第20話 襲撃! エルフの里

「あそこがエルフの里か」

「こんなに近づいて気がつかれないゴブか?」

「大丈夫だ。エルモの結界魔法は臭いも音も消すからな」

「あんまり長いことやってると窒息しちゃうけどね」

「別の意味で大丈夫ゴブか!?」


 木々の間から見えるのは、雑にくみ上げられた木々で作った小屋とも呼べないような家々。

 それがエルフの里だ。

 その里の中には見えるだけで二十以上もの醜悪なエルフたちが動き回っている。

 

「しっかしダンジョンの中の魔物の方がよっぽど可愛げがある見た目してるな」

「そうだね。ダンジョンの魔物は何種類かはテイムしてペットにもしてたくらい可愛かったしね」


 そう答えるエルモは、自らの顔の前で指をOK型にして、その穴に目を当てるようにエルフの里を調べていた。

 遠視の魔法らしいのだが、その片目で覗き込んでいる姿は微妙にかわいらしい。


「いたいた。右上の洞窟みたいな穴にゴブリンたちの姿が見えるよ」

「そこが牢屋ってわけか?」

「みたいだね。前に一人だけエルフが見張りに立ってる」


 反乱を企てたゴブリンたちは、ゴブローの言ったとおり殺されてはいないようだ。

 昨日戦ったエルフの印象からは、問答無用で処刑されていてもおかしくないと俺は思っていたのだが不思議な物である。


「それじゃあ作戦通り俺たちが突っ込んだら」

「仲間を助けに行くゴブ」

「合流地点はここでいいな?」


俺たちは最終確認をするとそれぞれ行動を開始した。

 エルモはエルフの里からエルフたちを逃さないように結界を貼り、それを確認してから俺がまずルキスカリバーを顕現させ突撃する。

 先日の戦いで、エルフの口の中に謎の生き物が巣食っていることは確認済みなので、中のそいつごと真っ二つにしていく。


 そんな俺に気がついたエルフたちは仲間たちを集めだしたが、俺には関係ない。

 むしろどんどん集まってくれたほうが好都合だ。


「かかってこいやぁ!!」


 ルキスカリバーを天にかざして吠える俺に向けて、エルフたちが一斉に強力な風魔法を放つ。

 だが、その全てをルキスカリバーを一振りするだけで打ち消すと、集まったエルフたちのど真ん中に突っ込んでいく。

 こうなると同士討ちを気にして奴らはかんたんに魔法を放てなくなる。


 それでも鋭い爪を振り下ろすエルフの腕を切り上げるように両断し、返す刀で頭から真っ二つにする。

 次に後ろから襲いかかってきた所をバックステップでわざと相手の体にぶち当たるように飛んで吹き飛ばす。

 そして近くにいるエルフから順番に斬り伏せていった。


 エルフたちが俺に殺到している間に、ゴブローは仲間たちを開放しに里の上にエルモとともに向かっているはずだ。

 既に二十匹以上のエルフを倒した俺はふと空を見上げる。


 そこに一つ時の光が登っていくのが見えたからだ。


「無事に逃し終えたか。だったらお前らとの遊びはこのへんで終わりだな」


 俺はルキスカリバーを強く握りしめると、大きく振り回し、周りに集まっていたエルフ共を吹き飛ばす。

 と、同時にその場から一気に走り出す。

 一切の加減もない猛ダッシュである。

 きっとエルフ共には突然俺が消えた用に見えたかもしれない。


「おまたせ」

「ううん、今来たところだよ。それじゃあいいかい?」


 高速で待ち合わせ場所にたどり着いた俺は、その場にいる助け出されたゴブリンたちが驚きの表情を浮かべている中、エルモに頷き返す。

 この後起こることをゴブローだけが知っているせいか、やつの顔は少し青ざめていて。


「じゃあやるよ!! 地獄の業火よ、闇の炎よ、今我の命に従い顕現せよ!!」


 詠唱に合わせて、エルモの前に黒い球体状の黒い炎が現れる。


「その力を今こそ開放し、我の敵を滅せギガントダークフレイム!!」


 叫んで両手を大きくエルフの里に向けて突き出したエルモ。

 その挙動に合わせて、彼女の前に浮かび上がっていた黒い炎の球体が一気にエルフの里に向けて飛んでいく。

 ゴブリンたちは、その炎の行方を追いながら、何が起こるのかと目を見開いていた。


「ブレイクッ!!!」


 エルフの里の中央。

 先程まで俺が暴れていた辺りまで黒い炎がたどり着いたところでエルモがそう叫んで、広げた両手をグッと握った。

 と、同時。


「ぎゃああああああああああああああああああっ」

「ぐぎゃおおおおぁぁぁっぁぁぁぁぁ」


 晴天の空に向けて、エルフたちの断末魔が響き渡る。

 エルモの掛け声に合わせて爆散した黒い炎は、一瞬にしてエルフの里全体を包み込み、そこに居たエルフもろとも炎に包み込んだのだ。


「相変わらずえげつねぇな」

「でも一気に敵を倒すには便利でしょ?」

「そりゃそうだけどよ」


 エルモの結界によって俺たちのところまでその熱波は届かない。

 燃え盛るエルフの里の炎も、周りの森に延焼する心配もない。

 だが、その中にいるエルフたちは全て炎から逃れることも出来ず次々と命を落としていく。

 それはあの口の中に潜んでいた生き物も同様だろう。


「後はゴブリンたちが働かされている数カ所のコロニーをぶっ潰して終わりかな」

「それが終わればこの森はエルフから開放されるってことでいいんだよね? ゴブローくん」

「そう……そのはずゴブ」

「本当にこの森には他にエルフ族は居ないんだな?」

「エルフ族は排他的な種族ゴブ。それは同族でも同じゴブ。だから一つの森に二つのエルフの集まりは存在しないゴブよ」

「じゃあ、他の森にはまだエルフがいるわけだ」

「別のエルフか、エルフより強力な種族が支配しているはずゴブ」

 

 俺は燃えさかるエルフの里を見ながら「まぁ、必要になったらまた奪えば良いだけだな」と呟き、エルモの方を見る。

 だが、目の前の恐ろしい惨劇の当事者であるはずのエルモは、何やら虫かごのような物を目の前にぶら下げていて、その中身を興味深げに見ているようだ。


「それは何だ?」

「これ? これはエルフの口の中に住んでた『蟲』だよ。多分」

「蟲って、あの口の中から最後っ屁みたいに飛び出してきた奴か」

「そうそれ。さっきゴブリンたちの監視をしてたエルフから採取してきたんだ」


 そう嬉しそうに虫かごを揺らしながら答える。

 俺はその顔を知っている。

 エルモの研究心に火がついた時の表情だ。


「まぁ、ほどほどにな」

「うん。わかってる」


 絶対わかってないだろうなと思いながら、俺は残りのゴブリンたちが働かされているという場所へ向かうためエルモの腕を引っ張りながら歩き出したのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る