ゲリラライブマーチ

風月七泉

プロローグ


「来たぞ……ふふ、ふは、あははははははは――」

「な、なんじゃお主っ⁉」


「天命を全うし、全てを捧げ、生きて来た……さぁっ! さぁ、俺の次なる大きな夢を叶えてもらおう」


 真っ白な空間、純白の着物、宙に浮く人へ向け歩く。

 道もない白い空間を、力強く青年は進む。


「き、貴様、我が誰か――」


「神だろう、そんな些細な事はどうでも良い。俺の夢を叶えて貰おう」


「ず、随分と頭が高いじゃないか」


 あまりの勢いに神の方がたじろいでしまう。


 ――なんじゃコイツは、何処から迷い込んだ。何故、輪廻転生の枠に居ない、己の意志で抜け出したとでもいうのか⁉ 信じられん。


「あぁ、いや、すいません。この状況にテンションがハイになってしまいまして」

「まぁよい、えぇっとお主は」


 ジッと青年を見るも、神には青年の心が全く見えない。


 ――なんなんじゃ、読むこともできぬとは⁉


 青年は不気味の微笑み、なんの躊躇もズカズカと神の袂まで近づく。


「無礼は百も承知、だがしかし、存在も記憶も書き換えられるのなら消滅した方がマシだったので、勝手ながら、ここまで来てしまい申し訳ありません」


「近いっ! めっちゃ、近いから⁉」


「しかし、しかしながらどうしても渇望して止まぬ夢がありまして、それは唯々下らないと思いながらも、ついつい読んでしまう物語の数々。俺の居た世界では在り得ぬ存在達が居る夢の様な世界の数々に存在しうる者達に会いたいと思っても会えぬ残酷までの事実、そんな物語を読んでも会えるわけでなし、されど想像して止まぬ夢、己が思いを下らないと思わなければならぬ非常なまでの現実を――――――――」


 いくら後ろへ逃げようとも離れない。

 付かず離れず、一定距離を保ちピッタリとくっ付いて語りを止めない。


「だぁ~、主はなにが言いたいのだっ!」


 その言葉を待っていたと、動きを止める。

 軍隊の様にピシッと綺麗に敬礼の姿勢になる。


「はっ失礼しました。端的に言えば異世界へ行きたいのです」


「だ、ダメだダメだ、許される事ではない、どうせ主も力を」

「そんなどうでもモノは要らないので、最低限向こうで生きていける平均的なモノで別に構いません、記憶があれば」

「知識は何よりもの力じゃろうて、別の世界ともなればな」

「別に全ての記憶は要りません」


「……なに?」


「残して欲しい記憶は唯一つの事柄に関するモノのみです」


「…………もうしてみよ」


「俺は、いえ……私は、異世界で最高のアイドル達を見てみたいのです」


「はっ?」


 青年の言っている意味が解らず、神様はしばらくの間、思考も動きも止まる。

 しかし、青年は構わずに全身を大きく使い、声を張り上げて語る。


「ファンタジックな世界に住まう様々な種族。そして魔法という道の奇跡や能力。俺の世界にいるアイドルは唯の人間、そして色々な知恵を持って演出する舞台……言葉で説明すればたったのそれだけしか言えませんが、それだけなのに、数多くの人を魅了する。ただの声で、ただの音だけで。そこに絶対的な力なんて何も無い」


 嘘も偽りもない、心からの叫びが何もない筈の空間を震わすように響く。


「神よ、おお神よ……見てみたいと思いませんか?」


「なにを、見てみたいと……」


「何も知らぬ者達は言うでしょう。

 下らないと! ただの歌だ。

 殺伐とした世界、

 種族間での争いや、ただ生きるのに一生懸命で、余裕のない者達は言うでしょう。

 無駄な事だと。音を奏でる時間などないと。

 何の力もない音楽で出来る事など何一つないと、

 人生の娯楽など余裕のある者達が持つ、事柄の一つ」


 その他の余計な要素は、声は、その本人にとっては雑音と変わらないだろう。


「それでも、俺の世界でも音楽で起きた奇跡は存在するのですよ。だからこそ、見てみたいのですよ己自身が一番に、戦いの力ではなく、全力で馬鹿な事に力を使い、夢の様なステージを創り出す『アイドル』という存在を」


