楊氏毛氏 リアルくっ殺案件

苻丕ふひ皇后 よう

苻登ふとう皇后 もう



苻丕の后は楊氏。仇池きゅうちてい人である。

楊膺ようようの妹で、長樂ちょうらく公となった苻丕に嫁いだ。

苻丕が即位したところで皇后に。

が、間もなく苻丕は慕容永ぼようえいにコテンパン。

逃げたところで馮該ふうがいに殺された。


主なき長子ちょうしに進出した慕容永、

楊氏を見て后に迎えたい、と言い出す。

そしたら楊氏に刺されちゃった。


ので、慕容永は楊氏を殺した。

後に苻登が即位したとき、楊氏には

哀平皇后あいへいこうごうと諡された。



そんな苻登の后は、毛氏。

苻登の面倒を見た毛興もうこうの娘だ。

あらためて毛興さんが苻登を

重んじていたんだなとほっこりするし、

衛平えいへいもそりゃ殺されるわと納得である。


毛氏は美人で、武人。

「勇壯にして騎射を善くす」。カコイイ。

387 年に皇后となった――が、389 年。

苻登が姚萇ようちょうをイケイケで攻め立て、

毛氏や輜重は大界の陣に待機させていたが、

そこに姚萇が強襲。陥落させてしまう。


ドカドカと押し入る姚萇軍。

対する毛氏は、それでもなお

自ら弓を引き、馬にまたがり、

数百の兵士らとともに姚萇軍を迎撃、

700 人あまりの敵を葬った。


とは言え、衆寡敵せず。捕まってしまう。


姚萇、毛氏の美しさに一発で惚れる。

も、毛ちゃん! ワイの嫁においで!

迫る姚萇。しかし毛氏は言い放つ。


「くっ、殺せ!


 天子に寄り添うものが、

 どうして汚らわしいゴミ羌に

 辱められることを受け入れられよう!


さらに毛氏は天を仰ぎ、慟哭する。


「姚萇は無道なり!

 貴様は先帝を殺すに飽き足らず、

 更には皇后をも穢そうてか!

 天地は貴様をお許しになぞなるまい!」


姚萇は怒り、毛氏を殺した。




丕后楊氏、仇池氐人。征東左司馬楊膺之妹也。初、為長樂公妃。太安初、立為皇后。慕容永殺丕據長子、即皇帝位、改元中興、將以楊氏為上夫人。楊氏不從、引劍刺永、為永所殺。登既嗣位、追謚曰哀平皇后。

登後毛氏、武都人、河州牧毛興之女也。美而勇壯、善騎射。太初二年、立為皇后。其四年、登留毛氏及輜重於大界營、姚萇率兵襲之。營壘既陷、萇入其營。毛氏猶彎弓跨馬、率壯士數百、與萇交戰、殺賊七百餘人。眾寡不敵、為萇所執。毛氏有姿色、萇欲納之。毛氏罵曰:「天子皇后、安肯為賊羌所辱?何不速殺我!」因仰天、大哭曰:「姚萇無道、汝先已害天子、今又欲辱皇后!皇天后土、寜容汝乎!」萇怒殺之。


丕が后の楊氏は仇池氐人にして征東左司馬の楊膺の妹なり。初、長樂公妃と為る。太安の初、立ちて皇后と為る。慕容永の丕を殺し長子に據して皇帝位に即き中興と改元せるに、將に楊氏を以て上夫人為らしめんとす。楊氏は從わず、劍を引きて永を刺さんとせば、永に殺さる所と為る。登の既に位を嗣ぐに、追謚して哀平皇后と曰う。

登が後の毛氏は武都人、河州牧の毛興の女なり。美しく勇壯にして騎射を善くす。太初二年、立ちて皇后と為る。其の四年、登は毛氏及び輜重を大界營に留まば、姚萇は兵を率い之を襲う。營壘は既に陷ち、萇は其の營に入る。毛氏は猶お弓を彎き馬に跨がり、壯士數百を率い、萇と交戰し賊七百餘人を殺す。眾寡敵せず、萇に執わる所と為る。毛氏に姿色有らば萇は之を納めんと欲す。毛氏は罵りて曰く:「天子の皇后、安んぞ賊羌に辱むる所と為るを肯んか? 何ぞ速やかに我を殺さんか!」と。因りて天を仰ぎ、大哭して曰く:「姚萇は無道なり! 汝は先に已に天子を害し、今又た皇后を辱めんと欲さんか! 皇天后土、寜んぞ汝を容れんか!」と。萇は怒り之を殺す。


(十六国41-9_賢媛)




両名とも、後世の創作ではいろいろ(おにちくすぎてみせられないよ!)な扱いを受けたっぽいですね。こういう歴史があるからこそ、いわゆる「くっ殺」はジャンルとして輝くのでしょう。


殺しまくると犯しまくりたくなる、とも聞くからねえ。このへんは人間の生存本能からすれば、「自分と同じ姿形をしたものを殺す」→「自らの死をも想像してしまう」ってルーチンが働いてしまう以上不可避なんでしょう。


ちょっと話がそれるけど、デーヴグロスマン「人殺しの心理学」はそのへんについて語ってて面白かったです。我々が思うほど人間って命じられたからと言って人は殺せないし、それを突き詰めると「自分を殺しているかのように感じる」みたいなことが書かれる。それは「人間としての自我」が育ちきらない、当時の人にとっても近い感覚だったんじゃないかなって思う。


戦争は人間を興奮させるんではなく、生き残った者の「生への渇望」を異常亢進させるのではないかな。そしたら、この環境下で楊氏毛氏が(可愛い猫の画像で心を和ませてください)となった可能性も、十分に考えられるのだろうね。


許しがたいものと言いたいが、現代に至っても根絶できないものであり、オロカナニンゲンドモはやはり滅ぶしかない。

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