子さんが待っていた。
「よし、案山子1号よ!娘を連れてきたぞ!」
「ウン……リリー、オハヨ」
「案山子さんおはよー」
「1号!早速見せてくれ!」
「ウン、ドウゾー」
ルミエルさんはキラキラした目で案山子さんを隅々までチェックし紙に何かを書き込んでいる。うん、すっごく楽しそう……
「大体把握できたぞ!娘、このクリスタルはもっとないのか?いろいろ研究したいんだがっ」
「あー……それ、たまたま見つけたやつなので」
「む、そうか……残念だ。また見つけたら必ず知らせてくれ!」
「わかりました」
「1号、なにか希望はあるか?せっかく来たんだ。このルミエル様が願いを聞いてやろう!」
「ボク、モットウゴケルヨウニナリタイ」
「そうか、このルミエル様に任せておけ!」
「ウン。ヨロシク」
ルミエルさんと案山子さんはなにやら相談をしている……腕がどうとか足がどうとか……
「というわけで娘!必要な材料を手に入れに行くぞ!」
ピコン!
〈クエストが発生しました。クエストを受けますか?Yes or No 〉
ウインドウにクエストの詳細が出現した。
*****
クエスト
内容:ルミエル・エンドロースと共に案山子1号の材料を手に入れよう!
報酬:ルミエルの友好度アップ
期限:3日以内
*****
ひとまずYesを選ぶ。報酬はないに等しいけど、断ったら面倒なことになりそうだし……
「で……どこに行くんですか?」
ふむふむ……どうやらまだわたしが立ち入ったことのない森の奥にいく気らしい。
「あの、わたしそんなところまでたどり着けません……」
「なんだとっ!」
「うむ、わしも手伝おう。一応案山子の所有者はわしじゃしな」
「あ、そうだグランツ。その所有者ってのなんかなくなってるんだよな!」
「え?」
「は?」
「あら」
「うん、だから案山子1号は自由にどこにでも行けるってことだぞ!すごいだろ?ここにいるのも1号の希望だぞ!」
「そうか……」
「ボク、グランツ、バーバラ、リリーモスキ。ハタケノオセワモタノシイ」
「そう……もちろんわたしもお供するわ」
「ウン、ボクモイクヨ。ボクマモノヨケモデキルカラ」
「そうだな!1号の魔物避けの効果もどれくらいの魔物までなら大丈夫か確かめたいな!他にもいろいろな数値も取りたいしみんなで行くか!」
って……もう走り出そうとしてません?あ、グランツさんに捕まってる。
「ルミエル、落ち着け。準備をしてからじゃ」
「む。早くしてくれよな!」
「はいはい」
「リリー……荷物頼んでもいいかの?」
「はい!戦えない分荷物持ちはお任せを!」
「ん?そうか!じゃあアレも頼むぞ!」
ルミエルさんが指差した場所には山積みの荷物が……あれひとりで持って来たのかな?え?マジックバッグを自作したから楽勝?さっきのは冗談?……なんてわかりづらい。
「ていうか、グランツにマジックバッグあげたでしょ!なんで使ってないのさ!」
「うむ、時間経過しないものを作ってくれたら使うはずじゃ」
「えー、あれ面倒なんだよね。材料もなかなか手に入らないし……そもそもグランツ買い叩くじゃないか!それだったら高く買ってくれる人に売れは私は研究に没頭する資金が手に入るからなー」
あれ?はちみつの時といい、今回といい……もしかしてグランツさんとバーバラさん、わたしが足手まといなのを気に病まないように荷物持ちっていう仕事をくれたのかな?本当にありがたい人たちだ。
「さぁ……グランツ、ルミエル?準備できたなら行きましょうか」
バーバラさんのひと言によりそれぞれ超特急で準備を済ませたのだった。
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