 青年の真っすぐに突き刺さる言葉と視線を受け止める。

 顎に手を当てて、神がしばらく考える。


「己が存在を掛けて、かのぉ」


「一度は、全うした人生があります…… それに、己が全てを掛けて挑むに値する夢ですのでね」


 初めの勢いとは違って、深々と頭を垂れる。

 それでも青年の姿は、今の神よりも強く存在を誇示するようであった。


「我の負けじゃて。しかし、何の力もやれん、渡せるモノは貴様の記憶のみ」

「構いませんよ」


 神がパチンと指をはじくと、地球儀の様なモノが現れた。


「コレが主が行く世界……それぞれ、種族間で争いが絶えない、神々の間でも色々と問題が上がっておる世界だ。きっときびしく――」


 神の言葉を最後まで聞かずに、青年は声高らかに答える。


「では、俺はこの世界を、楽しく愉快な世界を目指しましょう。神々が思わず笑てしまうような、何時までも見守りたくなるよな音楽を届けましょう」

「くく、くははははは。そこまで大見得を切るか、出来るかも分からぬのに」


 青年は首を傾げて、不思議そうに答える。


「見得? ははは、神様、何を言っているのです?」

「む? 何とは」


「俺は、夢を叶えに行くんですよ」

 転移で消える最後の瞬間、青年は神をも食らう様な迫力を神自身に刻み込んだ。



 ★☆★  ☆★☆



==その男はいきなり現れた==


「君達に頼みたい事があるんだ」

 辺りに大きく響く声で、一人の男性が高らかに叫んでいる。


「頼む、俺の夢に協力を願いたい」


 綺麗に腰を九十度角に曲げて頭を下げて、頼み込む男性の前には二人。


「やだよ……めんどくさい」

「別の方にお願いしてください」


「いいや、ダメだ。君達でないとダメなんだ」


「どこの誰とも知らない人に付いて行くわけないでしょう。バカじゃないの?」


「この場所に人間の貴方が来れたとは凄いと思いますがね。どうやって来たかはとりあえず置いておいて、よりにもよって自分達に声をかけますか?」


「当たり前だ、君達に声を掛けずに誰にこの話をする‼」


「はぁ? 何言ってんだコイツ?」

「こっちに聞かないで」


「君達の夢に繋がると思うだ」


「はぁ⁉ ますます意味が分からねぇ」


「ここで自分達は変人扱いを受けているのをご存じですか?」


「変人? あぁ、それは仕方ないな」

 男性は一人で頷き、勝手に何かを納得している様子だった。



「俺は、この世界で、世界一のアイドル達を育てたい」

 本当にこの全世界にでも届けんばかりに声を張り上げ、全身を大きく広げて叫ぶ。



「アイドルってなんだよ?」

「やっ、だからこっちに聞かないでよ」


「ふっ、失敬。そうだな、この世界にはまだアイドルという概念が存在しないか」

 目の間の相手がヤバい奴だと思ったのか、二人はコッソリ逃げようとした。

 しかし、それを男性が許すはずもなく。


「で~は、説明しようじゃないか」


 驚く程の速さで、彼等の前に立ち塞がる。


「はやい」

「こいつ⁉」


 見た事もない白いボードを持ち出し通せんぼをする様に、素早く移動する。

 どんなに廻り込んでも、片方が囮になろうとも。

 まるで分身をしているかのように立ち塞がって、説明を始める。


「聞いているのか? しょうがない、最初から説明しよう」


「や、わかった、ちゃんと聞く。ちゃんと聞くから。怖いんだよテメェ~」

 小さい子が半泣きになりながら、もう参ったと白旗を上げる。


「まさか、自分達の力の及ばない人族が居るなんて……」

 凛とした声の子がショックを受け、涙を流しながら強制的に説明を受けている。




「なぁ、あれ何だべが?」

「わぁ~らん、でも、あんこ達がやり込められるなんて、只者でねぇよ」

「こもれ、世界樹様のお導きかも、しんねぇな」

「長老、彼は?」

「さてねぇ、此処に迷い込んだよ」


 長老と呼ばれたエルフが唯々、楽しそうに笑うだけだった。


「しかし……面白そうな馬鹿が来たもんだねぇ」




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