姚萇17 苟曜の裏切り  

姚萇ようちょうの配下であった苟曜こうよう

逆萬堡ぎゃくまんほに拠点を置いていたが、

ひそかに苻登ふとうに寝返り、

その軍を引き入れていた。


姚萇と苻登が馬頭原ばとうげんで戦うと、

姚萇は敗北。しかし姚萇、

いちど崩れた兵を立て直すと、

すぐさま再度戦いに臨む。


陣内には疑念が渦巻いていたのだろう。

なので姚碩德ようせきとくが、配下に呼びかけている。


「陛下は軽々な戦いを行われる方ではない。

 常に計略をもって臨まれる方だ。

 ならば緒戦に敗北したにもかかわらず、

 すぐさま再戦を挑まれるのにも、

 必ずやお考えがあるのだ」


それを聞いた姚萇、姚碩德に言っている。


「苻登の用兵は緩慢、

 およそ虚実という概念を知らねえ。

 そんなやつだってのに、オレが兵を

 ちょちょっと動かしたところで、

 すぐに東につけてきやがった。


 間違いない、苟曜が

 やつと手を結んでいる。


 この状況を引きずれば、

 どんな事態が引き起こされるか

 分かったもんじゃねえ。


 だから、すぐに動くのよ。

 ここまでは苟曜の手引きで

 うまく動けただろうが、

 ここから先はやつひとりで

 判断しなきゃならねえ。


 やつの判断速度じゃ、

 オレにはついてこれねえ。

 だから後は、ちょちょいって

 蹴散らしてやれるさ」


姚萇の見立て通り、次の戦いでは快勝。

苻登はまで下がった。


ここで苻登の配下将であった強金槌きょうきんつい

新平しんへいを引っ提げ、姚萇に投降してきた。

すると姚萇、わずか数百騎を引き連れ、

強金槌の拠点に出向く。


金槌が暗殺考えてたらどうすんですか、

配下たちは姚萇を止めようとしたが、

姚萇は言う。


「強金槌は苻登を裏切ったんだぞ。

 ここで更にオレを殺してみろ、

 どうやってこの争乱の中を

 生き延びられるってんだ?


 しかも、オレを頼って

 命を預けようって言ってきたやつに、

 オレが疑いの目を向けちまったら、

 その後どうやって配下を引っ張れる?」


実のところ強金槌の配下将たちは

姚萇を殺す気満々ではあったのだが、

他ならぬ強金槌がそれを抑え込んでいた。


そのため暗殺計画は始動しなかった。




鎮東苟曜據逆萬堡,密引苻登。萇與登戰,敗于馬頭原,收眾復戰。姚碩德謂諸將曰:「上慎于輕戰,每欲以計取之。今戰既失利,而更逼賊者,必有由也。」萇聞而謂碩德曰:「登用兵遲緩,不識虛實,今輕兵直進,逕據吾東,必苟曜豎子與之連結也。事久變成,其禍難測。所以速戰者,欲使豎子謀之未就,好之未深,散敗其事耳。」進戰,大敗之,登退屯於郿。登將金槌以新平降萇,萇輕將數百騎入槌營。群下諫之,萇曰:「槌既去苻登,復欲圖我,將安所歸!且懷德初附,推款委質,吾復以不信待之,何以禦物乎!」群氐果有異謀,槌不從而止。


鎮東の苟曜は逆萬堡に據し、密かに苻登を引く。萇と登は戰い、馬頭原にて敗れ、眾を收め復た戰う。姚碩德は諸將に謂いて曰く:「上は輕戰を慎しみ、每に計を以て之を取らんと欲す。今戰は既に利を失い、更に賊に逼らんとせるは、必ずや由を有したるなり」と。萇は聞きて碩德に謂いて曰く:「登が用兵は遲緩にして虛實を識らず、今、輕に兵を直ちに進めたれば、逕ちに吾が東に據したり、必ずや苟曜は豎子と與に之れ連結したるなり。事に久しく變成らば、其の禍は測り難し。速戰せる所以は、豎子をして之を謀らしむを欲せど未だ就かず、之を好めど未だ深からず、其の事に散敗せるのみ」と。進みて戰い、大いに之を敗り、登は退きて郿に屯ず。登が將の金槌は新平を以て萇に降じ、萇は輕に數百騎を將い槌が營に入る。群下は之を諫まえど、萇は曰く:「槌は既に苻登を去りたり、復た我を圖らんと欲し、將た安んぞ歸る所あらんか! 且つ德を懷きて初に附し、款を推し委質せるに、吾れ復た不信を以て之を待さば、何ぞを以て物を禦さんか!」と。群氐に果して異謀有れど、槌は從わず止む。


(晋書116-17_妙計)




ここに書いてあるほどきっちり姚萇が状況を見極めきれたとはさすがに思わないし、この余裕も幾分盛られてるでしょって感じはしなくもないです。にしたって、この戦いに次ぐ戦いを勝ち抜いてるのはすごい。


ところで次の話に姚襄ようじょうの話が出てくるんですが、姚襄はいま劉備りゅうびかってくらいに人々からの信望を得ていたそうです。ラストのセリフには、そういう兄貴の背中を意識してるんじゃないかってふいんきもありますね。

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