被害者は……。
「ここです!ここ」狩屋は嬉しそうに店を指差す。そこはトンテキの専門店であった。
カウンターがコの字に配置されておりその中に店主と思われる男性と若い男女が切り盛りをしている。
「この店、ライスとキャベツ、それにニンニクがお代わりし放題なんですよ。でも、味噌汁はなぜかお代わり100円」彼は一人で笑っている。
「俺は仕事の途中だからニンニクは遠慮するよ」接客業で昼飯にニンニクの入った物を食べるなど論外だと思っている。
この店は肉の量で価格が変わるそうだが、二人とも一番小さいシングルというのを注文する。
「なにか、進展はあったのか?」
「そうですね。死体はほぼミイラのような状態で、部屋からの運び出すのが困難。鑑識の連中も機材をマンションに持ち込んでましたよ。それで被害者は女と云うことが解った」狩屋は厨房を覗きこむ。注文した肉が焼けてきたようだ。
「女か……、でもどうして風呂場の上なんかに?」
「それはサッパリ解らないです。誰かに押し込められたのか、果ては自分で入り込んだのか。まあ、自分では無理でしょうけどね。それも女の子がね」
「女の子って、若い女性なのか?」
「あちゃー、俺って口が軽いですよね。そう若い女性なんですよ。あのミイラ、たぶん死後三年は過ぎているだろうって話です」ライスと味噌汁が目の前に置かれる。狩屋は空腹に耐えきれないのか、ライスを一口放り込んだ。「で、聞きたいんですけど、確か今の入居者が入る前に若い女性の解約を上条さん立ち会ったんですよね」
「ああ、3ヶ月位前だったかな……、綺麗な女の子だったよ。たしか如月……、って言ったかな?」
「さすがに覚えてますね。如月遥ですよね。その娘の事を聞きたいんですけど」トンテキが前に置かれた。ナイフとフォークを手に取り器用に肉をカットしだした。たしかに美味しそうなトンテキである。
「そうだな……、特に部屋は汚してはいなかったけれど、鍵を一本紛失していたな。それと大西の話によると、入居した直後に臭いのトラブルがあったって」
「臭いって、どんな?」美味しそうに肉を口に放り込んでいく。あっという間に無くなりそうだ。
「たしか……、干物……」そこまて口にして、気分が悪くなる。干物、ミイラ……、まさか!狩屋を見るが彼は平然と食事を継続している。俺の方はすっかり肉を食べる気が萎えていた。
「干物ですか?」彼は気にもとめていない様子であった。
「犯人は如月遥なのか?!被害者を隠す為にミイラにして……」なぜミイラにする必要があるのか。それは俺には検討がつかなかった。
「被害者は、手に住戸の鍵を一本化握りしめていました。それで如月遥が鍵を紛失していた話と合致します」
「それじゃあ、やっぱり犯人は如月遥じゃないのか!」
「それはどうですかね。遺体の損傷が激しかったので身元を特定するのに、正直難儀しましたよ。でも、歯の治療痕で被害者が解りました」彼はトンテキを半分残して、ライスとキャベツをお代わりした。
「一体誰なんだよ」俺の前には、冷えていくトンテキがあった。
「被害者は如月遥です」
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