１　ひみつ○アッコちゃん

「ルンルンルン♪　ルルンル〜ン♪」

　お兄（にい）ちゃんと一緒（いっしょ）に買（か）い物（もの）に行（い）って帰（かえ）ってきたお母（かあ）さんがゴキゲン中飛車（なかびしゃ）で、鼻歌（はなうた）など歌（うた）っている。

「何（なに）か良（い）いことでもあったの？　お母（かあ）さん」

　買（か）い物袋（ものぶくろ）のひとつを受（う）け取（と）りながら訊（たず）ねると、

「優輝（ゆうき）の妹（いもうと）と間違（まちが）えられちゃった〜。きゃる〜ん☆」

　とのこと。お母（かあ）さんは天城敦子（あまじょうあつこ）、47歳（さい）。47歳（さい）にして、『きゃる〜ん☆』などと宣（のたま）う主婦（しゅふ）が他（ほか）にいるのだろうか？　いや、いない。断言（だんげん）！

　一方（いっぽう）のお兄（にい）ちゃんの優輝（ゆうき）(31歳（さい）独身（どくしん）、ロリコン)と比（くら）べても、確（たし）かにお母（かあ）さんの方（ほう）が若（わか）く見（み）える。

　昔（むかし）っから、『若（わか）いな〜』とは思（おも）っていたんだよね？　今（いま）をときめく美魔女（びまじょ）かと思（おも）ってたら、美魔女（びまじょ）ではなく魔女（まじょ）っ子（こ）☆だったと！

　私（わたし）と同（おな）じ仕組（しく）みよ。

　お母（かあ）さん、天城敦子（あまじょうあつこ）は『あ【まじょ】う　あ【つこ】』から、【まじょつこ】→【まじょっこ】→【魔女（まじょ）っ子（こ）】と。

　私（わたし）たちにまで秘密（ひみつ）にしてるなんて、『ひみつのアッコ○ゃん』か！　あ、アッコちゃんだ。

　魔女（まじょ）っ子（こ）☆アッコちゃんに変身（へんしん）出来（でき）たんだって。『今（いま）は？』って訊（たず）ねたら、

「うふふふふ♡」

と笑（わら）ってはぐらかされた。今（いま）も魔法（まほう）は使（つか）えるらしい。それも私（わたし）より遥（はる）かに洗練（せんれん）された魔法（まほう）を。

　『奥（おく）さ○は魔女（まじょ）』というわけ。

２　息子（むすこ）より若返（わかがえ）るのはやり過（す）ぎだ！

「母（かあ）さん、ドーピングが過（す）ぎるんじゃないか？」

　お兄（にい）ちゃんが苦言（くげん）を呈（てい）す。そう、お母（かあ）さんは若返（わかがえ）りの薬（くすり）を自作（じさく）して飲（の）んでいる。

「だって若（わか）く見（み）られたいんだも〜ん！」

「母（かあ）さんのは、『若（わか）く見（み）える』じゃなくて、若（わか）いんだから！　魔女（まじょ）ってバレたらどうするんだよ？」

「あらあら。31年間（ねんかん）同居（どうきょ）してきて見抜（みぬ）けなかった優輝（ゆうき）が言（ゆ）う気（き）？」

　確（たし）かに、だ。私（わたし）も全然（ぜんぜん）気（き）が付（つ）かなかった。もはや、バレてしまったから隠（かく）す気（き）ゼロだけれど、今回（こんかい）のことがなければ、お母（かあ）さんは死（し）ぬまで私（わたし）たちを騙（だま）し抜（ぬ）いたであろう。現（げん）に私（わたし）、一旦（いったん）死（し）ぬまで知（し）らなかったんだし。恐（おそ）るべし！

３　重大発表（じゅうだいはっぴょう）の中身（なかみ）は？

　リビングではお父（とう）さんが棋譜並（きふなら）べをしていた。どうやら藤井聡太（ふじいそうた）VS木村一基（きむらかずき）のタイトル戦（せん）らしい。

　お母（かあ）さんが４人分（よにんぶん）の湯呑（ゆのみ）、マグカップをそれぞれの席（せき）に並（なら）べる。中身（なかみ）は空（から）だ。お母（かあ）さんが何（なに）やら口（くち）ずさむと、父（ちち）母（はは）兄（あに）私（わたし）のそれぞれに、ほうじ茶（ちゃ）・ほうじ茶（ちゃ）・コーヒー・ミルクティーが満（み）たされた。隠（かく）す気（き）ゼロの魔女（まじょ）の極道（ごくどう）っぷりは恐（おそ）ろしい。とはいえ、今日（きょう）は特別（とくべつ）らしい。

