俺と手錠(ワッパ)と宇宙人
冷門 風之助
その1 プロローグ
車内アナウンスが、あと1時間で東京に着くと告げた時、俺は二本目のシナモンスティックを
口の中にほろ苦い香りが一杯に広がる。
”彼女”は殆ど表情を変えず、紅い特徴的な瞳の目を見開き、まっすぐ前を見つめていた。。
手を少し動かした。
銀色の
久しぶりに、”切れ者マリー”こと、警視庁外事課特殊捜査班主任、五十嵐真理が新宿の俺こと、私立探偵乾宗十郎の
『御無沙汰』
彼女はそれだけ言うと、ソファに腰を下ろし、足を組んだ。
タイトスカートのサイドに切れ込んだスリットから、見事な太股が深く覗けている。
『悪いけど、また仕事を頼みたいの』
そう言いながら、シガレットケースを開け、細巻のシガリロを赤く塗った爪でつまみ上げ、ジッポを鳴らして火を点けた。
『
『貴方、このところ仕事にあぶれてるんでしょう?ギャラは通常の倍増し、勿論実費も危険手当も同様。それからもし依頼を成功させたら、成功報酬だって倍、いえ、二倍以上は約束してよ。』
頭を上に向け、真っすぐに紫煙を天井に向かって吐く。
少し開けた窓から吹き込んでくる春の風が、煙を揺らげて直ぐに散らした。
『まず、
俺はオープン戦で気の毒なくらいの点差で三連敗し、マスク姿で球場入りする巨人原監督の不機嫌そうな目つきが一面に載っている新聞を投げ出し、デスクから足を下ろしてコーヒーを淹れるために、流しへと歩いていった。
二杯分のカップを盆に載せて戻り、彼女の前の
彼女はガラスの灰皿に半分喫ったシガリロを、灰を落とし、傍らにあったバッグの口金を開け、俺の方にファイルを持ってきて、
『まず、それを見て頂戴』
といい、元のソファに戻った。
黄色い表紙のファイルを開ける。
そこには数枚の女性の写真があり、何ページかのレポートが挟まれていた。
今からちょうど半年ほど前の事だ。
北海道の大雪山近郊に未確認飛行物体(UFO)が墜落したという緊急通報を受け、道警と陸自の第四普通科連隊合同チームによる、極秘の捜索隊が派遣され、現場検証が行われた。
墜落現場には銀色の大型飛行物体が殆ど無傷で発見され、中からは同じく銀色の宇宙服らしきものを着用した人型エイリアンが発見された。
それがこの写真に写っている”女性”である。
見事と言う他はない
細く切れ上がった眼は、ルビーよりも深い紅色をした瞳が光っている。
彼女は直ちに道警の護送車両に載せられて、そのまま道内にある警察病院に入れられた。
そこで細かい取り調べを受けたのだが、一切口を聞かない。
分かり得る限りのあらゆる言語で話しかけてみたのだが、一向に反応を示そうとしなかった。
筆談も試みたが、無駄な努力だった。
出された食事にも一切口を付けようとしない。
ただ、こちらの意図や質問については理解しているようである。
警察も自衛隊もお手上げの体であったが、その時、不思議なことが起こった。
たまたま”彼女”が収容された病室のすぐ隣が、殆ど同時刻に救急搬送されてきた重篤の”新型ウィルス性肺炎”を発症している老人が収容されていた隔離病棟だったのである。
警察の担当官が何度目かの同じ質問を終え、なお沈黙を続ける彼女に手を焼き、見張りを残して部屋を出ようとした時だった。
突然”彼女”が椅子から立ち上がり、目を大きくかっと見開き、何か甲高い声で叫んだ。
いや、叫んだというのは正解ではない。
”彼女”は声を発しなかったからだ。
声というより、それはトーンの高い、凡そ普通の人間が発するのは不可能な、
”音”だった。
しかし、その瞬間、隣室に収容されていた重篤の老人の症状が、瞬く間の内に改善されていったのだ。
高熱もひき、荒い呼吸も収まった。
念の為に直ぐ血液検査を行って調べたところ、何と老人の血中で確認されていた”新型ウィルス”が、完全に死滅していたのである。
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