第5話 糞
「ウソ……だろ……!?」
そりゃそうだ。ドラゴンは馬じゃない。体も馬の2倍くらいある。
「うんこ、でかすぎだろ!」
竜房掃除に臨んで、最初に思ったことが口に出た。
ただ、何がすごいってちゃんとトイレにしてるってことだ。寝ワラの上は一切キレイである。
まず、うんこもといフン(馬のはボロと言う)は、竜房の端っこに設置されている台の上に網が張っている上にする。その網は外せるので一輪車に回収するのが非常に楽だ。ただし、めちゃめちゃでかいのですごい重量だ。
潰れた寝ワラをほぐし、必要なら新しい寝ワラを追加したり、古い寝ワラを取り除いたりしてひとつの竜房掃除が完了する。
思ってたよりもずっと楽だ。
ここまで房をキレイに使ってくれると、厩舎そのものもキレイに保てるし、当然掃除も楽なわけだ。
「けっこう早いね」
「掃除は馬の方が大変かも」
「そうなんだ? 後は、各ドラゴンによって好みの寝ワラの敷き方があったりするから、それは追々覚えていくとドラゴンから好かれやすくなるよ」
なるほど、確かに今掃除した竜房でも寝ワラが一方に偏っていた。寝る時に頭の位置を山にしたり、腹の下に置いたりと好みがそれぞれによって違うらしい。
そして、竜房掃除をしていて気づいたことがある。
やっぱりこの世界は日本語じゃない。なぜかレージは日本語で喋ってそれが通じているが、文字はそうじゃないとはっきり分からせてくれた。
竜房のところにはそれぞれドラゴンの名前が書いてあるようなのだが、
「まったくわからん」
それが全く読めない文字だったのだ。
パッと見ではどれも同じような文字で、ぐちゃぐちゃっとしている。
「あのう、テルさんテルさん。これなんて書いてあるの?」
「え、もしかして文字読めない?」
「はい……」
あららと言ったテルは、すぐになにかを思いついて得意気になる。
「そしたら、後で魔法を教えるのと同時に文字も教えてあげるね。このテル先生が!」
「おお、テル先生!」
芝居がかった言葉にレージも乗っかる。
別に嫌味がかった感じもなく、むしろ楽しみだなと思う。
日の出からオーイツも起きてきて、三人で竜房掃除を終わらせる。
「いやあ、助かるぜ! 筋がいいじゃねぇか!」
オーイツに褒められて、満更でもない。
ただ、竜房掃除の筋が良いってなんだろうか……。
「それじゃ、ご飯にしよっか!」
全部のドラゴンを竜房に戻し、ドラゴンのご飯を用意する。
ドラゴンって何食うんだ?
「じゃあこの一輪車を押して、スコップで外から檻の中の餌箱に入れてね」
それは固形のキューブだった。馬の餌は乾燥させた草をキューブ状にしたものだが、それによく似ている。
ただ、色が茶色い。
「これ、なにを加工したものなの?」
「それはね、草と魔物の肉をミンチにして、乾燥させてキューブ状に加工したものなの」
まもの……?
そうか、ドラゴンがいるんだから魔物と呼ばれる不特定多数の生物もいるよね。
「ドラゴンは雑食なんだけど、結構いろんな栄養が必要なのよ。このキューブにそれらがギュッと入ってて、すごく便利なの。野生のドラゴンは草を食べたり、魔物を狩って食べたり忙しい生物なんだよ」
なんともピンとこないが、とりあえず一輪車からスコップで餌箱に入れていく。量はスコップ三杯程度。
餌箱にキューブを入れると、ドラゴンがコッチを向いてのそのそとご飯を食べ始めた。
バリボリバリボリ食べているが、がっつく様子はない。そこまでご飯に対して執着しないのかもしれない。
ご飯を食べてるドラゴンの顔は、なんとなく愛着が沸いた。
「さっ、私たちも戻ってご飯にしよっか!」
テルの声と共に家に戻る。
朝から汗をかいて、清々しい。
「よし、がんばろっ」
幸先の良いスタートを切れたことに、レージは誰にも聞こえないように呟き、小さく右手を握り締めたのだった。
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