第30話 奪われた鍵
「ぶはぁっ。逃げられちまった。こりゃしばらく出てこねぇだろうな」
池の中に巨大魚と共に落ちた俺は、なんとかその巨体を引き上げようともがいたものの、殺さないように、なるべく傷つけないようにと手加減した状態では無理だと悟った。
何より水の中は相手の領域である。
あっという間に振り払われ、一瞬で巨大魚は俺の手の届かない湖底へ消えていった。
追いかけようと思えば追いかけられたかもしれないが、エルモと違って俺には水中呼吸が出来るような魔法は使えない。
仕方なく池の中から浮上した俺を出迎えたのはエルモとレートの心配そうな顔だった。
「ルギー大丈夫?」
「お怪我はございませんか?」
「いや、怪我はないけど、あいつを逃がしちまった」
俺は水の中から這い出ながらそう答える。
空中でしっかりと巨大魚を捕まえておけばこんなことにはならなかったはずだ。
すっかり奴の諦めきった演技に騙されたって訳だ。
「あれ?」
ずぶ濡れの俺に向けて、魔法でクリーニングしようと手を伸ばしていたエルモが俺の顔を見てそんな声を出した。
いや、エルモの視線は俺の顔ではなくその下。
首元を見ているようだ。
「どうかしたか?」
「ルギー、鍵はどうしたのさ」
「鍵?」
「いつも首からぶら下げてるあのダンジョンの鍵だよ」
「それなら今日も首にぶら下げ……って、無いっ!!」
俺は自分の首にさっきまで間違いなくあったはずの鍵をぶら下げたチェーンを探す。
まさか。
「池の中に落としちまったのか……」
俺は池を覗き込む……だ、そこには水面があるだけで何も無い。
魚と格闘しているときに鎖がちぎれたのだろう。
だとすると池の底に沈んでいったに違いない。
「エルモ、サーチ魔法を頼む。殺気までずっと身につけてたから、あの鍵には多分俺の魔力がしみこんでいるはずだ」
「わかった。ちょっと待ってね。えっと……何これ」
少しの間目を閉じ、俺の魔力を池の中から探っていたエルモが不思議そうに目を開けた。
「どうした?」
「鍵だと思うんだけど、池の底に向かってゆっくり沈んでるんじゃなくてあっちこっちに凄い勢いで回ってるみたいなんだけど」
動き回ってる?
あの鍵が?
「もしかしてさっきの魚に引っかかってるのかも。あっ」
「今度は何だ」
「池の底辺りで鍵の気配が消えちゃった」
「気配が消えた?」
「うん。突然何かに遮られたみたいにぷっつりと」
鍵の気配が消えたということは、その鍵を引っかけていた巨大魚も消えたということだろうか。
やはりこの池の底にはエルモのサーチ魔法が届かない何かがあるんじゃなかろうか。
「間違いないよ。そうじゃないと説明が付かないもん」
「こうなったら直接池の底まで行くしかないか」
エルモの魔法があれば池の底まで向かうことは簡単だ。
それに俺だけでは水の中で戦闘になった場合不安があるが、エルモがいれば問題なく戦えるはずで。
しばし二人で打ち合わせをし、エルモの補助魔法で水中での呼吸を可能にしてもらった後、その場に集まった人たちに釣り大会の続行を伝える。
あの巨大魚さえ出てこないのなら、俺たちがいなくても問題ないだろうし、せっかく盛り上がっている大会を中止にしたくはない。
そして一通りの説明を皆にした後、俺はゴブローとレートに後のことを任せるとエルモと共に池に飛び込んだのだった。
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