姚興30 姚興舐めプされる

桓玄かんげんから使者が遣わされた。

要求は辛恭靖しんきょうせい何澹之かたんしの返還。


姚興ようこう、辛恭靖はとどめおき、

何澹之については返還に応じた。

なおこの時、姚興は何澹之に言っている。


「桓玄は時運をまともに見ようともせず、

 簒奪を図っている。


 天はいまだ、しんの世が去ったとは

 お考えではない。ならば簒奪に対し、

 間違いなくクーデターが起ころう。


 これら天の動きから推察するに、

 間違いなく桓玄は滅びよう。

 そなたを返還するのち、おそらくは、

 そのシーンに立ち会うこととなる。


 仮にすぐではなくとも、

 遅からず、その時は訪れよう」


姚興13で語ったことだが、

洛陽らくよう陥落時、守将であった辛恭靖は、

長安に連行後姚興に引き合わされるも、

姚興に対し拝礼はしなかった。

その気骨を快きものと感じたのだろう。

姚興は辛恭靖を抱き込もうとしたが

「うるせー腐れ羌賊」くらいのことを

言われたため怒り、幽閉していた。


そして、幽閉されていた辛恭靖。

桓玄が別途手引きをしたのだろう。

このタイミングで脱出、晋に帰還した。



一方このころ、北では。

北魏ほくぎ軍が太平たいへいに侵入。

太守の衡譚こうたんをとらえ、

三千あまりの人々を連れ去った。

北から南からちょっかい出され、

最悪である。



止まっているわけにはいかない。

姚興は三万の軍を編成した。

指揮官は姚碩德ようせきとく姚斂成ようれんせい姚壽都ようじゅとら。

ターゲットは仇池きゅうちである。


姚壽都らは宕昌とうしょうより仇池に入り、

姚斂成は下辯かべんより進軍。

姚碩德は本陣として、

その後ろに構える感じだろうか。


楊盛ようせいは弟の楊壽ようじゅに姚斂成を防がせ、

おいの楊斌ようひんに姚壽都を防がせる。


が、姚壽都の動きが早かった。

楊斌の姿を確認するなり強襲、捕縛。

楊壽らはビビり、即降参した。

そして姚碩德は軍を引き返す。


この書かれ方の感じだと、

仇池からもやや舐めプされていた、

という感じになるのだろう。

姚興さま、胃に穴が空きそーな毎日である。



一方では晋将の趙策ちょうさく

汝南じょなん郡を差し出し、

後秦に降ってきたりもした。




桓玄遣使來聘,請辛恭靖、何澹之。興留恭靖而遣澹之,謂曰:「桓玄不推計曆運,將圖篡逆,天未忘晉,必將有義舉,以吾觀之,終當傾覆。卿今馳往,必逢其敗,相見之期,遲不雲遠。」初,恭靖至長安,引見興而不拜,興曰:「朕將任卿以東南之事。」靖曰:「我寧為國家鬼,不為羌賊臣。」興怒,幽之別室。至是,恭靖亦逾牆遁歸。魏擒興寜北將軍太平太守衡譚、掠三千餘眾、而去。興遣其將姚碩德、姚斂成、姚壽都等率眾三萬,伐楊盛于仇池。壽都等入自宕昌,斂成從下辯而進。盛遣其弟壽距成,從子斌距都。都逆擊擒之,盡俘其眾。楊壽等懼,率眾請降。碩德還師。晉汝南太守趙策委守奔於興。


桓玄は使を遣わせ來聘し、辛恭靖、何澹之を請う。興は恭靖を留め澹之を遣り、謂いて曰く:「桓玄は曆運を計るを推さず、將に篡逆を圖らん。天は未だ晉を忘れずば、必ずや將に義舉有らん。吾れ之を觀たるを以て、終に當に傾覆すべからん。卿は今、馳せ往かば、必ずや其の敗に逢わん。相見えたるの期、遲くとも雲の遠きたらざらん」と。初、恭靖の長安に至れるに、興は引見せど拜さざらば、興は曰く:「朕は將に卿を以て東南の事を任ぜんとせん」と。靖は曰く:「我れ、寧ろ國家が鬼為るも、羌賊が臣為らず」と。興は怒り、之を別室に幽す。是に至り、恭靖は亦た牆を逾え遁れ歸す。魏は興が寜北將軍、太平太守の衡譚を擒え、三千餘眾を掠し去る。興は其の將の姚碩德、姚斂成、姚壽都らを遣りて眾三萬を率い楊盛を仇池に伐たしむ。壽都らは宕昌より入り、斂成は下辯より進む。盛は其の弟の壽を遣りて成を距がしめ、從子の斌に都を距がしむ。都は逆擊し之を擒え、其の眾を盡く俘とす。楊壽らは懼れ、眾を率い降ぜるを請う。碩德は師を還ず。晉の汝南太守の趙策は守を委ね興に奔ず。


(晋書117-23_識鑒)




ちなみに北魏の話は原文中に見えていません。何澹之についてはこののち桓玄配下として劉裕軍と戦うことになるわけです。それにしても、こうやって追ってるとわかるんですけど、東晋のこと調べたかったら周辺国家の歴史についても追っとかないと、やっぱり全然見えてきませんですね。中原戦記を開始しておいてよかったな、とつくづく思うのでした。だいぶ秦サイドからの晋の姿は見えやすくなってきた。まぁ燕サイドが全然ですが!

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