第二章 魔法少女の誕生と、その活動内容 その4
「はあ……あの合コンにさえ行かなければ……」
今更悔やんでもしょうがないけど、そう思わずにはいられない。
あれ以降、ギデオンに憑りつかれた人間が現れるたびに、あたしはあちこちに駆り出された。
ギデオンに憑りつかれた人間を元に戻すことをあたしは『浄化』って呼んでるけど、その浄化をして回った。
最初のときみたいに人目のないところばかりだったわけじゃない。
人が一杯いるところでも、ギデオンに憑りつかれた人間は暴れまわる。
一刻も早く浄化しないといけないから、その場に参上するんだけど、当然人の目に触れる。
すると当然……噂になる。
人の目に触れる訳だからニュースにもなる。
ネルの言っていた通り、世界中に散らばったギデオンはあちこちで人間に取り憑き暴れまわる。
今やそのニュースは、常にトップで扱われる。
そうすると……それを浄化したあたしたちのことも知れ渡る。
まあ、この装備に備わっている隠蔽装置のお陰で、あたしの顔は丸出しなのにみんなには認識されていないのが救いだ。
なんでこんな装置が付いているのか聞いてみると、自分が捜査員だと周りに知られないようにするためだとか。
逆恨みとかあるのかな?
こうしてあたしたちの存在は、世界中の人々に知られることとなったのだが……。
「なんで魔法少女って呼ぶのよ……」
「それはしょうがないだろう。私もあのあと学習したが、あの姿は魔法少女以外に例える言葉が見つからない」
「それはそうかもしれないけど……」
「それよりも、だ……」
そう言ったネルは深い溜め息を吐いた。
「……なぜ、どいつもこいつも魔法少女になるのだ……」
「知らないわよ、そんなこと」
世界中に散ったネルの部下が見つけた適合者。
その世界中の適合者たちは、なぜか軒並みあたしと同じような魔法少女の姿に変身したのだそうだ。
なぜなら、適合者たちのほとんどが女の子だったから。
ということは、その子たちは皆が皆強い存在として魔法少女を思い浮かべたってことよね。
ジャパニメーション、恐るべし……。
そのことについては、まあいい。
あたしだって魔法少女のコスプレみたいなことになっちゃったんだし。
だが!
あたしにはどうしても納得いかないことがある。
それは……。
「やれやれ、ローティーンの女子が考えることは皆同じということか」
「あたしはハイティーンなんですけど!?」
そうなのだ。
あたし以外の適合者たちは、ほとんどが十代前半の少女たち。
小学生か、中学生になったばかりかのどちらかだという。
どういうこと?
あたし、高二の十七歳ですけど?
「まあ、恋に恋する年頃の少女たちが、一番ピュアだということか」
「ちょっと……それならあたしはどうなのよ?」
あたしがそう言うと、ネルは不思議そうな顔をした。
「麻衣もそうじゃないか? 知っているぞ、あの淳史という少年との未来を書き留めたノー……」
「ぎゃああっ! アンタ、ナニ見てんのよおっ!!」
「く、苦し……悪かったから手を放せ! く、首が……」
「忘れろ! 今すぐ忘れろおっ!!」
「わ、分かった! 分かったから!!」
「ふぅ~っ! ふぅ~っ!」
なんてこった、あたしの妄想満載の未来予想日記がコイツに読まれていたなんて!
