姚興39 赫連勃勃独立  

柔然じゅうぜん王の社崙とろん姚興ようこうと和親条約を締結。

馬八千匹を献上物として仕立て、

特使らに黄河こうがを渡らせた。


この頃の姚興、一旦西方経営に

力点をおこうとしたようである。

柔然のほか、北魏ほくぎとも国交を回復した。


が、これが裏目に出る。


拓跋たくばつ氏と不倶戴天の敵として

常々争い合っていた匈奴きょうど鉄弗てつふつ部の長、

すなわち、劉勃勃りゅうぼつぼつ


かれは後秦こうしんと北魏の和議を知ると、激怒。

髙平こうへい公の沒奕于ぼつえきうを殺して決起、

かれの手勢数万を劫略。

その上で柔然の使者が率いていた

馬たちをも奪い、自らのものとする。


いきなり強大な軍勢を得た劉勃勃、

そのままオルドス地方を侵略して回り、

ついには赫連かくれんと改姓。

「自らは大夏だいかに連なる存在である」として、

夏という国号をぶちあげさえした。



では、北魏との間で

どのようなことがあったのか。


はじめ拓跋珪たくばつけいは、賀狄干がてきかんを使者とし、

馬千匹を手土産に、後秦との通婚を望む。

姚興もそれを受け入れたのだが、

まもなく拓跋珪は賀狄于を引き止め、

別に皇后を立て、後秦との婚儀を破棄。


どういう経緯でそうなったのかは謎だが、

後秦としてはメンツを潰されたわけで、

そりゃ“ケジメ”をつけねばならない。

柴璧さいへきの戰いとは、そういう戦いだったのだ。


が、柴壁が終わってしばし、

北魏にせよ後秦にせよ別に敵が存在し、

「今は」争うどころではなくなった。


ゆえに両者はいったんの友誼を求めた。

改めて賀狄于が後秦に派遣される。

すると姚興は国内より駿馬千頭を拠出、

これらによって狄伯支てきはくしらの返還を要請。

賀狄于を馬らとともに帰国させた。


北魏としても、

悪くない買い物だったようである。

こうして柴壁で囚われた狄伯支以下、

姚伯禽ようはくきん唐小方とうしょうほう姚梁國ようりょうこく康宦こうかんらは釈放。

帰還すると、もとの爵位に戻された。



このやり取りが、赫連勃勃には

日和り、茶番にしか映らなかったわけだ。

いや無茶言うな。


そこは純然たる騎馬民族と、

より農民にも近しいスタイルを築いていた

きょう族、と言うより後秦とに横たわる、

絶望的な空気感の差だったのだろう。


かくして後秦は南北に分裂、

その領土北半分を、

赫連勃勃に奪われたのである。




蠕蠕社崙與興和親、送馬八千匹、始濟河。興安北將軍劉勃勃忿興與魏交好、乃殺髙平公沒奕乾、以叛、收其眾數萬、邀留社崙馬。侵掠嶺北諸鎮、改姓赫連氏、僭稱大夏天王。先是、魏太祖遣賀狄干送馬千匹、求婚於秦。興許之、以魏別立后、遂止狄乾、而絕婚。故有柴璧之戰。至是興復與魏通和、乃遣使、請以駿馬千匹、贖狄伯支等、而遣賀狄、幹還魏。魏許之、放狄伯支、姚伯禽、唐小方、姚梁國、康宦等、還長安。興皆復其爵位、故勃勃因之而叛。


蠕蠕の社崙と興は和親し、馬八千匹を送り、始めて河を濟る。興の安北將軍の劉勃勃は興と魏の交好に忿り、乃ち髙平公の沒奕乾を殺し、以て叛じ、其の眾數萬を收め、邀え社崙が馬を留む。嶺北の諸鎮を侵掠し、赫連氏に姓を改め、大夏天王を僭稱す。是の先、魏の太祖は賀狄干を遣りて馬千匹を送り、秦に婚を求む。興は之を許せど、以て魏は別に后を立つらば、遂に狄乾を止め、婚を絕つ。故に柴璧の戰有り。是に至りて興は復た魏と通和し、乃ち使を遣り、以て駿馬千匹を請わしめ、狄伯支らを贖わんとせば、賀狄幹を遣りて魏に還ぜしむ。魏は之を許し、狄伯支、姚伯禽、唐小方、姚梁國、康宦らを放じ、長安に還ぜしむ。興は皆な其の爵位を復さば、故に勃勃は之に因りて叛ず。


(十六国56-9_仇隟)




お前……お前ェエエエ! まだ許す、晋書しんしょで沒奕干(於)と書かれてるのが沒奕乾になるのは! そうだな、ともに読みは「かん」だ、ならそこで表記揺れするのはやむない、やむないだろうさ! けどよ、なんで同じ条で賀狄干の表記が揺れとんのじゃこらああああああ! 三十分くらい大混乱のるつぼに陥ったぞこのやろおおおお!


というわけで赫連勃勃の離反についてのディテールが、少し色濃く載せられています。まぁ基本的には姚興載記に赫連勃勃載記を加えた感じですね。

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