　お母（かあ）さんから家族（かぞく）に重大発表（じゅうだいはっぴょう）があるというのである。

４　ほら、グングニールがダメになったじゃない？　魔王（まおう）と戦（たたか）える武器（ぶき）は常備（じょうび）してないと。それに空気清浄機（くうきせいじょうき）もついてくるし☆

「うふっ、赤（あか）ちゃん出来（でき）ちゃった❤」

　青天（せいてん）の霹靂（へきれき）だった。お兄（にい）ちゃんはコーヒーを吹（ふ）き出（だ）し、私（わたし）は椅子（いす）から転（ころ）げ落（お）ちた。いや、コントでなくホントに！

　で、その騒（さわ）ぎで、壁（かべ）に立（た）て掛（か）けていた、ロトの○るぎ、いなず○のけん、おうじゃのつ○ぎが倒（たお）れてきた。これらはロ○三部作（さんぶさく）の最強武器（さいきょうぶき）セットとして、通販番組（つうはんばんぐみ）で買（か）ったものだ(レプリカ)。おまけに空気清浄機（くうきせいじょうき）がついてきた。ミョルニールはさすがの安定感（あんていかん）で……あれっ？……ドンッ！　床（ゆか）がめり込（こ）んだ★

５　抜（ぬ）かずに三発（さんぱつ）はやり過（す）ぎだ！

「ほら、北海道（ほっかいどう）に温泉旅行（おんせんりょこう）に行（い）ったじゃない？　あのときお父（とう）さんがガンバってくれて抜（ぬ）かずに３回（かい）も……」

「あ〜あ〜あ〜！　聞（き）きたくないっ！」

と、お兄（にい）ちゃんが耳（みみ）を塞（ふさ）ぐ。

　その気持（きも）ちは私（わたし）も良（よ）くわかるよ。

　ちなみに、温泉旅行（おんせんりょこう）に行（い）ったんじゃなくて、13頭（とう）の人食（ひとく）いヒグマ、死神13（デスサーティーン）を退治（たいじ）しに行（い）ったんだけれどね。両親（りょうしん）にとっては、『温泉旅行（おんせんりょこう）』も『人食（ひとく）いヒグマ退治（たいじ）』もそうたいした違（ちが）いはないらしい。

　こっちは頭（あたま）食（く）われて、天（てん）に召（め）され掛（か）けたっていうのに。

６　どうやら彼女（かのじょ）も『魔女（まじょ）っ子（こ）』になる運命（うんめい）らしい

「それでね、女（おんな）の子（こ）なのよ。名前（なまえ）、もう考（かんが）えちゃった🌟　私（わたし）、星新一（ほししんいち）先生（せんせい）のファンじゃない？　だからね、作品（さくひん）から頂（いただ）いて、『ぼっこ』にしちゃった💖」

　天城（あまじょう）ぼっこ→『あ【まじょ】う　ぼ【っこ】』→【まじょっこ】→……。

７　永遠（えいえん）の超絶美少女（ちょうぜつびしょうじょ）13歳（さい）です💖　キャハ🌟　なんか文句（もんく）ある〜？

　ちなみに、私（わたし）の魔女（まじょ）っ子（こ）☆ゆきちゃんの中（なか）にある『☆』も、星新一（ほししんいち）先生（せんせい）の星（ほし）からきている。

　そんなわけで、妹（いもうと）が出来（でき）ることとなった。

　私（わたし）は享年（きょうねん）24歳（さい）で、死（し）んだ時（とき）から４年後（よねんご）に遡（さかのぼ）ってきたわけだから、無事（ぶじ）に生（い）きてたら28歳（さい）だったわけだ。その歳（とし）で妹（いもうと）が出来（でき）るのはさすがにちょっとどうなのよ？　……と思（おも）わなくもないけれど。

　今（いま）の私（わたし）は13歳（さい）固定（こてい）で歳（とし）を取（と）らない。成長（せいちょう）もしないけれど。って、私（わたし）ってホントは何歳（なんさい）なのかな？

　24歳（さい）から980年後（ねんご）の西暦（せいれき）3000年（ねん）まで行（い）って戻（もど）ってきたんだから、1004歳（さい）っ！　うわー★　四桁（よんけた）はヤバいでしょ？　年齢（ねんれい）の話（はなし）は封印（ふういん）🔯　私（わたし）は永遠（えいえん）の超絶美少女（ちょうぜつびしょうじょ）13歳（さい）。それで良（い）いじゃない？　ね？