「はあ……やれやれ、君が誰よりも強い力を持っているのも頷ける話だな」
「なんでよ?」
「その歳まで他の少女たちと同じ気持ちを維持していることだよ。大体はその歳になる前には現実を知るものだがね」
「……それって、あたしが子供だって言いたいわけ?」
「いやいや。それだけピュアだって言ってるのさ。君が他の子と比べて、群を抜いて強いのも納得だね」
なんだろう……コイツに言われると無性に腹が立つんだよね……。
「是非とも、そのピュアさを失わないでくれよ。それが君の強さになるんだからね」
「なんか、ずっと子供でいろって言われてるみたいなんですけど」
「そんな穿った捕らえ方をしないでくれよ。純粋に君のことを心配してるのだから」
「本当かしら……」
「もちろんだとも」
なんか、コイツの言うことは素直に聞けないんだよね。
騙されてこき使われてると感じてるからかな。
「まあいいや。もう昼休みが終わるから戻るわよ。もう一度言っとくけど、本当の緊急時以外は喋んないでよ?」
「分かった分かった」
信用ならないネルの言葉を聞きつつ、あたしは教室に戻った。
ああ、どうか、授業中にギデオンが現れませんように。
◆
ふう、やれやれ。
麻衣たちの青臭い恋愛事情を見ていると、つい口を挟みたくなってしまう。
さっさと告白するなりなんなりすればいいのに。
あの年頃の男なんて、ちょっと可愛い子からモーションをかけられたらイチコロだろう。
いやはや、おじさんには眩しくて見ていられないね。
だが、麻衣の力の源はその眩しいほどのピュアさ。
最初は分からなかったけれど、そのピュアさとは恋に対するものだ。
あの幼馴染の男、淳史と結ばれることを望んでいる。
それだけならどこにでもいる女の子だが、その結ばれ方というのが……。
まるで少女漫画のような告白シーンに、お互い恥じらいながらのファーストキス。
そしてムード満点の初体験などなど……。
初めて麻衣の秘密の妄想ノートを見たときは、見たこっちが身悶えしたものだ。
だが、それと同時に麻衣の心のピュアさも理解した。
彼女は、とにかく恋に対してピュアなのだ。
普通は成長していくにつれて現実的になっていくものだが、彼女にはそれがない。
いつまでたっても、恋に恋する少女のままだ。
それが彼女の心のピュアさ。
そのピュアな心に精神力探知機が反応したのだろう。
同じような考えを持つローティーンの少女たちが適合者として選ばれているのも納得できる。
とはいえ……適合者がことごとく魔法少女になるのはいかがなものか……。
これについて特に問題があるわけではない。
部下からの報告でも、順調にギデオンは駆除できているらしいからな。
あるとすれば、私たちの心の問題だ。
あれは、私たちの文化にはなかったものだからな。
実際、部下からの報告にも戸惑いの声が大きい。
そろそろ、魔法少女以外の適合者も現れてもらわないと……。
そういえば……条件に合いそうなのがいたな。
「試してみるか……」
思わず呟いてしまったら、麻衣にぶん殴られた。
痛いじゃないか。
◆
「麻衣、ギデオンの反応だ」
「またあ? 連日じゃん」
「愚痴ってもしょうがないだろう。相手は麻衣の都合には合わせてくれないのだから」
「分かってるわよ」
ある日の夜、夕食を済ませて自室で寛いでいると、ネルからギデオンが現れたと告げられた。
ちょっと最近、現れる頻度が多い気がする。
「ギデオンが地球に散らばってから時間が経っているからな。その間に成長したのだろう」
「ってことは……」
「これから連日……もしくは連戦の可能性もあるな」
「うええ……マジですか……」
ネルの言葉に辟易しながらも、ネックレスに向かって念を込める。
すると、あたしの姿は一瞬で例の……あの姿になる。
ネルから貰ったあの装備は、装備者が設定されると、その後常に身に付けられるものに変化する。
ネルの場合は腕輪(あたしからしたら指輪サイズだけど)
あたしは、ネックレスだ。
これは自分の意思で決められる。
ネックレスなら前からしてたし、特に違和感は持たれないだろうという考えから。
指輪は考えなかった。
そんなの嵌めて淳史に誤解されたら洒落にならないし、そもそも指輪は淳史から……。
「この状況でなんの妄想をしてるのかしらないが、早く行くぞ」
「分かってるわよ」
ネルは、すぐこうやってあたしの思考に割り込んでくる。
ちょっと幸せな妄想くらいさせてよね。
っと、愚痴を言ってる場合じゃない。
ギデオンが現れたのなら、何はともあれ行かないと。
アレは、実はあたしたちにしか対処できない。
どういう事かと言うと、ギデオンに取り憑かれた人間……世間では『悪魔憑き』という言葉で認知されているけど、その悪魔憑きに対処しようとしているのはあたしたちだけではない。
当然、警察も出動した。
だけどその結果は……。
制服警官だけじゃなく屈強な機動隊でも、明らかに特殊部隊っぽい人たちでも対処できなかった。
警察では戦力が足らないということで、とうとう自衛隊まで出てきたのだけど……。
結果は同じ。
日本では、悪魔憑きが相手とはいえ銃で撃つことはできなかったんだけど、海外で警察や軍が発砲しても駄目だったらしい。
どんだけ身体が強化されてるんだか……。
結局、日本でも世界でも悪魔憑きに対処できるのは装備の適合者だけ。
その尽くが魔法少女の格好だったために、魔法少女の名が一躍世界中に広まることに……。
もう広まっちゃったものは仕方がないし、それはいいんだけど……。
一つ、どうしても納得いかないことがある。
それは……。
魔法少女を目撃した人たちがネットで繰り広げている議論だ。
あたし以外の魔法少女については、あの地域に現れた子が可愛いだとか、この地域に現れた子の方が可愛いだとかそういう議論がされている。
装備の機能で顔は認識されていないけど、全体的な雰囲気で、だそうだ。
雰囲気が可愛いとかなんなんだろ?
それはまあ、別にいいんだけど……あたしを目撃した人たちの言葉がムカつくのだ。
なにが、魔法少女にしては歳がいってるだ!
魔法少女はローティーンだから可愛いだとか、あの体型で魔法少女の格好をしているとコスプレ感が否めないだとか、ひどいものだとイメクラなんて言う奴もいた。
現役の女子高生掴まえてなにがイメクラよ!
あたしだって、好きでこんな格好してんじゃないわよ!
この姿を想像したのはあたしだけども!
結局好きでこの格好してるってことか、チクショウ!
ギデオンに憑りつかれているわけでもないのに、仄暗い気持ちになりながら、部屋の窓をそっと開け、装備によって強化された身体能力をフルに使って夜の街に飛び出した。
「で? どっち?」
「この方角だ。急ごう、今回のギデオンは大分力が強そうだ」
「マジで!? 急がないと!」
あたしは民家の屋根を跳びはねながら現場に向かう。
ネルのいいようにこき使われるのはムカつくけど、こうして夜の街を跳び回るのは意外と気持ちいいんだよね。
なんていうか、自由に空を飛んでいる感じがして。
「む。いた、あそこだ!」
「オッケー、見つけた」
ネルの指す方を見ると、駅前で完全に自我を失って暴れまわる一人の女性がいた。
二十代半ばくらいかな?
スーツを着ているから社会人のお姉さんだと思う。
そのお姉さんが、駅前にあった自転車を片手で振り回して暴れている。
「うわあ……いつ見ても異様な光景だね……」
細身のお姉さんが、片手で自転車を振り回すという異常な光景に、とんでもない違和感を感じる。
けど、そんなことを言ってる場合じゃない。
早く止めないと、周りにも被害が出るし、お姉さん自身も危険だ。
なぜなら、悪魔憑きと呼ばれる人たちの身体は、ギデオンに無理矢理酷使されているだけ。
ギデオンを浄化すると操られていたときのことは覚えていないんだけど、意識を取り戻したあと、猛烈な筋肉痛に襲われるらしい。
筋肉痛ならまだ良い方で、対処が遅れると筋肉の断裂や骨折していることもある。
例の、海外で銃に撃たれた人は、全身の筋肉がボロボロで、今後の日常生活にも支障があるレベルの後遺症が残ったそうだ。
あたしたちの場合は、身体能力自体が強化されるから、そういう心配はないらしい。
……ネルから説明を受けたけど、詳しいことはよく分かんなかったのよ。
「よし、行くわよ……」
駅前ということで、人が一杯いる所に行かなきゃいけないから、意を決して、お姉さんの前に飛び出そうとした……。
そのときだった。
「待ちなさい!!」
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